第七十話 シーレント王国での出来事 その1
「そんな! アリア様からお代なんて頂けません!」
「ダメ! プロなら誰が相手でもちゃんとお金をもらわないと!」
そう言ってアリアは店主にお金を払う。
俺たちは今宿屋に来ている。
何故か?
それはアリィの提案だ。
と言うのも泊まる為に城に行けばそのまま出られなくなる可能性もあり、宿屋に泊まるといった選択になった。
俺たちがいるのは『潮風の宿』と言ってこの辺りでは一番高級な宿だ。
まず、入ってすぐのエントランスは魔法宝具を使い、照明、空調が調節されている。
装飾に関しても、煌びやかな内装だけどいやらしさを感じさせない。
まぁ、俺は場違いな感じがするけどよかよく思えば、王族やイストニア帝国の要人、大商会の子が泊まるのに普通の宿では問題になる事もあるだろう。
お金に関してもアースハイト王国を出る時に『ドラゴンを倒したのとドラゴンの遺体の提供料、そして戦争の貢献』としてロイのお父さんから白金貨一枚もらった。
俺は白金貨なんて見た事もなかったし何かの魔法宝具と思ったけどロイ達が呆然としていたので聞いたら白金貨と言われ、腰を抜かした。
俺は返そうとしたけど、それくらいの仕事をしてくれたからと言われ恐れながらも受け取った。
お金はロイのお父さんがギルドに推薦してギルドカードを作ってくれてそこに預けてある。
と言うのも、ギルドは銀行も兼ねているので都市では冒険者でなくてもギルドカードを作ってお金を預ける人が多いようだ。
なので、俺以外はみんな都市暮らしなので持っていた。
それにギルドは独立しており、どの国に対しても中立な為に世界共通で通用する。
ちなみに俺はロイのお父さんの推薦文に今までの事を書いて出した事もあり、冒険者ランクはAランクになっている。
推薦と言えども異例の事らしい。
という事で、お金に困る事は今のところない。
ロイ達も生まれが生まれなのでお金には困らないだろう。
「じゃぁ、部屋に行きましょう! あっ、これお父様に届けといてくれる?」
アリィは部屋の鍵を二つ受け取り、代わりに文を受付の者に渡し、チップとして銀貨一枚を渡した。
「アリィ、お金払うから。いくらだった?」
「別にいいわよ。私が言い出したし私の国だから。客人は招待しないとね?」
「いいのか? じゃぁお言葉に甘えて……。ちなみにいくらだったんだ」
「んー……一人銀貨五枚くらいだったかな? 分かんなーい」
一人銀貨五枚だと!?
それは高すぎだろ!
安い宿で素泊まり銅貨3〜5枚を考えれば破格の値段だ。
まさか、俺たちが世間知らずと思ってふっかけたのか?
いや、お代は受け取れないと言ってた上に王族と知ってる様子だったし、その線は薄いか。
だとすると本当なのだろう。
しかし、アリィ達の金銭感覚は……検証する必要がある。
俺はみんなを集めた。
「はい、問題! 庶民の食事、まぁ外で店で食べると考えて一食あたりの相場はどれくらいでしょうか?」
みんなは俺の言葉にポカーンとした表情を浮かべている。
「さぁ、考えて答えて!」
「うーん……銅貨五枚くらいかな?」
「いやいや、銅貨じゃ食べれないでしょ? 銀貨三枚くらい?」
「んー、じゃぁ私はお姉様方の間を取って銀貨二枚!」
「……銀貨一枚か?」
「ふん、金貨一枚だな」
……ダメだ。
完全に金銭感覚がマヒしてる。
銅貨じゃ食べれないってアリィは庶民にケンカ売ってるのか?
しかも、金貨ってなんだ!?
そんなんだったらとっくにみんな餓死してる。
ウィルは本気か天然か分からない。
ソニンも間ってなんだ!?
物価が話し合いの間ばっかで決まったら困る!
常識人だと思ってたロイでさえダメだ。
社会的な常識があっても金銭的な常識はない。
俺がロイに常識を教える日がくるとは。
まぁシャーリーが一番近いけど……。
んー……ダメだ。
このままではいずれ破産、もしくは、騙されて巻き上げられてしまう。
俺は頭を抱えしゃがみ込んだ。
……よし!!
俺は勢い良く立ち上がった。
「みんな! 部屋に入ってひと段落したら俺のところに集合!!」
その後、俺は夕方まで『庶民の金銭感覚と値引き交渉の心得』という講座を開き、みんなに徹底的に叩き込んだ。




