第六十八話 事件です
これはハル=アイディールが独自の視点で事件をまとめたものである。
なお、一部主観的な記録があるがご了承願いたい。
ケース1
被疑者ロイ、被害者ウィル。
それは出発した日の昼だった。
馬車を止めて昼食を食べてる途中で、それは起こった。
「ほぅ、なかなかおいしいな」
「でしょ!? 私たち三人で作ったんだから! ねぇ〜?」
俺は空間魔法で物を収容できると分かった段階から荷物持ちになっている。
だから、普通なら旅で食べられるはずのない食材、持って行けない調理器具を使える為、本格的な料理ができる。
シーレント王国では身分が高くてもちゃんと男性の胃袋を掴むようにと、女性は小さい時から料理を母親から習うみたいだ。
今日はアリィとシャーリーがソニンに料理を教えながら三人で作ったらしい。
ちなみにメニューは魚介と野菜を煮込んだスープに肉を焼き果実酒と調味料を合わせて煮詰めたソースをかけたものとサラダとパンだ。
あたりにいい匂いが立ち込めている。
さすが、裕福な家の出身、昼からフルコースだ。
でも、美味しい料理が食べられるのは嬉しいけど荷物持ちと言葉にすると納得できない。
そんな中、またロイの悪いクセが始まった。
「ほぅ、ウィルの舌はまともなんだな?」
「何を!? ……ふん、一度どちらが上かハッキリさせてやる! 来い!」
「まぁいいか。軽くひねってやるよ」
二人はそう言って立ち上がり、剣を構えた。
……ザーッ!!
その時、二人の上から水が落ちてきた。
水というよりは滝。
まさに『滝修行』と呼ばれるものを想像できるものだ。
「何やってるの!? 食べてる時は仲良くしなさい!」
「お兄様も! せっかく作ったのに……食べ物は最後まで食べて大事にしてください!!」
二人は悲しくも言い返せず、しょんぼりと反省した。
それにしても、ソニンの奴、アリィの影響を受けているのだろうか?
二人に下された判決は……。
『ケンカ両成敗』
二人は自分達が悪かった事もあり、その後大人しく一時間アリィに説教される。
ウィルはかわいそうだけど仕方ない。
その後、二人は自分の行動を反省したのか少し距離縮まったみたいだ。
俺はこの時ばかりは荷物持ちの仕事に誇りを持ち、一人黙々と収納作業をしていた。
ケース2
被疑者ウィル、被害者……俺。
出発した日の三時のティータイム。
何故ティータイムかというとアリィ曰く、女性には必要、それに今回は初めて一緒に行動する以上、仲間との交流は必要だから今日だけは絶対すると言われたからだ。
まぁ、お茶やちょっとしたおやつを食べながらいろんな話をしてる途中、一緒に旅する中でウィルとソニンにも俺の事知っておいてもらった方が良いだろうと今までの事を話す事にした。
「……って事なんだ」
俺は今までの事を、ウィルとソニンに話した。
二人は俺が予想外の人生を送っていたからか複雑な表情で話を聞いていた。
まるで、お通夜状態。
楽しいティータイムを暗くしてしまった罪悪感で俺まで暗くなっていた。
「……ハル、辛かっただろう、寂しかっただろう。何も言うな。今日は特別に俺の胸を貸してやろう」
……えっ!?
俺別に今悲しんでないし、ティータイムを暗くした事を考えてただけなのに。
………まさか!?
それが誤解されているのだろうか!?
ウィルは真面目な顔して両手を広げている。
その横でソニンは頷いている。
この二人は天然か!?
周りを見るとロイは笑いをこらえ、アリィとシャーリーは戸惑っている。
「さぁ! 早く!」
嫌だ!!
何が『早く』だ!!
胸を借りるならシャーリーがいい!!!
……その後、必死に説明し、なんとか誤解を解いて納得してもらえた。
でも、ウィルはこの一件以来、少し態度が軟化した。
ソニンは……あいつはあまり変わりがないようだけどちょっとは距離が縮まった気がする。
判決……。
『不起訴処分』
ウィルは悪気がなかった為、不起訴処分になった。
でも、もしあのまま俺がウィルの胸に飛び込んでいたら逆に俺に新たな疑惑が浮上していたかもしれない……。
ケース3ーー……
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「ふぅ〜」
俺は馬車に揺られながら、今までの数々の事件を思い出しながら行く先をみた。
なんだかんだで事件があり、その度に予定より移動時間が短くなって、シーレント王国への到着が遅れている。
しかし、あの山を越えればシーレント王国だ。
「ハル、どうした? 遠い目をして? また昔を思い出したか?」
ウィルは俺が心ここにあらずな様子だった為か、心配して声をかける。
「い、いや! 遠くを見たら視力が良くなるって言うから!」
しまった!
焦って苦し紛れにかなり嘘くさい事を言ってしまった。
……その後、俺は『エターナル・ログ』の知識だからと、かなり苦しい熱弁をしながらその場を乗り切った。




