第六十三話 事情を説明します
イストニア帝国の兵士の撤退の目処がたった後、俺は禁術を使いアースハイト王国陣営へのゲートを開いた。
この魔法は、一度行った場所と今現在いる場所の道をイメージの中で圧縮する事で、距離をショートカットする。
ちなみに、魔力の消費が激しいのと結ぶ距離が長くなれば長くなる程、魔力が必要なので古代人種みたいに魔力量が多くないと使えないし、俺しか使えないってのもあながち間違いではない。
ロイ達もそこそこの距離はいけるかもしれないけど途中で魔力切れになったら危ないのでやめた方がいいだろう。
「じゃぁ行こうか」
「……全く、本当に常識外れだな」
「こんな事が……」
「何よ!? あなた無茶苦茶じゃない!!」
「貴様やるな……しかし、俺は負けん!」
いやいや!
戦わないですから!!
この場合は四人だから四者四様になるのだろうか?
それぞれ俺の魔法に反応を示した。
まぁ、何を言われても気にしない。
それに、さっきまで暗かった空気が少し変わったのでよしとしておこう。
ちなみに、イストニア帝国の兵士はレドニン直近の幹部の指揮により本国へ撤退を始めている。
なので、ウィルハート、ソニン、レドニンは今回の戦争の重要参考人としてアースハイト陣営に向かう事になっている。
「ただいま!」
「えっ!? ハル君!?」
「ロイ君!?」
「おぉ!! 無事帰ったか!!! ……その者達は?」
あっ、イストニア兵士の和睦の使者に伝言の文を持たせたけど魔法で追い抜いちゃったか。
こんな事ならあれを使えば良かった。
次からはあれを使おう。
とりあえず俺とロイはとり急ぎ、今までの事情を説明した。
「ふむ、そんな事があったのか……とにかく二人が無事で良かった。そして、君たちも災難……いや、そんな言葉では済ませられないな」
「ロイ君……そんな危険な事が……あぁ、何か力が抜けてきた」
「ハル君……無事に帰ってきてくれて良かった……でも無茶し過ぎだよ…… 」
こちらはこちらで三者三様の反応だ。
とりあえず俺は(おそらくロイも)女性陣からの説教(?)を受ける覚悟をした。
でも、ロイのお父さんはイストニア帝国三兄弟の境遇に理解を示している様子だ。
「僕からダビドの事、イストニア帝国で起きた事を説明させてもらいます」
そう言うとレドニンは今までの経緯の説明を始めた。
レドニンが言うには約一年前、ゴルゾーラ教の司教を名乗るダビドが布教の許可を願いに城を訪れた。
最初は聞いた事もない宗教に怪しさを感じていた皇帝だったけど、ダビドは無詠唱や魔力操作をウィルハートやソニンに教え、ゴルゾーラ教の凄さを皇帝に見せ取り入った。
そこから皇帝は変わった。
ウィルハートとソニンが強くなるにつれ皇帝はダビドの言う事を聞くようになり、ダビドを常に側に置くようになった。
そして、事件が起きる。
ある朝、皇帝の妻が何者かに暗殺された。
その時、怪しい者が侵入していたのをダビドが発見。
尋問の結果、アースハイトの者だと言い、それがきっかけで戦争に傾いた。
その際、尋問された者はダビドによりすぐに処刑される。
それで一連の流れを不審に思ったレドニンはダビドの周りを調査したけど、なかなか証拠が見つからなかった。
ダビドが戦争に出た後、すぐにダビドの部屋を調べると尋問された者とダビドの関係を示す文が見つかった。
本来ならアースハイトの者と証言した段階でダビドが牢屋から逃し、報奨金を払う手はずの約束だったのかもしれない。
しかし、ダビドは利用するだけ利用して殺した。
おそらくそんなところだろうという事だ。
尋問された者は死にダビドは逃げた。
真相は分からないけど、ダビドのあの反応からあながし間違いではないだろう。
「すべてはダビドとかいう奴の手の平で躍らされてたという事か」
「父さん、その事なんだけどー……」
「分かっておる。こちらはほぼ被害もないし今回はおまえ達二人の戦果だ。だから、おまえ達の言う通りにしよう」
ロイのお父さんは全てを悟った上で、周りも納得するもっともらしい理由をつけて答えてくれた。
こういう時のロイのお父さんを見ると理解のある素晴らしい国王なのに……。
「ありがとう、父さん」
「心遣いありがとうございます」
ロイの言葉に続きウィルハートが頭を下げる。
それに続き、ソニン、レドニンも頭を下げた。
やっぱりウィルハートは単なる自己中我が儘な奴じゃないのだろう。
そんなウィルハートを見ていたロイのお父さんが口を開く。
「ウィルハート君……君は弟に皇帝の座を譲ってどうするつもりだい?」




