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第六十二話 対イストニア帝国 その10

 「今回の戦争、首謀者は逃亡、騎士達の突撃の前という事もあり直接的な被害は少ない。そしてハルのおかげもあってそちらの兵士の被害も少ないはずだ。俺の一存では何とも言えないが口添えする事を約束しよう」


 ロイはレドニンに声をかける。

 ヤバイ……ロイがものすごくかっこよく見えてしまう!

 アリィがいたら惚れ直していただろう。


 「……いいのですか?」

 「あぁ。確実にとは言えないけどな。その代わり落ち着いたらイストニア帝国で何があったか教えてほしい」

 「分かりました。では、今回の事、知っている事は全部お話させて頂きます」


 程なくしてイストニア帝国の兵士達の間に撤退と皇帝の死、指揮権がレドニンに移ったと伝令が送られ、戦争は終息へ向かった。

 そして、俺たちは皇帝の元に向かう。

 そこには遺体をただ一点見つめながら前に立ち尽くしているウィルハートの姿がある。


 「ウィルハート……良かったら火葬しようか?」

 「……頼む、すまない」


 俺はレドニンと話してこれからいろいろある事を考えるとイストニア帝国に戻るのが遅くなると考え、皇帝の遺体を火葬する事を提案した。

 レドニンには是非ともと言われ、落ち着いたソニンからもお願いしますと、二人からは了承を得ていた。

 しかし、二人とも兄の意見を優先して欲しいとの事だったので、半ば断られるのを覚悟の元、ウィルハートに申し出た。

 ウィルハートは意に反して、頼むと言ってきた。

 やっぱりこいつは口は悪いだけで、根から悪いやつじゃないのかもしれない。

 俺、ロイ、ウィルハート、ソニン、レドニン、そして数名のイストニア帝国の幹部立会いの元、俺とロイの魔法により遺体を火葬した。

 ソニンは号泣していて、レドニンは落ち着いているように見えるけど、目に涙を浮かべている。

 そんな二人を支えるかのように、二人の背中に手を当てているウィルハートの姿は印象的だった。

 そして、ウィルハートだけは涙する事なく、決意の眼差しで燃え盛る遺体を見ていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 戦いの後、しばらくしてとある場所では……。


 「……ダビド戻ったか」

 「はい。しかし、大司教様に命じられたハルという者の抹殺は失敗に終わりました。申し訳ありません」


 今までのダビドの姿からは想像できない姿がそこにはあった。


 「……何があった? 話してみよ」


「はっ! アースハイト王国との戦争で二人の青年がイストニア帝国陣営に突撃してきました。その二人は魔力操作、無詠唱を使い、私が教えたイストニア帝国の二人を軽く無力化させました。その際、魔人化の実験で皇帝を魔人化させ対抗させましたが……まだまだ研究の必要がありそうです。そして、その二人の青年、そのうち一人はアースハイト王国の第二王子でもう一人はハル=アイディールとー……」


 「何!?」


 (まさか!? ……あの時、時空に出来た跡を辿ってきたつもりだが、着地点に誤差が出たのか。ハルが青年になっていて力を持っているとは……もしやあの時の黒王竜も? ……少々やっかいだな)


 「……大司教様?」

 「まぁよい。引き続き魔人化の方を研究せよ」

 「はっ! でもハル=アイディールの件は……」

 「私が行きましょう!」

 「……うむ。任せよう。しかし、ハル=アイディールの件はついでだ。くれぐれもそれを理解して動け」

 「はっ!」


 ゴルゾーラ教が新たに動き出そうとしていた。

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