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第六十一話 対イストニア帝国 その9

 「うぉぉぉ!!!」


 ウィルハートが皇帝にとどめを、父親に引導を渡す為、魔力操作をし、スピードを上げ、さらに魔力を剣に宿し皇帝を斬り抜けた。


 「ウィル……ソニン……レドニン……すまな……い……」


 ウィルハートが背後に抜けると皇帝の上半身がゆっくり崩れ落ちた。

 死ぬ直前、闇の精霊から解放されたのか皇帝はウィルハート達に謝罪の言葉を口にして亡くなった。


 「お父様……」

 「父上……」

 「……」


 イストニア帝国の三兄弟は、自分の父親が死んだ事にショックを隠せないのだろう。

 三人はさっきの言葉以降、声を発していない。

 俺達の間に沈黙が流れる。

 でも、無理もない。

 自分の父親が闇に飲まれ魔人化し、自分達にキバを向けた。

 そして、自分達の前で……そして自分の手で引導を渡したのだから……。

 しかし、ウィルハートだけはショックを受けている以外に何かを考えている様子だ。


 「……皇帝陛下の事は残念だった」


 沈黙を破るように口を開いたのはロイだった。

 みんなロイの方に視線を向ける。


 「いろいろ聞きたい事があるけど、まず双方の被害が広がる前にこの戦争を何とかしたい。イストニア帝国はこのまま戦争を続けるつもりなのか?」


 ロイの言葉の後にしばらく沈黙が流れ、ソニンとレドニンがウィルハートに視線を送る。

 ウィルハートは立ちすくんだまま、しばらく考えた後に口を開いた。


 「……俺は戦争に興味はない。国の事もあまり分からない。……レドニン、おまえが決めろ。おまえが一番詳しいはずだ。これからはおまえが国をおさめろ。俺にはやる事がある」


 ウィルハートはそう言うと俺たちに背を向け皇帝の遺体の元に歩んで行く。

 ソニンはそんな兄と弟の間で揺れていた。


 「兄上……。そうですね。この戦争、元はと言えばダビドが立案したものでした。父上も戦争を起こす気はなかったのですが、段々様子が変わって……なので本来なら戦争は起こしたくなかったのです。しかし、実際にはこうやって戦争が起きて被害も多少出ている。……イストニア帝国は降伏し、アースハイト王国の条件をのみます」


 レドニンは小さい体に全責任を負って、辛い決断を下した。

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