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第五十九話 対イストニア帝国 その7

 ウィルハートは何かを覚悟したかのように真っ直ぐに皇帝を見つめ、言葉を口にした。


 「で、でもお兄様……」


 「ソニン、レドニン、こやつが言う事が正しいかどうかは分からないが、今の親父は誰が相手でも……その相手が自分の子供であろうが殺そうとしている。俺が知っている親父はそんな人ではない! 俺達が知っている親父は誇り高く尊敬できる人だったはずだ! その親父が……自分の意志でない行動を取っているとしたら、俺たちが止めねばなるまい!」


 「兄上……」


 ウィルハートは、自分の覚悟を妹と弟に話している。

 二人に話すその瞳には決意が感じられた。

 自分の親を殺す……それがどんな覚悟がいる事なのか想像を絶するものだと思う。

 彼は彼なりの責任を感じているのだろう。

 それは素直に尊敬に値するものだった。

 そんなウィルハートの決意を悟ったソニンとレドニンもまた覚悟を決め、顔を引き締める。


 「ソニン! 行くぞ!」

 「はい!」


 ウィルハートはソニンに魔法で援護してもらうつもりなのだろう。

 ソニンもその意図を読み取り、皇帝を牽制する為に魔法を放つ。

 しかし、皇帝は苦にする事なく、立ち上がりソニンに向かってくる。


 「親父! いい加減にしろ!」


 ウィルハートはソニンの前に立ち、皇帝の斬撃を受け止める。

 ウィルハートも魔力操作しているとは言え、力勝負では分が悪い。


 「殺ス! オマエラ皆殺シダ!!」

 「ぐっ!」


 ウィルハートは、徐々に力負けし押し込まれる。

 俺はすかさず、岩弾丸(ストーン・バレット)を皇帝の腕に向けて放つ。

 これは俺が得意としていた魔法で『エターナル・ログ』の知識で改良し、岩を回転させる事で貫通力を高めてある。

 その際、名前も命名した。

 岩弾丸(ストーン・バレット)は皇帝の腕に命中するも闇の精霊により強化されている身体を貫通まではいかなかった。

 しかし、気を引きつけたのと同時に、腕に少なからずダメージを受けたようで、力が弱くなったの機にウィルハートが剣を弾き、ソニンを抱え皇帝と距離を取る。

 そして、皇帝が俺に気を取られている隙にロイが横から切り掛かった。

 皇帝は咄嗟に反応し避けたけど躱しきれず、斬撃が左腕をかすりそこから吹き出るように血を流す。


 「貴様ら!! 余計な事をするな!!!」


 ウィルハートは俺達に向かって叫んでいる。

 しかし、皇帝は魔人化が暴走状態にあるのか、元々皇帝自身の能力が高いのか『エターナル・ログ』の知識にある以上に強い。


 「そんな事言ってる場合か!! 皇帝が暴れればイストニア帝国の兵士達も、そこにいるおまえの妹や弟も危ないんだぞ!!」


 「……くそ! 好きにしろ!」


 ウィルハートは不満な表情を浮かべながらも俺たちの協力を承諾した。

 俺の第一印象では、もっとプライドが高く自己中心的な奴かと思ったけど、意外と状況判断ができるようだ。

 口は悪いけど。


 「ロイ、行くぞ!」

 「あぁ!」


 俺とロイも態勢を整え、皇帝に対峙した。

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