第五十八話 対イストニア帝国 その6
魔人化した皇帝は腰に差していた剣を抜き、見境なく近くにいたウィルハートに突進した。
俺は即座に、兵士やソニンにかけていた魔法を解いて魔力操作を行い、魔人化した皇帝とウィルハートの間に入り、皇帝の斬撃を剣で受け止める。
「ぐっ!」
魔人化した皇帝の斬撃は魔力操作して受け止めたにも関わらず、俺の力と同等ぐらいの力を持っていた。
俺はこのままでは分が悪いと感じ、風を圧縮した魔法を皇帝に放つ。
皇帝はダメージこそあまりなさそうだけど、魔法の威力には逆らえず後方に飛ばされて行った。
ダビドを逃すのは残念だけど、今はこの状況をなんとかしないと……。
「貴様、親父に何を!!」
「皇帝はもう皇帝じゃない! あれは魔人だ! 現に見境なく子供であるおまえを殺そうと攻撃してきただろ!?」
俺はウィルハートに言い放った。
ウィルハートは俺の言葉に言い返そうにも言い返せず、奥歯を噛み締め言葉を飲み込んだ。
きっとまだ現実を受け入れられないのだろう。
父親が急に変わってしまった事、そしてその父親が自分を殺そうとしていた事に……。
最初に会った時の様子とは違い、明らかに動揺している。
それはソニンも同じだった。
ソニンの魔法は解除したにも関わらず、その場に座り込んでいる。
「……あなたは何故、父上がこのようになったか分かるのですか?」
振り返るとレドニンが俺に口を開いていた。
「詳しくは今は説明出来ないけど、知っている」
「なら、父上は元に戻れるのでしょうか?」
俺はレドニンの問いに答える事が出来ず、無言で首を横に振る事しか出来なかった。
「そうですか……」
レドニンも俺の行動の意味を理解した様で黙る。
「おい、ハル! 皇帝が動き出すぞ!」
ロイに言われ見ると皇帝が飛ばされた先で立ち上がろうとしている。
どうする?
倒すにしても、この場で皇帝を倒せばイストニア帝国との関係が悪化するかもしれない。
まして、皇帝の子供達の前だ。
その時だった。
「元に戻れないのなら……俺が親父に引導を渡してやる!」




