第五十七話 対イストニア帝国 その5
「親父!?」
「お父様!?」
ウィルハートとソニンの二人は変わり果てた皇帝の姿に動揺を隠せない。
皇帝はまだ状態が安定しないのか、叫びながらのたうち回っている。
「おやおや、やっぱり自ら盟約を結ばないと自我は保てませんか。しかも、この様子ではこちらの指示も聞かなさそうですね。まぁ、負の感情も足りなかったですし出来損ないですか。まだまだ研究が必要ですね」
間違いない。
これは闇の禁呪、いにしえに封印されしものだ。
なぜ、ダビドが……。
「貴様!! 親父に何をした!!」
ウィルハートが叫びながら、ダビドに詰め寄る。
「まぁ私もいろいろ忙しいのでここで失礼させてもらいますよ?」
「そうはいかない!」
「レドニン!?」
レドニン?
確か頭が良いとかいうやつか。
見た目、背はソニンよりも低く、髪は緑色で短く整えられた髪は、まだあどけなさを残した少年に見える。
レドニンと呼ばれる者は兵士を引き連れダビドを囲う。
「最近、父上がおかしかったので、おまえの周りをいろいろ調べさせてもらった。そしておまえが母上を殺したという証拠も見つかった。だから逃がさない!」
「ははは! そうですか! レドニン、あなたが私を疑っているのを知ってはいましたがあまく見ていましたね。まぁいいでしょう。私のある実験と私達の主様の命令を遂行するのを同時進行する為に、イストニア帝国に付き合ってもらってたのですよ。まぁいろいろ予想外の事がありましたが。この男に関しては私はちょっと本心に力を貸しただけですよ? 陛下は自ら心を闇に染めていたのですから」
「何!? どういう事だ!?」
ウィルハートはタビドの言う事が許せないのだろう。
怒りに体を震わせている。
「陛下は奥様を亡くされ、悲しみの中絶望されておりました。そして、奥様を手にかけた者に復讐する事、そして悲しみを紛らわす為に国土を広げ、自分の力を世に知らしめる事を考えられました。まぁすべて私の手のひらで踊っていたのですがね」
そう言ってダビドは高らかに声あげ笑う。
「ふざけるな!!」
ウィルハートはタビドに向かい、斬りかかる。
しかし、ダビド後方に飛び、斬撃をかわすと共にそのまま空中に浮いた。
「まさか、そんな事まで…」
あれは風魔法の応用だけど制御が難しいし、この時代では認識されていないものだ。
「では、みなさん機会があれば会いましょう」
そう言ってダビドは飛び立っていく。
俺は追いかけようとしたけど、この状況で今制御している魔法を解くのは兵士達の事もある以上、俺とロイにも危険が及ぶかもしれない。
そんな事を考えているうちにまた事態が急変する。
「殺シテヤル! 殺シテヤル!!!」
ついに皇帝が魔人化し、動き出した。




