第五十四話 対イストニア帝国 その2
俺とロイは身体強化をして、セガール平原を走り相手本陣に向かう。
少しの間は魔法が鳴りを潜めていたけど、やがて魔法の撃ち合いが再開した。
でも、先ほどの広範囲魔法はイストニア帝国側からは放たれていない。
おそらく、アリィの魔法を警戒していつでも迎撃できるように控えているのだろう。
それはこちらからすれば好都合だった。
「ロイ、さっきの魔法はやっぱり宮廷魔術師でも使えないものなのか?」
「そうだな。あれほど広範囲な魔法は出来ないな。アリィの迎撃がなかったらこちらの障壁がヤバかっただろうな」
やっぱりそうか。
宮廷魔術師以上の魔法の使い手となる以上、本陣に突入したら俺が対応しないとマズイだろうな。
そんな事を考えているうちにイストニア帝国の先陣隊が見えてきた。
俺はすかさず無詠唱で魔法を発動させる。
禁術の重力魔法と相手の行動を遅くする行動阻害の魔法を組み合わせたもので兵士達の動きを止める。
「な、何が起きている!?」
兵士達が動揺しているところを俺とロイは駆け抜ける。
重力魔法はあのドラゴンが使っていたもので、行動阻害の魔法は身体強化の逆バージョンみたいなものだ。
相手の細胞に魔力を送り、一時的に細胞間の伝達を難しくする。
まぁ、簡単に例えるなら痺れみたいなものだ。
重力魔法はこの世界には広まってないみたいなので、兵士達は状況が分からないだろう。
もちろん、重力魔法は威力を抑え、行動を奪う程度に調節している。
そして、相手の被害も抑え、無事本陣に辿り着いた。
「ほぅ、まさかここまでたどり着く奴がいるとはな」
「おまえがウィルハートか?」
「左様、俺がウィルハート=エイディン=イストニアだ。おまえ、変わった髪をしてるな?」
ウィルハートは俺とロイより少し高めの身長で黄緑色の髪をしている。
そして、目が鋭い。
でも、黄緑色の髪とは……こいつも光の精霊の加護を受けているのか。
「おまえこそな」
「お兄様になんと失礼な! 身の程をわきまえなさい!」
奥から出て来たこの子はソニンだろうか?
緑色の髪で背は少し小さめな子だし聞いてたより幼く見えるけどこの子があの魔法を……。
「俺たちは双方に被害が出ないように戦争を終わらす為にきた。イストニア帝国はここから引く気はないのか?」
ロイが口を開く。
すると、さらに奥から二人姿を現した。
「アースハイト王国が降伏し、我が国に下るなら引いてやろう」
「皇帝陛下様の言うようにすれば、命は助けて頂けるかもしれませんよ?」
図体のでかいおっさんが皇帝か。
そんな出来ない事を言ってくる限り、引く気はさらさらないのだろう。
そして、この黒のローブとフードで顔以外覆ってるやつは見るからに怪しいけど、皇帝の隣にいるという事は軍師か何かかな?
「ダビド、おまえは引っ込んでいろ」
ウィルハートが黒のローブの男に向かって声をかける。
「ははっ、すいませんお坊ちゃん」
黒のローブの男は謝って後ろに下がる。
しかし、心からの謝罪ではないだろう。
「ふん、まぁいい。俺は強い奴と戦いたいだけだ。……俺がおまえらの相手をしてやる!」
そう言うとウィルハートは剣を構えた。
「じゃぁ、俺が相手してやろう」
俺の隣でロイが答え、剣を構える。
「じゃぁそっちのは私が相手ね。お兄様を侮辱した罪を償わせてあげる!」
「ソニン、無茶はするなよ?」
「分かっていますわ。お兄様」
やっぱりこの子はソニンなんだ。
あんまり女の子相手にするのは気がすすまないけど……。
まぁでも、兵士達にかけた魔法を維持させているし、そこで万が一魔力操作をしないといけなくなると面倒だから魔法放つ戦いの方が維持は楽か。
それに戦いの相性からしてもこれが良さそうだし。
「お手柔らかに」
そう言って俺も戦闘態勢に入った。




