第五十話 作戦会議に出ます
作戦会議が始まった。
作戦会議はアースハイト王国の城の一室で行われている。
太陽が出ている外の明るい雰囲気に比べて、日光が遮られた部屋は暗く澱んだ空気が充満している。
これはみんなの先行き不安な事に対する心情のようだ。
ちなみに今回の件はすぐにシャーリーとアリィにバレてしまった。
「「私達も!」」
という二人に対して説得を試みたけど全員撃沈。
ただ、俺とロイと違って両親や親類の許可を得ていないからという事で後方からの支援という形で何とか収まった。
シャーリーは救護隊に、アリィは魔法使いの部隊に加わり後方での参加となる。
二人には作戦会議の参加は控えてもらった。
俺とロイにはある考えがあった為だ。
作戦会議の始めに今回の戦争の展開の予想とその概要が説明される。
今までの段階の話としてはこれまでの戦争同様、セガール平原にてイストニア帝国を迎え打つ事になるだろうという事。
セガール平原はアースハイト王国とイストニア帝国の間にある平原で、大きく、見晴らしがいい為、奇襲などの小細工が通用せず、正面からの戦いになるという事だ。
そして、戦術としては魔法使い同士による攻防がひと段落したあとに、騎士達による突撃と行った流れになるだろうといったものだった。
「今回イストニア帝国にはロイとハル君と同じ歳のウィルハート=エイディン=イストニアといぅ武芸に秀でた優れた息子がいる。今回戦争に帯同しているようで主力部隊を率いているみたいだ。彼は好戦的で実力も相当だといぅ話だ。それに同じく帯同している妹、ソニン=エイディン=イストニアは兄より2つ年下ながら魔法を得意とし、強力な広範囲魔法も使うらしい。さらに二人の弟にあたるレドニン=エイディン=イストニアは身体は弱いが10歳にして頭が切れると噂されている。知略に優れ、軍にも策を進言するほどだそうだ。しかし、今現在帯同しているのを確認出来ていない」
俺たちと同じ歳や年下の子まで参戦しているのか。
自分達も参戦しているからあまり言えないけど。
でも、なおさら被害を最小限に抑えないいけない。
「国王様、先ほどお聞きした作戦なのですが、小細工なしの正面衝突では双方共に被害が大きくなると思われます。なので、魔法使いの部隊と騎士達とで足止めをして頂いてる間に、俺とロイで敵の本陣に奇襲をかけ、敵主力を無効化して和平に持ち込みたいのですが」
「いや、それは余りにも危険だ。だからー」
「父さん、国民一人、いや、人一人の命を多く救う為にはこれが一番だと思う。それに、俺とハルはルイーズさんに学んだ。闘技大会では俺はランクAの冒険者にも勝てた。ハルはその俺に勝った。それこそハルはドラゴンに勝てる程の力があるだからやらせて欲しい」
俺とロイがそう言うと静まり返った。
俺たちの提案はかなり危険だとみんな理解していただろうけどそれを抑える程の策のある人もいない。
まぁ確かに多くの数を相手にする以上危険を伴うけど、俺たちの考えは全滅ではなく敵の主力に圧倒的な差を見せて戦意を喪失させるという作戦だ。
『一人でも犠牲は少なく』
これは誰もが思っている事だっただろうから。
もちろん俺の中でも葛藤はあった。
『人を殺してしまうかもしれない』
だからと言って見ているだけでは、より多くの命が奪われてしまう。
ベストではないかもしれないけどよりベターな結果を……と考えて出した結論がこれだ。
「国王様、万が一の事があれば俺の魔法ですぐに離脱します。実は俺、一度行った場所ならすぐさま移動できる魔法があります。それは俺だけが発動できるのですが、何人かまとめて移動する事は出来ます」
『エターナル・ログ』で得た知識の禁術の空間魔法の中にそれはあった。
もっとも、空間魔法は悪用される恐れが強い為、長い歴史の中で禁術扱いになり、王家が厳重に管理していた。
なので、王のみに代々伝えられ、それ以外の者はその存在を知らない。
そう言った秘術も数多く知識の中にあった。
その中に俺を未来に送った秘術もあった。
だけど、この秘術は過去には行けず、父さんと母さんは国を救った後、すべてを捨てて俺を迎えに来てくれるつもりだったのだろう。
それを考えると父さんと母さんの覚悟は相当だったんだと思う。
禁術の多くはリスクを伴うものや世界のバランスを崩してしまうものもある。
だから、これらは俺だけしか使えないという風にしておくつもりだ。
「そんなものが……」
「まぁハルなら何でもありだな。だから父さん、俺たちにやらせてくれ」
ん?
久しぶりに聞き捨てならない事言われた気がするけど……。
まぁいいか。
「……分かった。頼む」
そう言うとロイのお父さんと作戦会議に参加している主力の兵士達は俺たちに頭を下げた。




