第二百十一話 ダンノームでの出来事 その6
「昨日は楽しかったです! ありがとうございましました!」
俺たちは宿屋で朝食をすませ、アドルノ工房へ向かっている。
ルルは昨日楽しんでたみたいで俺たちに礼を言っている。
心なしか少し口調がくだけた気もするこら昨日の宴会で少し距離が縮まったように思う。
……そう思いたい。
それでなければただのどんちゃん騒ぎになってしまいメイファちゃん向ける顔がない。
昨日の宴会は仲間の親睦を深める為に必要だったとしておきたい。
まぁでも、いろいろあったから気分転換も必要だし。
きっとメイファちゃんも許してくれるだろう。
「いえいえ、ルルが楽しんでくれて良かったよ」
「ありがとうございます! それに、皆さんの違った一面も見られて良かったです!」
ルルの言葉にウィルが少しビクッとした。
きっと記憶が飛んでいる事を思い出したのだろう。
俺も少し曖昧な部分があるし不安だけど。
「そ、そっか。だ、大丈夫だった?」
「はい! 皆さんとても明るくて楽しくて! あっ、でも……」
『でも』ってなんだ!?
めっちゃ不安になる!
「ルル? でもってなんだ?」
「あっ、いえ……特には……」
「はっきり言ってくれ! 気になる!」
「あっ、いや、あの〜……怒りません?」
怒る!?
怒るってなんだ!?
「いやいや、怒る訳無いだろ!? 頼む! 教えてくれ!」
「でも……」
「ルル、言っちゃいなよ!」
ソニンが会話に入ってルルに促してくれた。
ソニンいい奴だな。
……あっ、違うな、楽しんでるだけだろうな。
「じゃ、じゃあ……私、意識しなくても勝手に相手の心がオーラみたいな感じ分かるんです」
それは前に聞いた。
それでエイブラム司教が自分を殺そうとしていたのが分かったって言ってたし。
「うん、それで?」
「あの〜……ロイさんとアリィさん、ハルさんとシャーリーさんが一緒に飲んでいらっしゃる時に温かいオーラが包んでいたのですけど……ロイさんとハルさんのオーラにピンクがつよ……いや、少し出てのでやはりお付き合いされて仲がよろしいのかなと」
「「「「!?」」」」
マジか!?
いや、まぁ酔ってる時のシャーリーは甘えてくるし可愛いし頑張って衝動を耐えてたけど……まさかルルにバレてるとは!?
そうだ、ルルは心がなんとなく分かるって言ってのを気にしてなかった!
しまった!!
「お、おう! まぁ、なんだその……あれだな? ロイ?」
「俺か!? いや、まぉなんだあれだ! ……好きだからな!」
「そうそう! 好きだから仕方ない!」
俺とロイは自分では何を言ってるのか分からなくなっていた。
とりあえず下心を誤魔化そうと言葉を繋ぐ。
「えっ、あっ、ありがとぅ……私も好きだよ……」
「わ、わたしもハル君の事好きですぅ……」
アリィとシャーリーもまさかの展開に頭がついていかず顔を真っ赤にしながらパタパタしてる。
「いいないいな! 私も恋したい! どっかにいないかなぁ〜? それにしてもハルはエッチだね。シャーリーお姉様気をつけないと」
「えっ!? 私は……あっ、うん」
なんだシャーリー!?
それはいいって事か!?
……いや、焦るな!
今はそんな時じゃない!
「すいません……」
ルルが気まずそうに謝る。
「い、いや、俺が聞いたんだから気にするな! そうだ、ウィルはどうだっんだ?」
俺は話を変える為にウィルを犠牲にした。
……ウィル、すまん。
「ウィル様は……」
ルルが横目でウィルを見る。
ウィルは突然の事に少し身構えている。
記憶が飛んでいるから不安なのだろう。
それにしても、またルルが言いにくそうにしている。
もしかして俺とロイと一緒だとしたらルルに言わせるのはダメだ!
「……俺とロイと一緒?」
「あっ、いえ、全くそんな事は……あっ、いや、ウィル様は物凄くキレイなオーラで私も尊敬するほどです」
その言葉を聞いてウィルは安堵の表情を浮かべる。
それにしても、軽く俺とロイと区別されてしまった。
ウィルの奴、酔ってても大丈夫とは。
まぁ、ルルのウィルを見る目が輝いてるところを見ると尊敬ってのは好きに近いのかもな。
でも、ウィルも鈍感系だし二人は大変そうだ。
……俺が言うのもなんだけど。
「さすがお兄様! ハルとは違いますわ!」
「お、おい、ソニン! 最近酷いわ!……ったく、行くぞ!」
俺はこの危ない話を終わらせるべく、見えてきたアドルノ工房へみんなを促した。




