第百九十一話 ラース教皇国での出来事 その54
「……メイファ少し待っててくれ」
俺がみんなをただ眺める事しか出来ずに呆然としているとウィルが呟き、メイファちゃんをそっと地面に寝かせた。
そして、向き直る。
「エイブラム、おまえは命をどう考えている?」
ウィルが吹き飛ばされ、木にもたれかかって座ったままのエイブラムに声をかける。
「……」
エイブラム司教は何も答えず、ただ沈黙している。
「エイブラムよ、おまえは妻が病に倒れた時にその命を守る為、必死になったのではないのか?」
「……」
エイブラム司教は何も答えない。
「命は失われたら戻って来ない。それはおまえが一番分かっているはずだ。そして、命が失われたら悲しむ者がいると言う事も。それなのに何故おまえはルルの命を奪おうとした!? そして何故メイファが死ななければならない!? 答えろ!!」
ウィルは語気を強めエイブラム司教に叫ぶ。
「ふん、私の知った事か……」
「エイブラムー!!」
「いえ、あなたは迷っています!」
ウィルがエイブラム司教に詰め寄ろうとしたところでルルが言葉を放つ。
「あなたの黒い心の中に小さな白い光を感じます。あなたは気付いたのではないですか? 自分の過ちに」
「なにをいったい……」
「表立っての話ではなく、あくまで噂ですが貴方の奥さんはお腹に小さな命を宿していた。違いますか?」
「……」
「あなたはメイファちゃんに自分と奥さんとの間の子供を重ねた」
「なにを言ってる! 私はーー」
「エイブラムよ、おまえがしている事を奥さんが見たらどう思うと思う?」
「……」
ルルとエイブラム司教との話きウィルが入る。
「少なくとも奥さんはおまえのこんな姿を望んでなかったはずだ」
ウィルの言葉を発すると沈黙が流れる。
エイブラム司教と奥さんの間に子供がいた可能性があったとは……。
エイブラム司教に同情できる部分もあるけど、エイブラム司教がやってる事は許されるものではない。
人の命を奪って自分が偉くなろうとし、結果、一人の命を奪った。
せめて、罪を認め償い続けてもらわないとメイファちゃんもうかばれない。
「……ふふ、ははは! 確かに妻のお腹には子供がいた! それこそ分かったばかりだ! それに妻はこんな姿見たくはないだろう! ……しかし、私はもう後戻り出来ん!!!」
そう言うとエイブラム司教は袖に手を入れた。
そして、出てきたのは銃だった。
まさか、もう一つ持っていたとは!?
『パンッ!』
乾いた音が霊峰フォルクレストに鳴り響いた。




