第百七十九話 ラース教皇国での出来事 その42
「エイブラム司教……何故あなたがここに?」
ルルはエイブラム司教に言葉を返す。
その表情は不安や恐れもなく、凛とした顔付きだ。
俺たちの事を信頼しているのか最初に言ってたように殺される事を受け入れているのか……とても十歳の子とは思えない。
さすが巫女といった感じだ。
「あなたなら薄々気づいていたのではないですか? 心を読む巫女と呼ばれているのですから」
エイブラム司教は様付けをせずに呼び捨てた。
やっぱりルルを良く思っていないのだろう。
「……えぇ、なんとなく。エイブラム司教、あなたがここまで変わられたのはやはり奥さんの事ですか?」
ルルは一瞬の間の後、言葉を返す。
エイブラム司教の奥さん……この前に聞いた話だろう。
「……ふふふ、さすが巫女様! そうです! 私はラース教に心を捧げ信仰してきました! ですが、妻が倒れた時、神は助けてくださらなかった! ……世の中結局は金と力! 金があればいろんな治療が試せる! 力があれば皆言う事を聞く! 私に必要だったのは金と力だ!」
エイブラム司教は声を荒げる。
やはり奥さんの死がエイブラム司教を変えたようだ。
「エイブラム司教……あなたは間違っています」
「なに!? 小娘に言われる筋合いはない!」
ルルが返した言葉にエイブラム司教は反応する。
「エイブラム司教……あなたの奥さんはあなたのそんな姿を望んだのでしょうか? お金や力……確かにそれらは人を魅了する力があります。しかし、それは上辺だけ。物での繋がりなど一瞬で消えます。本当の繋がりとはあなたが奥さんと結ばれたように物ではなく心の繋がりではないでしょうか?」
「うるさい! それで命が救えるか!」
「確かに命が救える訳ではありません。しかし、あなたの物での繋がりでない人達は奥さんが倒れた時、手を差し伸べてくれませんでしたか? 結果は共わなかったかもしれません。しかし、出来る限りの治療は出来たのではないでしょうか?」
ルルの言う通り、聞いた話ではエイブラム司教の奥さんは様々な治療を受けていた。
一般的な治療はすべて行っていたのだろう。
昔のエイブラム司教は評判も良かったと言う事だし、お金も必要だったかもしれないけどいろんな人が協力してたんだと思う。
「ふっ、キレイ事を……それに私はもう後に戻れない!」
そう言ってエイブラム司教が袖から何かを取り出した。




