第百七十一話 ラース教皇国での出来事 その34
「エイブラム司教は最初は熱心なラース教信者だったのです。それこそ民衆からの信頼も厚く評判も良かったと聞いています。しかし、半年程前に最愛の妻を病気で亡くしてから変わりました。『熱心に祈っても神は助けてくれない、妻を救うには金が必要だったんだ』と」
そうだったのか。
あの人にもそんな悲しい過去があったのか。
「彼は妻に充分な治療が出来なかったと悔やんでいました。しかし、考えられる治療や回復魔法、さらには神聖魔法を試したのですが効果がなかったのです。まるで呪いのようでしたがどの手も効果がなく最後には衰弱して……彼は魔法や一般的な治療でなく、商人達の間で取り引きされる高額な薬に頼れば良かったのだと嘆いておりました。その薬も普通に考えれば嘘くさい物なのですが……」
呪い……どんな治癒魔法も治療もさらに一般的な神聖魔法も効かないとなると、もしかしたら闇の禁術かもしれない。
それこそゴルゾーラ教が絡んでいるかも可能性がある。
「エイブラム司教の奥さんや周りに何か変わった様子とかありませんでしたか?」
「そこまでは……」
そうか。
まぁゴルゾーラ教が絡んでる可能性がある以上より一層気を引き締めていかないとな。
隣を見るとみんなも無言で頷く。
「分りました。では、明日またお会いしたらよろしくお願いします」
俺たちはそうして建物を後にした。




