間話 傷心のロイ 後編
「アリィ……」
アリィは心配そうな表情で俺を見つめている。
「あ、あの〜……大丈夫? いろいろ悩んでたみたいだから……いつもと様子も違ったし」
確かにカルザルとの一件以来、俺は悩んでいた。
それこそ周りが目に入らないくらいに……。
アリィにはいっぱい心配かけたな。
「あぁ、今もハルに慰められたよ。まさかハルに慰められる日が来るとはな。もう大丈夫だ。心配かけてすまなかった」
俺は素直に心配をかけた事をアリィに謝った。
しかし、アリィは俯く。
そしてその表情は曇ったままだ。
「ロイ君……私はあんまり賢くないし、気のきいた事も言えない。でも、ロイ君の許嫁として……ううん、ロイ君の事が好きだから少しでもロイ君の力になりたい!」
一瞬の沈黙の後、アリィが顔を上げ口を開く。
「だから、一人で抱え込まないで何かあったら話して? ロイ君が一人で悩んでいる姿を見るのは辛いの。何も出来ないかもしれないけど、私に出来る事ならなんでもするから!」
アリィは俺に抱きついて来て、そう言ってきた。
「……もし、少しでも気が紛れるなら……そ、その、あの、そういう事してもいぃょ……」
アリィは最後の方は聞こえるか聞こえないかの声で話す。
気が紛れる? そういう事?
「お、男の人ってそういう事したら気が紛れるんでしょ!?」
俺が少し考えているとアリィが沈黙を嫌って言葉を繋ぐ。
……分かった。
そういう事はそういう事でそういう事か。
きっとソニンあたりが言ったんだな。
最近乙女モードだからな。
でも、アリィにこんな事を言わせるまで追い込んでいたとは……。
「……大丈夫だ、アリィ。そういう事は気を紛らわすとかじゃなくてちゃんとしたい」
ん?
俺も動揺して少し分からない事を口走っている。
ヤバイ!
「まぁ、そういう事は二人にとって大事な事だから……な? ちゃんとしよう」
ヤバイ……ますます変な感じになってきた。
「……大丈夫なの?」
アリィは特に変だと思ってないのか、俺の心配をしてくれている。
……たぶん。
ちょっと動揺したせいで分からなくなってきた。
「あぁ。アリィのおかげで少し悩みが解決したよ。実は、カルザルに言われた言葉『戦う理由』について悩んでいた。俺は世の中の平和と言いながらどこか他人本位の決意だったんだろう。でも、今気づいた。俺は今目の前にいるアリィ。おまえと楽しい将来を過ごす為……それから、俺たちの将来の子供の為に戦うよ。そして必ずアリィを守る」
アリィは一瞬目を見開き、徐々に顔が赤くなってきた。
「ぅ、ぅん。お願いします」
アリィは小さな声で答え、赤い顔を見せないように俯く。
「ありがとう、アリィ。少しの間こうさせてくれ」
そう言うと俺はアリィを抱きしめた。
「ぅ、ぅん」
俺の腕の中にいる大切な存在。
その一人を守れないで世の中の平和は守れない。
一国の王子とかそういう以前に一人の男としての決意からだ。
小さな積み重ねが大きな事に繋がるのだから。
自分に出来る事を……。
ハルも力を手に入れた時にそんな風に考えたのかもしれないな。
大きな決意をしようとしてもそう簡単に出来る物ではない。
今の俺が感じて背負うべき責任を背負い決意する事が、大きな決意に繋がるのだろう。
ふと、腕の中にいるアリィを見る。
月夜に照らされるアリィはとても綺麗だ。
『このかけがえのない存在を守る』
これが今の俺の気持ち……。
俺は今初めて自分自身の決意をし、必ず守ると心に誓った。




