第百四十三話 ラース教皇国での出来事 その6
「おまえは一度負けたくらいで何をいじけている!? 一度の挫折くらいで揺らぐような奴だったのかおまえは!?」
「……」
酒場が静まり返る中、ロイは無言でウィルを見つめている。
「正直言っておまえは力もあるし強い! しかし、心が弱い! うまくいかない事だってある! 見ろ! イストニア帝国を!! ゴルゾーラ教によって……いや、自分たちのせいもあるが道を誤ってしまった! でも俺は後ろは見ない! 過去は変えられないが未来はかえられる! そして、自分を変えられるのは自分だけだ! 終わった事は反省し未来に生かす……これが大事ではないのか!? すべてを受け入れ先に進む……おまえは一番近くでハルを見ていて分からないのか!?」
ウィルは大声でロイに言葉を放つ。
確かに過去は変えられない。
俺も自分の生まれや過去、いろんな事を受け入れてきた。
ウィルの言っている事は正しいと思う。
正論だけど伝えにくい言葉を真っ直ぐに伝えている。
ウィルは凄い奴だ。
ラース教皇国に来てから凄くカッコ良く見える。
……いや、いつだってウィルはただでしゃばらないだけで、いざという時には声をあげていた。
ウィルのこういうところは見習わないといけないな。
俺がそんな風に思っているとロイがジョッキを持ち、一気にエールを飲み干した。
「ロイ君!?」
アリィが心配そうに声をあげる。
「ウィル! おまえの言う通りだ! 正直俺はカルザルに負けてショックを受けていた。まぁそれは受け入れなければ先に進めない。いろいろ考える事もあるけど確かに後ろばっかり見ていても仕方ない! 今日は飲むぞ!」
そう言ってロイは店員を呼び追加のエールを頼む。
それと同時に、銀貨を無造作に片手いっぱい取り出し店員に渡し、他の客にもお酒を出すように伝えた。
おそらくさっきので迷惑をかけたからだと思う。
そして、アリィの元へ行き『すなかった。ありがとう』と声をかけた。
ロイは完全ではないけど何か吹っ切れた様子だ。
「まさか、ウィルに言われるとはな」
「ふん、ほざけ。おまえがそんなんでは張り合いが……倒しがいがないだけだ」
「言うようになりやがって。おい、ハル! 飲むぞ!」
「お、おう!」
俺はロイに何も言ってやれなかった自分を情け無いと思いながらもみんなと一緒に飲み始めた。




