第百四十二話 ラース教皇国での出来事 その5
「じゃぁ……とりあえず乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
俺の乾杯の挨拶に続いて宴会が始まった。
あの後、とりあえず宿を確保した俺たちは酒場へ繰り出した。
ゴルゾーラ教の情報収集に行こうと言うロイの意見もあったけど、俺が今日はいろいろあったしゆっくりしようと言った。
ロイは珍しくあんまり乗り気じゃなかったけど、他のメンバーが阿吽の呼吸で俺の意見に賛同してくれた。
たぶん俺の意図が分かっているのだろう。
やっぱりみんなロイの事を心配しているのだと思う。
「でもハル君、さっきの乾杯の挨拶は締まりがないわ」
「そうよハル! アリィお姉様の言う通りよ! 何が『じゃぁ』なのか意味分からないわよ!」
「……ハル君もう少し考えましょうか」
「ハル、あれではまとまらんぞ?」
「……」
アリィが乾杯と同時にエールを一気飲みし、空になったジョッキを片手に絡んできた。
それに続くソニンは……ジュースだ。
シャーリーは果実酒でまだ一口。
エンジンがかかるのはまだ先だろう。
ウィルはジョッキ半分はあけている。
アリィはともかく、他の人がここまで俺に絡んでくるのはおそらく場を盛り上げようとしているのだろう。
ロイはメイファちゃんが去って宿屋に入るとまた塞ぎ込みになってしまった。
現に今もエールを一口しか飲んでいない。
普段のロイならあり得ない光景だ。
でも、盛り上げようとしているのは分かるけどソニンよ……おまえだけはシラフなのは知っている。
なぜに俺にそこまで当たるのか?
まぁいいけど……。
「う、うるさいな! じゃぁ見本見せてくれよ? なぁロイ?」
俺は超ど真ん中のストレートな作戦でロイに話を振る。
一瞬、みんなの表情が固まるのが分かったけど、お酒作戦もダメな状況……このままではラチが明かない。
「ん? あぁ……。じゃぁ……とりあえず乾杯!」
……ダメだこりゃ。
俺と同じ過ち、さらには心ここに在らずだ。
「……えっ、えーん! ロイ君が……ロイ君がぁぁぁ!!!」
ロイのあまりの様子に今まで我慢していたであろうアリィは、お酒が入っている事もあるんだろうけどついに泣き出してしまった。
「ア、アリィお姉様!?」
「アリィ!?」
すかさず、ソニンとシャーリーがアリィを気遣う。
「ロイ君が……ロイ君が悩んでいるのに私どうしていいのか分からない!!」
そう言ってアリィは顔を机に伏っして泣く。
その両隣ではソニンとシャーリーが背中をさすりながら慰めている。
「ロイよ、おまえが悩んでいるのは分かる。でも、それを他に影響を与えていけないのではないか?」
こっちではウィルが諭すようにロイに話かける。
「……ふん、おまえに何がーー」
「甘えるな!!!」
ロイの言葉を遮り、ウィルが言葉を発した。
その大声にアリィやシャーリー、ソニンもこっちに顔を向けた。




