第百二十一話 ラモル山での出来事 その2
人影らしきものとの距離が徐々に短くなって行く。
それにつれ、段々と輪郭も分かって来た。
どうやらやはり人影のようだ。
しかし、距離が近づいて輪郭がハッキリしてきても人影は黒く服装などが分からない。
黒……?
もしかして……。
「……ロイ、ウィル、もしかしてあの人影ってーー」
「……かもしれないな。でも、今までの二人とは違うんじゃないか? ここから見る限り背丈が高くてガッチリしてそうだ」
「ゴルゾーラ教か……しかし、なぜこんなところに?」
俺が感じていた事をロイとウィルも思ってたみたいだ。
あれは、黒いローブを纏いフードをした人影……つまり、ゴルゾーラ教の奴だと。
でも、なんでこんなところに……?
「さて、なんでここにいるか分からないけど、わざわざ出向いてくれたんだ。捕まえてやる」
ロイが口を開く。
確かにゴルゾーラ教の情報を得ていない今、向こうからわざわざ出向いてくれたのはチャンスだ。
しかし……。
「ふん、あまりにもわざとらしい登場だな。前の二人からすれば何か罠があるかもな」
ウィルの言う事ももっともだ。
素直に姿を現わすのはあまりにも不自然だ。
何か罠があるのかもしれない。
「……どっちにしてもここまで来たら向こうも気づいてるはず。背を向けるよりはこのまま進もう。……ウィル、背後の警戒頼んでいいか?」
「……まぁいいだろう。今回は譲ってやる」
ウィルは素直に背後の警戒を引き受けてくれた。
状況が状況だけに言い争ってる場合ではないと思ってくれたのだろう。
それに俺たちの中でウィルはスピード型だ。
いざと言う時に、ウィルが背後の警戒をしてくれていると助かる。
何かあってもウィルが手数を稼いでいるうちに助けに入れるからだ。
ウィルもそれを理解してくれてるのだろう。
そして、ウィルにかけると同時に馬車の中の女性三人にも声をかけて外に出てもらった。
ゴルゾーラ教が相手だとすると、馬車の中で待機というのは行動も制限されあまりにも危険だからだ。
三人は無言で頷き外に出てきた。
前衛に俺とロイ、中衛にアリィ、シャーリー、後衛らウィルとソニンがパートナーを組み、罠に警戒する。
戦いのパートナーは連携を図る点で重要だ。
ウィルとソニンなら連携に問題ないし近距離と遠距離とバランスも良い。
罠があったとしても、対応できるだろう。
俺たちは周りを警戒しながら、人影に近づいていく。
俺たち六人に緊張が走る。
すると、人影が前進してきた。
俺たちは立ち止まり向こうの出方を伺う。
人影が草木を踏む音だけが鳴り響く。
人影が段々と近くなり、黒いローブがハッキリ見えるようになった。
そして、黒いローブの男は俺たちの手前十メートル程のところで立ち止まった。
「……我はゴルゾーラ教、力を司る司祭カルザル。……手合わせ願おう」




