第百十七話 ラース教皇国へ向かいます
「短い間ですが、お世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ。君達のおかげで助かった。無事を祈っている」
「こっちこそ世話になったな! また会ったらエールでも飲んで騒ごうや!」
コルト都市国家を出発する時、コールさんとダリウスさんが門のところまで見送りに来てくれた。
いろいろあったけど、新しい出会いもあった。
最初はダリウスさんに良い印象がなかったけど、やっぱり人は見た目や態度だけじゃない。
いざという時に本質が見えるものだな。
そう考えるとダリウスさんは良い人だ。
「ハル……ちょっと……」
「はい……?」
俺はダリウスさんに呼ばれて近くに寄った。
「ハル、おまえ! 昨日俺を見捨てただろう!? そんな仲間を見捨てる奴はこうだぁぁぁ!!!」
「す、すいませぇぇぇん!!」
ダリウスさんは近くに寄った俺の頭を左脇に抱え、右の拳で俺の頭をグリグリしてくる。
……これメッチャ痛い!
しかも、見捨てたのは俺だけじゃなくてロイとウィルもなのに……。
ふと、二人を見るとアリィとソニンの横というダリウスさんからしたら鉄壁の防御の近くに陣取って俺を見て嘲笑している。
二人め……覚えてろよ?
昨日の絆は撤回だ!!!
「ったく……これでチャラだ! ……これ以上すると次は俺がおまえの彼女にやられちまう」
ダリウスさんは後半部分のところは俺にしか聞こえないよう声をひそめ言った。
俺はその言葉を聞き、シャーリーの方を見るとジト目でダリウスさんを見ている。
……うん、頼もしい彼女だ。
世の中、女性が強くなってきたものだ。
時代の流れだろうか?
俺の知る限り、どの夫婦も女性が強い。
アースハイト王家、シーレント王家……王族でさえだからな。
今思うとじぃちゃんとばぁちゃんも主導権はばぁちゃんが握ってた気がする……。
……良かった、小さい時にばぁちゃんの手伝いで家事もしてたからな。
なんかこれからは男も仕事だけじゃなくて家事もしないといけない時代な気がくる気がする……。
「まぁ、気をつけてな! おまえ達なら何かあっても大丈夫だろうが油断するなよ! 俺はだいたいここらあたりで活動してるから近く寄ったら探してくれ!」
俺の思考が脱線していたところに、ダリウスさんが別れの言葉を口にする。
「ダリウスさんもお元気で!」
短い間だけど、戦闘隊形とかいろいろ教えてくれたし、なんだかんだ言って一緒にいて楽しかった。
別れは寂しいけど、またいずれ会えるだろう。
「……達者でな」
「メリーさんと仲良く」
「そうよ! 私達が女心教えたんだからね!」
「……ダリウスさんの幸せ願ってます!」
「そうですわ! アリィお姉様とシャーリーお姉様の話無駄にしてはいけませんよ! 失敗したら私が許しません!」
「う、うっせぇ!! さっさといけ!」
……ロイがいらない事を言ったせいでちょっと違う方向へいってしまった。
ダリウスさんも最後の最後まで可哀想に……。
最後の挨拶にしては何か違うような感じがするけど俺たちらしいか。
ふと見るとみんないい顔をしている。
これからもいろいろあるかもしれないけど、みんなで悲しみや喜びを分かち合えば大丈夫なはず!
「また、会いましょう!」
俺たちは馬車を引いて、コルト都市国家を後にした。




