第百十三話 コルト都市国家での出来事 その28
「二階の会議室でギルド長がお待ちです。どうぞお上がりください」
俺たちはあの後、ラーク大森林の前で待機していたギルド職員に森の中であった事を説明した。
ギルド職員は最初半信半疑だったけど、しばらく待っても冒険者のパーティーが一組も帰って来ない事もあり、証拠を得る為、森に入る事になった。
しかし、俺たちが報酬目当ての為に他のパーティーを手にかけたという疑惑も感じた職員は、空に救急信号を放った。
魔法宝具で放たれたそれは空に向かって虹色の煙発生させた。
青い空に向かって伸びて行く虹色の煙は、森の中で亡くなった冒険者の魂のように思えた。
一時間少々すると、応援のギルド職員、そしてコルト都市国家の治安を維持する衛兵達が到着した。
俺たちはその人たちと一緒にラーク大森林へ入り、全滅した冒険者のパーティーを氷漬けにした場所へ向かった。
その光景を見たギルド職員達は言葉を失い驚いていたけど、遺体の様子を見て、損傷箇所が牙のようなものによるものだと判断され、俺たちの疑惑は晴れた。
しかし、戦闘狼の死体がない為、それ以外の判断は出来ないという事で俺たちはコルト都市国家へギルド職員達と一緒に戻ってきた。
ちなみに帰る前にさらに魔法宝具で応援を呼び、駆け付けた衛兵やギルド職員の人たちがラーク大森林の中を調べている。
おそらく魔獣化した戦闘狼はもういないだろうし衛兵やギルド職員達も大丈夫だろう。
知の司祭と言っていたダグマルの事だし、証拠を残す事はしていないと思う。
そうして、俺たちはギルドで待機してた訳だけど、ギルド長のコールさんに呼んでいるという事で、受付嬢の言う通りギルド会議室のある二階へ登ろうとした。
「……みなさん、ご無事でなによりでした」
俺たちが、階段へ向かおうと受付嬢の横を通り過ぎようとしたところで受付嬢が声をかけてきた。
「おっ! メリーちゃん俺の事、心配してくれてたのか?」
「違います。ダリウスさんの周りの方達の心配をしていただけです」
あっ、この受付嬢はメリーさんって言うのか。
今になってやっと名前を知ったな。
あっ、いけないいけない。
あまり気を向けちゃいけない。
「ちぇっ! ちょっとくらい心配してくれても良いのに」
「心配していましたよ? 業務の範囲内で」
「かぁ〜!! メリーちゃんは今日も辛口だね!」
「……まぁ知った顔が減るのは少し悲しいので多少は心配しましたけど」
「おっ! じゃぁ今度食事にでもーー……」
「無理です。……まぁ私に相応しいAランクにでもなられたら考えます」
「マジか!? よしやってやるか!」
「まぁ、ダリウスさんには難しいと思いますけど」
「そんなのやってみないと分からないだろ!? よし! 約束だからな! 行くぞ!」
そう言ってダリウスさんは階段を登り出した。
いや、待ってたのは俺たちですけど……。
それにしても、メリーさんも強気だし、ダリウスさんもこの前と調子が違うな。
もしかしたら、この前も俺たちと来る前に同じようなやりとりがあったのかもしれないな。
まぁ、ダリウスさんとメリーさんの関係が、分かったしよしとしとくか。
俺たちもダリウスさんに続いて、階段を登った。
階段を登る直前、視界の端に映ったメリーさんの口元が僅かに微笑んでいたのが印象的だった。




