第百九話 コルト都市国家での出来事 その24
「ほぅ、魔獣化した戦闘狼相手にそこまでやるとは……少々おまえ達を見くびっていたようだ」
『魔獣化』それはエターナル・ログの知識にもなかった。
魔物の心を闇に染め、凶暴化させた……それをゴルゴーラ教は魔獣化と呼んでいるのか……。
それにしても、エターナル・ログにもない知識をこいつらは……こいつらの上にいる大司教と呼ばれる人物、そいつは間違いなく何らかの理由で過去の知識を知っている。
それに知っているだけでなく、それ以上の事を……いったい何者だろうか?
「おまえ達は何者だ? 何を考えている?」
俺の隣にいたロイが口を開く。
そして、ダグマルは黙ってロイの言葉を聞いていた。
「……おまえ達に話す事はない。知りたければ……生き抜く事だ!」
ダグマルはそう言うと、無詠唱で漆黒の刃を無数に放ってくる。
そして、無数の刃が俺たちの方に向かって来る。
「ちっ!」
今回の漆黒の刃は誘導型みたいで、避けても俺たちを追尾してくる。
俺とロイは漆黒の刃を避けながら剣に魔力を漂わせて叩き切る。
そうしている間にダグマルの背後から三十頭程の戦闘狼が姿を現わす。
「なぁロイ、あれって普通の戦闘狼かな?」
「このタイミングを考えれば……違うだろうな」
俺とロイ漆闇の刃を避けながら話す。
おそらく、ここにいた十頭だけではなく他にもいたのだろう。
そして、分かれて冒険者のパーティーを襲っていた。
そういう事だろう。
「とりあえず実験は成功した。……生きていればいずれまた会うだろう」
ダグマルは最後にもう一度闇の刃を放ち、そう言うと背を向けダビドと同じように空に浮いた。
「待て!」
俺は叫ぶけどダグマルがその言葉に従う訳がない。
でも、この状況で奴を追うのは……。
あの数を相手に俺がいなければ、厳しいだろう。
アリィとソニンも広範囲魔法が使えるといっても属性は限られているし。
くそっ!
「……ハル気持ちは分かるが、ダリウスさんもいる。それにこの事をギルドに伝える事も大事だ。それに後で父さんにも知らせないといけない」
「……分かってる。ロイ、さっさと片付けるぞ!」
「あぁ!」
ロイはニヤリと笑みを浮かべると魔力操作をして戦闘狼の集団に突っ込んで行った。
おそらく、ロイもダグマルの前、加減していたのだろう。
さしずめ、腹黒同士の腹の探り合いか?
まぁいい。
ダグマルもいなくなった事だし、全力で片付けてやろう。
これ以上被害が増えないように。
俺はロイの背を追って行動を開始した。




