第四十話 巳は煽る
◇◇◇
就寝時間も近づきつつある春の宵。
うちは寮の自室で神さんにまつわる朝の話を、ルームメイトのたつみーから聞かせてもらった。
「それで、神さんが私とこれからもペア組みたいって言うから……そこまで言うなら、それで良いかって……」
「……ふーん。なるほどなぁ」
今たつみーが話してくれた一連の話が、うちが覗けんかった時間のことらしい。
いやー、正直色々言いたいことはあるけどな?
よお口挟まんでここまで聞き終えられたと、自分のこと褒めてやりたいくらいなんやけど。
とりあえず、最初にこれだけは言わしてもらおう。
「たつみー……意志よわ……」
「う、うるさいわね!」
クラス委員として、みたいな文句をちょくちょく挟んどったけど、最終的に神さんに押し負けとるやん?
「てかホンマに今ので全部なん? まだなんか隠しとることあるやろ?」
いま聞いた内容だけじゃ、いろいろわからんこと多すぎるわ。
話してる時もたつみー、かなりたどたどしかったしなぁ。
「……ないわよ。ないですけど! 今ので全部ですけど!」
ウソつくのに慣れとらんせいやろか。
なんか誤魔化す時にはチョイと間が空くやんなぁ? 覚えとこ。
「だって最初は神さんをほかの子と絡ませようと思て、でもそれ伝えたら泣いちゃった神さんにお願いされて、んでやっぱやめたーやろ?」
「そ、そうですけど?」
たつみーが朝のことを説明し始めた時にはちょっとワクワクしてたんに。
聞いてみたら大して盛り上がらん上に、説明自体もあっさり短いし拍子抜けやったわ。
あの神さんが泣くなんつー事態から始まったんに、『そんなもん?』って感じ。まぁ現実なんてこんなもんで、ドラマとかみたいにオモロいことなんて、早々起こるもんやないかもしれんけど。
でもまだ付き合いは短いかもしれんけど、説明しとったたつみーの様子から、何か隠してるようなきな臭さを感じもしたんよな……。
まぁ面白い話を諦められんうちの勝手な色眼鏡ってだけかもしれんけど。
「やっぱそれだけ聞いても、たつみー意志が弱すぎとしか思えんやろ? やっぱ絶対ほかになんかあったわ。たつみーいったい神さんに何したんや?」
「はぁ!? なにもしてないですし!」
「……んじゃ神さんになんかされたん?」
別に深い意味があって口にしたわけじゃないカマかけやったけど、存外たつみーには効果抜群だったらしく。
何か思い出したように黙ったと思ったら、頬を赤く染めるわ、頭に浮かんだなにかを掻き消すように首ぶるぶるしだすわ、あからさまにおかしかった。
「べつに、されていませんし」
「嘘やん! 絶対なんかされとるやん! キスか!? チューでもされたんか!?」
たつみー結構ウブなんやな。
うちが適当に言っただけのキスっての聞いただけで、さっきよりも顔真っ赤のリンゴちゃんになっとるし。
「はぁ!? キッ、キスはしてないわよ! さっきも言ったでしょ! 中庭連れていって! 落ち着かせてあげて! それで……」
「ベンチに座って神さんと話したんやろ? てかさっきも聞いた時もおかしい思ったわ! なんでわざわざ『ベンチの端と端に座ったけどね。もちろんね?』なんてわざとらしく付け加えたん!? そっからもう怪しいって思うとったわ!」
「じ、事実だからよ! 巳継さんが変に勘繰らないようにとおもって!」
「それにキス『は』ってなんやねん! アホみたいなボロの出し方しよって。キス以外は何されたんや! 言うてみぃ! ハグか!? ハグはしたんか!?」
「ハ、ハギュ!?」
あ、大当たりや……。
否定もせずに茹で蛸みたいに紅潮してるたつみーの顔見れば、うちやなくても誰でもわかるやろ。
この女、ガッコの中で超人気ある美少女をかどわかして、淫らにもハグかましてやがるわ。
真面目な子やと思うとったのに……。
「たつみー……意外とスケベなんやな」
「ちがっ! 神さんの方からギュッて……ううぅ」
「ホンマかいな……」
いやまぁ神さんもたつみーも、確かにどっちも知り合いの子に自分から抱きつくような人懐っこい子には見えんし。
どっちからしたってのも、たつみーがそう言うなら神さんの方からなんやろけど。
ただそうなってくると、むしろあの神さんの方が、たつみーに入れ込んでいることになる。
ほかの子と組むことを勧められて泣き出すとか、たつみーにハグするとか。なんやそれ恋人同士か。
「もしかして、なんや……アレなんか?」
「アレってなによ?」
「だからぁ! あの、アレや……神さんと付き合ってたりするん?」
「つ……つ!? つつつつつ付き合ってないわよ! 私が神さんと!? なんでそうなるのよ!?」
いや別にもし付き合ってたとしても、うちがとやかく言うようなことではないけど。
でもまぁこの反応は付き合ってはいないんやろ。ウソついてるようには見えんしな。
たつみーが神さんのことをどう思っているかは知らんけど、少なくともかなり意識してるんはたしかやろけどな。急にハグされたとしても、全然嫌そうじゃないし。
それよりも神さんや。
ただでさえ謎の多い子、というか謎しかないようなクラスの美少女の、ビックリ仰天の知られざる一面を知ってしまったわけである。
「てか、なんでそんな神さんに懐かれてんの? なんかキッカケとかあったん?」
「いや、知らないわよ……ちゃんとお互いのことを話したのも昨日が初めてだし。あとは最初の体育の時にペアを組んでから、その後もいろいろな時にペア組んでるってことくらいしか……」
あぁ、あったなぁそんなこと。
てかあの時、面白そうやんと思ってたつみーと神さんをペア組ますようなこと言うたん、うちやんけ。
いやぁ……さっきたつみーから話を聞いた時には退屈やったけど、深掘りしたらまさか、こんな面白いことになっとるとは。
これは俄然興味が湧いてきた。もちろんあの謎美少女の生態についてやけど。
「なぁなぁたつみー。明日さぁ体育あるやん? そん時うち、神さん誘ってえぇ?」
「……なんでよ?」
それまでは可愛らしくアワアワとテンパってたくせに、うちの言葉を聞いた途端、たつみーはちょっと不機嫌そうに眉をひそめた。
なんでそんな顔すんねん。神さんのこと実は好き過ぎか?
「だってもともとは神さんとほかの子を仲良くさせたかったんやろ? ほら。やったらうち、ちょうどええやん。寮もクラスも同じ『ほかの子』やで? なー、ええやろ? クラスいいんちょうさん?」
「いや、でも……神さんは私とがいいって言ってたし。ほかの子と仲良くしろってあんま強制すんのも、よくないし……」
なんや歯切れ悪いな。
クラス委員長の責務ってのと、神さん手放したくないってので揺れてるんか?
意志よっわいなぁ。オモロいやん。
「もちろん無理強いはせんよ? ちょっと誘ってみるだけや。ほら、神さんも寂しくて偶然一緒になった委員長をたまたま選んでるだけかもしれんやん? 鳥の刷り込みと一緒や。もしかしたら? たつみーじゃなくてもええかも知れんしー?」
「……むぅ」
あはは。めっちゃ不機嫌そう。
あえて気に触るような言葉選んだけど、効果ありまくりやし。
流石たつみーや。素直でバカ真面目で馬鹿正直。
そう言うとこ嫌いやないんやけど、今はすまんけど利用させてもらお。
「うちも神さんと仲良くなっときたいし……あぁでもそっか。たつみーも怖いもんなぁ?」
「……怖い?」
「たまたまたつみーに懐いてるだけの、実は誰でもええかもしれん神さんが? もしかしたら、うちに取られてしまうかもしれんの、怖いでちゅもんねー?」
「は、はぁ!? なによその言い方! 勝手にすればいいじゃない! でも神さんは『私が』いいって言ってたけどね! 神さんに断られて泣いたって知らないんだからね!!」
煽られ耐性ない子やな……こんなやっすい挑発に簡単にのってくるなんて。
なんか子どもを騙してるみたいで、ちょっとだけ心が痛むわ。
でも、たつみーの単純さも面白いネタではあるんやけど、それよりも今は神さんや。
「よっしゃー。んじゃたつみーからオッケーも貰えたし、そうさせてもらうわー」
「ふんっ! 明日の夜に泣いてても慰めてあげないからね! ひどいこと言った巳継さんが悪いんだから!」
それきりたつみーはプリプリ怒りながら、机に向かって中断してた宿題を始めだして。
それを見届けて、うちは明日できた楽しみを思いながらベットに潜り込んだ。
ちなみに委員長の仕事で忙しいたつみーと違って基本暇なうちは、宿題はガッコの中休みんときに片付けたし、寝支度も済ましていてあとは寝るだけやった。
以前から気にはなっていた、あの神さんとの初絡みである。
話してみたらどんな子なんやろ?
本気でたつみーを好きなんか。
実は相当のタラシで、女の子やったら誰でもいいんか……いや、流石にそれはないか。
さっきたつみーを挑発するために自分で言ったことではあるんやけど、あの神さんとはあまりにイメージが違い過ぎやし。
あの見た目、普段の様子、それにみんなが言うてる噂ともあまりに違いすぎて、さすがにギャップで脳がバグるわ。ないない。
……あと、たつみー。
売り言葉に買い言葉でさっき勝手にしろ言うたん後悔してんのか知らんけど、うちのことチラチラ見過ぎや。
視線が気になって寝にくいやろ。アホ可愛いなぁ。まったく。
そんなこともあり、寝入るのに少し時間はかかったものの。
久々に感じるワクワクした気持ちを胸に、うちは眠りに落ちていったのやった。
◇◇◇




