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不死なるプレイヤーズギルド  作者: 笑石
本編……?
133/134

第129話 激おこ異端審問官ズ

 


「赦しは、ない」


 異端審問官。

 この世界の創造神である星神アルプラへの信仰───その絶対を、この世界の者達に遵守させる為に組織された神の尖兵。

 星を創る天体魔法が一つ《極光》を与えられし彼らの振るう力はまさに神の片鱗。すなわち世界において最強の一角と言える。


 そんな彼ら、約十名からなる神の使徒たちが一堂に会し、一人の男の言葉を神妙な顔で聞いていた。


「奴らは、あまつさえ聖女の……神の《極星》を利用した」


 聖公国。アルプラ教の本山である大国、その頂点は聖女だ。

 しかし聖女とは象徴であり、あるいは神の代行でもある。


 聖公国にはもちろん、人間の国としての長が存在しているのだ。


 大公。聖女と異端審問官、アルプラ教のトップとして君臨する三つの柱───その一人。


「処断せよ、目標はプレイヤー……及びその背後にいた者だ」


 大公と異端審問官は全く畑違いの存在だ。

 しかし、一つだけ共通した、大義がある。


 それは、アルプラ教の『絶対』。


 アルプラ教を、星神アルプラを軽んじる者を赦さない。



 *



「やれやれ、やってくれたよ。無差別にプレイヤーが処分されかねないね」


「ふっ。イベントみたいなものだ」

「あ〜あ〜。しばらく隠居だねぇ」

「俺のジム大丈夫かなぁ」

「レベルがキツイぜ、どこまで生き残れっかな」



「でもまぁ……おそらくは隔離された空間にある未実装地域には、興味があるよね。しばらくそこに身を隠してもいいし……僕は、実行者を探しにいこうと思うけど?」


「俺も参加しよう。ちょうど、頼まれごともあるからな」

「ほぇ〜。レッドが人のためになんて珍しい」

「こりゃ嵐になるなぁ」

「私も行くぜェ、とりあえず関係してたプレイヤーの《痛覚制御》なんてぶち抜いてやる」


「ふふ……けれど、一体何者なんだろうね……。そうそう、異端審問官も動いているんだ」



「だからさ、これは───争奪戦だよ。僕達プレイヤーと異端審問官との、《極星》を巡った、さ」




 *



「ロードギルさん」


 元異端審問官であり、一癖も二癖もある異端審問官達を束ねていた長でもあったロードギルという男は今、迷宮都市で探索者として生計を立てていた。

 彼は異端審問の力、すなわち《極光》を失っている為に当時より相当弱体化している。


 故に住んでいる家に元部下が訪ねてきた時、彼が漲らせている力を前に退路を確認してから身構えた。


「お久しぶりですねぇ」


 丸眼鏡が特徴の、むしろそこしか特徴がない中肉中背の男だ。人の良い笑顔を浮かべているくせに、後ろ手で扉を閉める手つきに油断はない。


「『丸鏡ガンキョウ』……何故、ここに」

「ロードギルさんには少し聞きたいことがあるんですよ」


 バリィィン! と窓ガラスをぶち抜いて侵入してくるワカメのような癖毛の蛇のような顔をした男、鋭い眼光を携えてその男は腰の剣を抜き放った。

 ロードギルはその剣を、彼が飛び込んできたと同時に抜いていた剣で防ぐ。


「ほぉ……っ! 防ぎますか。流石は、ロードギルさんだ」

「『蛇眼ジャガン』!?」


 ロードギルの視界の端で、『丸鏡』が懐から杖を引き抜くのが見える。『蛇眼』を抑えながら、『丸鏡』の攻撃を防ぐ事は今のロードギルには不可能だ。


 冷や汗が背中を流れる。しかし突如としてロードギルは宙に浮いた。床板が文字通り消え去ったのだ。

 その場にいる三人全員が虚をつかれ、ロードギルもなんとか上手く着地するが、混乱の中にいた。その彼の手を何者かが引いて走り出す。


 赤い髪の男、どこかで見た記憶があり、そしてあの『存在』特有の独特な気配。


「プレイヤー!?」

「走れ、捕まるぞ」


 確か、レッドというプレイヤーだ。ロードギルの部屋はアパートメントの二階にあり、戦闘もそこで行われていたのだが、突然一階に落とされるわその後レッドに手を引かれアパートメントから脱出することになるわとロードギルには何が何だか分からない。


 路地に出て、後ろから『蛇眼』と『丸鏡』が追いかけてこようとしているのが見える。しかし彼らは何かに気付いて動きを止めた。ロードギルはその様子を不思議に思い、顔を前に向ける。


 腰まで届く黒曜石の如き髪、透けたベールの向こうには今にも閉じそうな眠たげな目。修道服に身を包む、まるで霞のように気配が希薄な女が遠くに立っていた。

 彼女は、腰に提げられた刀に手をかける。


「じ、『ジン』……ッ!?」


 おもわず、引き攣った声が喉から出る。ロードギルがレッドの肩を掴み共に身を屈めようとしたその時───既に彼女は、刀を鞘に納めていた。

 彼我の距離にして、百メートル以上。


 レッドの首が飛んだ。ロードギルの髪も僅かに斬り飛ばされ、『蛇眼』と『丸鏡』に挟まれた時よりもよっぽど冷たい汗が背中を伝う。


「じ、『刃』ッ!! お前ロードギルさんを殺す気かッ!」

「大丈夫。アガタに治してもらう」


 叫ぶ『蛇眼』に、遠くでボソボソと呟く『刃』。アガタというのは『武僧のアガタ』と呼ばれる異端審問官の一人だ。見る限り『刃』の側にはいないが、彼女はその彼を頼るという。


「くっ! アガタまで居るのか!?」

「……でもここには居ない」


 ロードギルが叫ぶと、またボソボソと何事かを呟いている。ちなみに長い付き合いなのでなんとなく彼女が何を言っているのかが分かるのだが、相変わらず独特な雰囲気で独特なテンポで話す『刃』にロードギルは思わず苦虫を噛んだような顔になる。


「ロードギルさん。逃げますよ」


 突然、いつの間にか側に立っていたグリーンパスタと呼ばれるプレイヤーがにこやかにロードギルへ向けてそう言った。


「まずい! 『刃』! そいつは斬れ!」


 グリーンパスタに気付いた『蛇眼』が慌てて叫ぶが、瞬きの間にグリーンパスタとロードギルの姿が消失する。

 その場に残されたのは、直前に『刃』が切り落としたグリーンパスタのものと思われる腕だけだった。


「……逃しちゃった」

「ふーむ。私の知覚範囲内にはいないようですねぇ」


 ガックリと項垂れる『刃』。彼女に向けて、近くの建物の屋根に立っていた男が緩やかな口調でそう伝えた。

 その男は、随分とお腹周りが太い、端的に言えば肥満体型だ。彼の足元から木の根に似た光の筋が地面に向けて下りている。


「『天樹テンジュ』の範囲外なんて、プレイヤーさん方は時たますごい個体がいますね」


 普段と変わらない軽い口調で『丸鏡』が歩いてきて、その横に続く『蛇眼』がめんどくさそうな表情を浮かべて口を開く。


「アルカディアの方へ行っているな。全く、どういう理屈なのやら」

「おや、『蛇眼』さん。あのロードギル様相手にも抜かりないですねぇ」


『天樹』からの賞賛に「まぁ、もう気付かれて消されちまいましたが……」とため息を吐く『蛇眼』。落ち込む『刃』は『丸鏡』がニコニコと慰めている。


「くそ〜。こんだけ頭数揃えてこのザマとはな。アガタやリグルトにどんな嫌味言われるかわからんぞこりゃ」

「むむむ。アイツらは『戒仁カイジン』には何も言わないくせに口うるさい」


 頭をガリガリ掻いて、厳しい同僚の姿を思い出す『蛇眼』と口を膨らませる『刃』。出てきた名前に、『丸鏡』と『天樹』は思わず苦笑いを浮かべた。


「まぁ……『戒仁』に至っては、常人の理屈では計れませんからねぇ」


 と、『丸鏡』はそう言うが、異端審問官自体が常人では成り立たない職であることを分かっているのかな? てかお前人のこと言えるの? と『蛇眼』は思う。だがこいつらに言っても無駄だなと心の中に収めておくことにした。



 *



「アァ!? 逃しただァ!? 雁首揃えて何やってんだあのタコどもはよォ!!」


 白髪で目つきの悪い青年が、夥しい数の『死体』の上で一人口汚く叫ぶ。ただでさえ悪いその凶悪な目つきは眉毛が一切無いことでより強調され、三白眼のその瞳はひと睨みだけで人を殺しかねない圧力を放っていた。

 だというのに身に纏っているのは神官服で、とてもではないが神に仕える使徒とは思えない。


 ここは迷宮の中だ、死体はかつて魔物だったはずなのだがまるで原型を留めておらず、元々何体いたのかすら分からない。

 周囲に死臭が撒き散らされ……しかしすぐに迷宮に還元されていく。すっかり綺麗になった地面に降り立って、傷一つないメイスを肩に担いで『アガタ』は近付いてくる人影に不遜な視線を向けて鼻で笑う。


「んだよ、ハズレか……まァ……流石に私でも分かる。お前は違うわなァ、『レックス』」

「んだァ? なんでこんなとこに異端審問官がいんだよ? アガタぁ」


 アガタの視線の先にいるのは、巨大な斧を肩に担ぐレックスだ。魔王騒動から行方不明になっていた男が、何故か今アガタの目の前にいた。


「しかし、一応聞いておくが……《極星》にちょっかいをかけたのは、お前か?」

「……あぁ〜。なるほどな、あの件か。お前の言うとおり関係ねぇよ。けどせっかくだしよぉ」


 瞬きの間に、アガタの目の前でレックスが斧を振りかぶっている。それを冷たい瞳で流し見て、アガタはメイスを振るう。


 ゴッ!


 斧とメイス、衝突して閃光の如き火花が散る。耳をつんざくような轟音が鳴り響き、周囲に撒き散らされた破壊の衝撃は迷宮の床や壁すら破壊する。


「遊んでいこうぜ」


 二撃、三撃、四撃。メイスと斧が衝突し、その度に周囲に破壊の波が広がっていく。しかし両者とも一歩も引くことはない。

 先に異変が起きたのは、レックスの持つ斧の方だった。二人の強力な衝突に耐えられなくなったのか、僅かに刃が欠けてヒビが入っていた。


 更に衝突。斧は完全に砕け……る、その前に手を離していたレックスはその勢いのまま拳でアガタの顔面を振り抜く。あまりの威力にアガタの顔は陥没し、眼球がはみ出た。

 だが、彼はそれでもメイスを振り抜いた。斧を砕き、更にレックスの顔を叩く。


 凄まじい、凡そ人体から鳴ってはいけない音を出してアガタの身体が宙を舞う。レックスは僅かによろめくばかりだったが、メイスを受けた傷は目に見えてはっきりと分かる。


「さすがだな、アガタ。俺に傷を付けられる奴は数えるほどしかいない」


 数メートル吹き飛んだアガタは、むくりと何事も無かったように起き上がった。

 すると、眼球が飛び出し変形していた顔面は巻き戻し再生のように元に戻っていき、やがて服についた血の跡以外は元通りになっていた。


「チィ……負け犬が」

「耳が痛いぜ」


 悪態をつきながらアガタは懐から小瓶を取り出し、幾度もレックスの斧と衝突したのに『無傷』のメイスへと中に入っていた液体を振り掛ける。


「ふん……相変わらず、バカみてぇに固い武器だ」

「……《神の怒り(イーラ)》」


 敬虔なる信徒による神への百日にも及ぶ祈りによって祝福を得た《祈水》。その聖なる供物で濡れたメイスに、アガタが《極光》と共に更なる祈りを献げる。

 肌を叩くような威圧感がアガタから溢れ出し、もはや暴風もかくやという勢いにレックスですら思わず顔を腕で隠しそうになる。目を細めながら、レックスは獰猛な笑みを浮かべた。


 アガタの持つメイスは、ただの武器ではない。かつて存在していた『神の代弁器』である『聖剣』。今は失われてしまったそれに連なる系譜のものだ。

 代弁器としての機能が与えられなかった代わりに、込められし『界力ファルナ』はその全てをその存在の構築に使われており、端的に言うなればこの世界において『不壊』の性質を持つ。

 それは世界最強の界力ファルナを持つレックスであっても例外ではなく、『不死なるプレイヤーズギルド』を持ってしても破壊するのにどれほどの時がかかるか分からないほどの『性質』だ。


 アガタは、その武器にありったけの『破壊』を込めることができる。異端審問官とはいえ、一応職業は僧侶なのだが。


「ハッ、祈りが破壊に転ずるとは……お前は神に疑問を抱かんのか」

「疑問もクソもあるか、神が絶対だ。だがなァ、教えてやるよ、創造と破壊は表裏一体。献げた先がそれなんだよォ」



 *



「ダメだな。アガタのやつ、熱くなっている」

「アガタが?」


 聖公国。大公の執務室にて、地図を大きな机に広げて二人の男が話し合っていた。一人は大公で、もう一人は褐色の肌に灰色の髪をした壮年の男だった。


「レックスと遭遇したらしい。しかし少なくとも奴は関係がないとのことだ」


 壮年の男が静かに言う。それを聞き、思わず唾を飲み込んだ大公は困ったように眉を寄せた。


「それなのに、もしかして交戦しているのか……。遭遇したのが、よりによってあの二人とはな、血の気が多い……」


 大きくため息を吐いて、大公は額を抑えた。出会って欲しくない二人であったが、偶然とは怖いものだ。


「リグルト、お前の占術では分からなかったのか?」

「……元々私が探そうとしたのは、《始原十二星》だ。奴らは全てが大きすぎる、分別はなかなか難しい」


 今回の事件に、大公は《始原十二星》が絡んでいると見ていた。更に『聖女』とは懇意の仲にあったロードギル元異端審問官こそを最も疑っており、彼と《始原十二星》が絡んでいては戦力的に敵わないとのことであれほどの数の異端審問官を送り込んだわけだが……。


 アガタが労力の無駄遣いだと、壮年の男リグルトに『占術』と呼ばれる力で《始原十二星》の現れる可能性が高いところを調べさせ、自分一人で勝手に出かけてしまったのだ。


「そのくせ、レックスと戦闘を始めるなどと……アイツはロードギルを取り逃した連中に文句を垂れていたが、他人の事を言えた立場ではないな……」


 リグルトは露骨に呆れた顔を浮かべ、大きくため息を吐く。肩をすくめ、大公をジロリとみて突然部屋の外へ向け歩き出した。


「どこへ行く?」


 不思議に思った大公がそう聞くと、扉に手をかけてリグルトは僅かに振り返る。


「私が出る……」



 *



 迷宮都市のとある魔道具屋。店主であるヒズミが入り口に置いてある立て看板を「開店中」に起こしてから、鼻歌混じりに店内に入ってきて片付けをしながら奥へ向かっていく。

 カウンターの向こうへ回り込み、ゴソゴソと何かを弄くり回す。ふと、妙な気配を感じて振り返る。

 カウンターの脇には、一つだけ椅子が置いてある。それには大した理由がないのだが、来客があったりした時は勝手にそこに座ったりしている。例えば緑髪のめんどくさいプレイヤーなんかはそこに座ってベラベラと何事かを喋っていたりする。


 その椅子に、黒い髪の青年が座って本を読んでいた。


「おわっ!」

 思わず叫ぶヒズミ。


 装飾のほとんどない黒一色のシャツを、同じく真っ黒のズボンの中にきっちりと入れたシンプルで清潔感はあるが何故か異質な雰囲気を感じさせる服装。革靴に至っても光沢のある黒で、何故か靴下だけ真っ白である。

 青年はヒズミがやっと自分に気付いた事を察して、手に持っていた本をパタンと閉じて顔を上げた。


「『忌本グリモワール』……」


 ボソリとヒズミがそう呟いた。

 視線の先には青年が持つ黒い本がある。その名が似つかわしくない、黒地に銀の刻印が入ったその本は傷一つ付いていないまるで新品の様な物だが、同時に遥か昔から存在しているような古めかしい雰囲気が綺麗な装丁とページに篭っていた。


「《イクス》か」


 睨むように、ヒズミは青年の顔を睨んだ。

 彼は、感情の一切が抜け落ちた目を見開いて僅かに微笑んだ。光彩の無い黒の瞳は見ているだけで吸い込まれそうで、もはや闇と言うが相応しい。


「お久しぶりですね、ヒズミ。何度も言いますが今は『戒仁カイジン』と呼ばれていますので、できればそのように呼んで頂ければ」


 真っ白な肌も相まって人形の様な印象を受ける外見に反し、その口から出てきたのは随分と人の良い声だった。

 その異様さにヒズミは思わず眉を顰める。相変わらずだ、と思いながらも。


「今更私に何の用だ。今は異端審問官をしているんだったか? そのくせアルプラとやり合った時にお前は居なかったらしいじゃないか」


 戒仁カイジンは異端審問官である。そして、ヒズミやハイリス達と旧知の仲でもあった。

 アルプラと一悶着あった際、異端審問官達はハイリスによって無力化されている。しかしその時に戒仁カイジンは居なかったと、ヒズミは後になって聞いていた。

 当時、作戦を考えていた時にヒズミやハイリスにとって厄介な存在だったのがレックス、並びにこの目の前の戒仁カイジンと言う存在だったのだが……。

 結果的に戒仁カイジンがヒズミ達の前に姿を現すことはなく、拍子抜けだったとハイリスは語っていた。


「えぇ、まぁ。ちゃんと見てはいましたよ。良かったですね。目的を達成できて」

「あの時は、何をしていたんだ」

「見てました」


 ヒズミは更に眉を顰めた。

 長い付き合いだ、多分本当に見ていただけなのだろう事が分かる。

 異端審問官はアルプラを絶対とする信仰者達による戦闘集団だが、この戒仁は異端審問官どころかアルプラ教信者を名乗ることすら本来ならば許されない……存在だ。


「ところでヒズミ、私が何をしに来たのか、言わずとも分かっていると思いますが?」

「……まぁ、はっきり言って私は関係ないし、誰が何をどうしたのかもよく知らんぞ」

「そうですか。分かりました」


 何、と言えば。もちろん聖女の持つ《極星》を利用した件だ。何者かが神からの恩寵である《極星》を悪用し、私利私欲のために使ったとされる事件。


「はぁ? それだけでいいのか? わざわざそんな事のために驚かせやがって……」

「お仕事ですから。《極星》を利用と言っても、そんなことが可能な存在など限られていますからね」


 神の恩寵を、私利私欲の為に使うこと自体難易度が半端ではない。だからこそ《始原十二星》が疑われ、例え弱体化していたとしても『魔女』と呼ばれる厄介者であるヒズミが疑われるのは必定とも言えた。

 だが、戒仁はヒズミの否定の言葉を素直に信じた。立ち上がり、用は無くなったと外へ向けて歩き出す。


「しかし、《極星》を利用してまで《外》へ追いやりたかったあの子は一体何者なのでしょう? ヒズミは、たしか仲が良かったようですね?」

「いや……まぁ、プレイヤーの中では確かに一番交流が深いが……」


 複雑な感情を隠さず顔に出し、ヒズミは腕を組み唸る。


「何者、ってもなぁ……なんなんだろうなぁ……疫病神かなぁ……」


 ヒズミは、色々と情報通である。

 今回の、ペペロンチーノを封じ込める為だけに《極星》を利用した事でアルプラ教の怒りを買った集団を抹殺すべく、異端審問官が全員動員された事も既に知っている。

 はっきり言って、前代未聞である。

 まだ《極星》の利用だけなら、ここまで大事にはならなかったのかもしれない。しかし、今代の聖女は《アルプラ》をその身に宿した神代の再来ともいうべき偉業の持ち主だ。

 故に、彼女の存在自体が前代未聞であり、その彼女ごと……ついでにオマケが二人ほど、《外》へ追い出したというのだから……それはもう、聖公国は怒るしかない。


「なるほど、貴方が神と呼びますか。やはり彼女こそ創世より最も『混沌カオス』なこの時代の、嵐の目ともいうべき存在な訳ですね」


 戒仁が、感心したように大袈裟な表現をするが、割とペペロンチーノが絡んでいる大事件が多い為にイマイチ否定しづらい。

 もちろんグリーンパスタやk子、ポラリス率いた帰還組の方が世界を巻き込んだ事件の中心には居る。

 でもなんやかんやであいつも絡んでるしなぁ〜大元辿ればあいつかグリッパが絡んでました〜って事多いんだよなぁ……。ヒズミはプレイヤーになってから集めた情報をまとめた結果、そういう結論に至っていた。


「まぁ、良いでしょう。それでは私は別をあたりますね。さようなら」


 最後にそう言い残して、戒仁は店の外へ出て行った。ヒズミはドッと疲れを感じて椅子に座り込む。

 戒仁カイジン、もとい……《始原十二星》の《イクス》と話すのは久しぶりだ。奴は特に加護神の影響が多い存在のため、話が通じているようで通っていない独特の感覚がすごく疲れる。あと純粋に不気味。


「しかし、居ないくせに揉め事だけは引き起こしやがるな……あの女は」


 ボソリと、脳裏に緑髪の少女を思い浮かべながらそう呟いて、ヒズミはもう一度深くため息を吐いた。



 *



 その頃のペペロンチーノ。


 悪霊に操られた魔族あらため『森の民』の連中にボコボコにされていた。



 *



【大体】アルプラ教さんブチ切れる【ペペロンチーノのせい】part.1





TIPS

戦闘集団がワラワラ出てくる感じの話を書きたかっただけ説があるぞ!



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― 新着の感想 ―
[良い点] おれたちじゃない ペペロンチーノがやった しらない すんだこと ヒズミさんが噂してるところから、場面転換が入ってフォーカスされたペペさんが、ぼこぼこにされながらくしゃみしてる姿までは見え…
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