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不死なるプレイヤーズギルド  作者: 笑石
本編……?
119/134

第116話 仙人フゥムス

珍しい翌日更新


TIPS

・読者が忘れてそうな設定

無限ことアンリミテッドインフィニティはプレイヤー以前は男であると公言しているタイプのTSっ娘。

もはや死に設定となっているが、あらゆる武器や器具によって他人をいたぶるのが好き。






 割と語りたがりなヒズミさんと、勝手に意味不明な事を口走りながら理解したっぽい雰囲気を出すレッド。意外ではあるが、二人の相性は結構良さそうだった。

 ペラペラと語るヒズミさんに、腕を組んでいちいち鼻を鳴らすレッドをぼんやりと見ながら俺と無限はちょっと前に倒したストーンタートルとかいう亀の肉を串焼きにしている。

 表面がジワリとテカるが、脂が少ない肉質なのか地面の火に煽られるがまま焼き目がついていく。


 無限の袖から香辛料が飛び出し、軽く味付けをしてガブリ。かつて日本でもミドリガメみたいな外来種が、食用のために輸入されてきたと聞いたことがある。

 つまり、亀は食える。そしてこのストーンタートルの肉も見た目は割と美味そうだった。


 しかし実際口にしてみると物凄く筋張っていて、なんならこっちの歯が負けそうなくらい硬い肉だった。そしてなんか硫黄臭い。この山は火山なの? 普段はその辺の石食ってんのか? 


「まずっ……」


 思わず口にした無限に、俺は情けねぇなと更に新しく肉を取り出す。それは既に切り分けてあり、牛タンにも似た肉質の白っぽい肉だ。

 黒いベリーショートの髪を揺らし、目付きは悪いがプレイヤー特有の容姿の良さからメスガキと思えば可愛らしく見えてくる無限が俺の取り出した肉を覗き込んで首を傾げる。


 ほれ、痩せぎすのお前の為に旨くて栄養価の高そうな部分を切り分けて置いたんだ。

 まぁ、そもそもプレイヤーなので太る方が難しいのだが(できなくはない)。


「なにこれ? どこの部位だよ。まぁ焼いてみっか」


 待て待て、俺は同じ部位を……その時はまぁヤギだったけど、生で食べた。だからこれも生でいけるはず。なんなら他の肉も生の方が美味かったかもな。


「ふぅん……」


 少し訝しむ様な目で俺を見て、無限は肉を摘んでクンクンと犬みたいに匂いを嗅ぐ。プレイヤーの五感はかなり高いが、しかし扱う精神は人間なので……つまり無限がその匂いから得られる情報はなかった。


「まぁ、別に死にはしないか……」


 プレイヤーなので食中毒で死んでも別に大丈夫なのだが、無限は恐る恐る俺の用意した肉を一枚口に入れた。


「ヴォェッ!!」


 その瞬間、まるで口の中に雷が落ちた様な顔をした無限は涎を垂らしながら肉を吐き出す。

 瞳に大粒の涙を蓄え、顔を青くして吐き気を堪える様に口を押さえる無限は口にした肉があまりに刺激的だったのか、腰の辺りがビクンビクンしている。

 その様子を見ていると少し嗜虐心がくすぐられるな……。ニヤリと俺は口角を上げた。


「ゥッ……! ヴ……っ! な、なにこれぇ……」


 今にも泣き出しそうな顔で嗚咽を漏らす無限に俺は真剣な顔で聞く。

 そんなにやばいの? どんな味だった?


「なんていうか……すごく、臭みがあるというか、エグいというか……モツ系か? いやなんか違う……」


 そっかぁ……俺は残った肉をその辺に投げ捨てる。やっぱ精力がつくといっても精巣は食うもんじゃねぇな


「へ? え? なんて?」


 目を丸くする無限に、俺はニコリと笑顔を向ける。


 さっき食ったの、人間でいうところの金玉だよ。


「……ッ! 死ねッ!!」


 パァンッ! と、顔を真っ赤にした無限から首が捻じ切れそうなくらいのビンタを食らった俺は数メートル地面を滑っていく。

 死に体の俺は膝をぷるぷるとさせながら立ち上がろうとし、それも叶わず膝から崩れ落ちる。


 タラの白子とかは美味いのにな……。そう言い残して、俺は死……なずにレベル消費による肉体再生を行った。レッドが。


「ペペロンチーノ。遊んでいる暇はない」


 あ? んでテメェにんなこと言われなくちゃなんねぇんだよ? あァ?!


「何あの急なチンピラムーブ」


 ヒズミさんが俺を指差しながらめんどくさそうな顔をして無限に聞くが、未だ怒っている無限は「もう知らないっ!」とテンプレツンデレが言いそうなくらいの速度で顔を背けている。


「あいつレッドに対してもいつもあんな感じだよッ!」

「なるほどな、特別な相手には、特別な対応ってわけか……ツンデレってやつね」


 ヒズミさんがおぞましい言い回しを俺に対してしているので、スンッと落ち着いた俺は彼女の前に無表情で立ち、弁解する。

 ほんと違うから、やめて。


「……そこまで?」


 そこまでだよ。俺のまるで死人の様な顔に、ドン引きしているヒズミさん。

 後ろからついてきたレッドが「ふっ」と鼻を鳴らす。


「先へ進むか」




 *



 やがて洞窟の様なところに辿り着いた。いかにも、人が住んでいそうな気配がする。俺はヒズミさんに聞く。

 毒の煙で燻すか? それともただの煙で炙り出すか?


「なんでだよ。普通に行くぞ」


 普通に中に入っていった。入り口は大した大きさではないくせに、中に入るほど空間は広く大きくなっていく。

 そして気付けば、大聖堂並だと感じてしまうほど広い空間に出た。そしてその中央に置かれた簡素な祭壇の様なもの……そこで胡座をかいて瞑想する男が一人。


 上半身は裸で、下半身は質素な腰巻きだけを身に付けている。筋肉質だが、やけに細い身体だ。髪の毛は一本も生えておらず、その代わりに頭皮には謎の紋様の刺青が彫られている。

 纏う雰囲気を例えるならば、雄大な草原に聳え立つ巨大な一本の杭。あらゆる全てを受け止めて支えうる抱擁力に、いかに強靭な岩盤でも穿ち抜く鋭さ……。


 紛れもなく、『超越者』だ。俺がそう呼ぶのは、かつてのヒズミさんやドイルにハイリス達といった連中くらいだが……それに匹敵しうるファルナを目の前の男は内包していた。


 その男が、片目を薄らと開けてヒズミさんを捉えた。僅かに口を開き、驚きに両目を開ける。


「これは、珍しい客人だ。賢者ヒズミ……ふむ……予想はしていたが随分と、『変わった』な」

「単刀直入に聞くぞ、フゥムス。『地波壇チハタン』はお前か?」


 フゥムスと呼ばれた男は静かに頷き、肯定した。


「安心するといい。私は『これ』を悪用することはない。そも現状でいかなる状況においてこれが必要とされるのか……」


 顎に手を置いてフゥムスは考える。ヒズミさんは大したことを言っていないのに、さも聞きたいことが予測できているとでも言うのか勝手に話を進めていく。


「まさか、あり得るのか」


 何かに気付いたのか、驚愕に目を見開くフゥムスにヒズミさんは答える。


「私としても、お前が使い手ならそれでいい。後は、フゥムス……お前が相変わらずなのかどうかを見に来ただけだ」

「そのお連れ達は?」

「こいつらはある意味別の事情だ、しかし私の状態を説明するのに早い」


 俺は無限とこそこそ話をする。

 なになに、なんかもう既に話ついてる感じじゃん。あの人俺には天体魔法を探しに行くよ〜とか言ってたのに。


「私はお前とレッドの世話を手伝ってくんね? って頼まれたけど」


 なんでコイツも誘ったのかなって思ってたけどそんな事情かよ。

 ヒズミさぁん! レッドを自分で呼んでおいて持て余してんじゃないですよぉ!


「勝手に来たんだよ!」


 吠えるヒズミさんに、「持て余してるのはお前のこともだよ」と補足する無限。フッ、と鼻を鳴らす姿が腹立つレッド。

 てか『地波壇』を奪うとか、そういうのしないならはやく帰ろうよぉ!


「うざっ。おいフゥムス、『空雷カラ』は思い当たりがないんだが、何か情報はないか?」

「……自身の手を離れたのなら、もう気にかける必要も無いのではないか? ヒズミ、貴方はやはりお節介に過ぎる……既に様々な呪縛から解き放たれたのかと思われるが、なればこそもう、関わるべきではない」


 まるで諭す様に、静かに淡々と語るフゥムス。どこかヒズミさんの事を慮っている様な感覚すらある。ということはやはり気遣っての言葉なのだろう。しかしヒズミさんは彼の想いを歯牙にもかけない。


「お前に偉そうに説教される筋合いはない。黙ってろハゲ」


 なんて口の悪さだ。外見を気にする前に中身をどうにかしたほうが良いのでは? 思わず俺はその様な言葉をお口から溢してしまい。憤怒したヒズミさんが俺の方まで走ってきてぶん殴ってきた。

 今のヒズミさんは所詮プレイヤーである。現地人と比べて軟弱な拳を嘲笑い俺は殴り返した。しかし俺の拳も軟弱なので決着が付かない。

 ポカポカと殴り合う俺とヒズミさんを見て、無限はどうでも良さそうに欠伸をしているしレッドは鼻を鳴らしていた。


 だが、フゥムスだけは違った。ポカンと俺達のキャットファイトを見つめて、しばらくして大きく笑い始めたのだ。


「まさか、ヒズミ……ッ、なるほどな……私は初めて貴方のその様な姿を見た。本当に、解放されたのだな……」


 笑っていたかと思えば、感動に瞳を潤ませるという器用な真似をしてフゥムスは滲んだ涙を拭う。


「『空雷』を扱う者は私も知らない。しかし、扱える者は人間とは限らない。そして下界にて未だ天変地異が起きていないというならば、みだりに使用されている事はないだろう。ふむ、しかしそも天体魔法を『悪用』できるのかどうかは、私は知らないが」

「まぁ『悪用』なんて価値観を持つ様なやつは、天体魔法使いになる程の力を持てないだろうなぁ」


 俺の首を絞めながらヒズミさんは答えるが、隙だらけだ。俺は自身の悪感情を凝縮した絶許玉を放つ。ピンポン玉サイズしか作れなかったが、例え俺の魔法が効きにくいヒズミさんといえど無傷で済むまい……ッ!


「き、キショイ技使える様になってる……ッ!」


 咄嗟に飛び退き俺から距離を取るヒズミさん。珍しく俺の攻撃に対して驚愕の顔を見せた。

 俺の感情操作魔法は、元を辿ればヒズミさんの真似事だ。それをプレイヤー仕様にマイナーチェンジさせていったのが俺の得意とする感情付与と増幅である。

 しかし、廃人協会による襲撃から魔槍ペペロンチーノに至ったあの一件で、俺はある境地に辿り着いたのだ。それこそ感情の物質化……俺の絶許玉は形を変えて、一本の槍となる。


 くくく、これに触れた相手の精神を侵蝕することができる……。名付けて『魔槍……


『スプリードっ!』


 しかし魔槍スプリードを維持する魔力と、激情ともいうべき感情が足りなくなったので槍は空気中に霧散した。

 俺はどこか悟った様な気持ちになる。なんだかスッキリしたな。今ならなんでも許せる気がする。うふふ。

 悪感情を使い切った俺は慈愛の心に満ちており、自然と笑みが溢れ地面に落ちている小石すら愛でる事が可能になっていた。


 無害になった俺に対してヒズミさんは容赦なく殴りかかった。だが、俺と彼女の間にフゥムスが滑り込む。

 瞬きも追いつかぬ間に、俺とヒズミさんはフゥムスの手によって地面に寝そべっていた。背中をそれぞれ片手で抑えられ、ただそれだけで、力は全くと言っていいほど込められてなさそうなのに……身動きが取れなかった。


「まぁ、せっかくここまで来たんだ。お茶でもしていくと良い」



 *



 洞窟の中、広い空間から別の空間に移動してフゥムスは朗らかに言う。


「寛いでくれ」



 そこには石の机しかなかった。


 またもがらんとした空間。岩肌は奇妙に……まるで墓石の様にツルツルとした表面を見せて、天井から壁、床全てを覆っていた。

 そこそこ広い空間の中心に、墓石の様なテカリの机っぽい石。


 何故、墓石と表現したか。素材は間違いなく、御影石ではない。

 元日本人として墓石といえば艶出し加工された御影石だが、素材はともかく墓石という存在そのものに生者は『死』を身近に感じる事ができる。

 と、理屈つけたが要は単につやつやし過ぎてて不気味だという話である。やりすぎは良くないと思う。まるで鏡の迷宮だ。


「しかし、ヒズミ。貴方と会うのは何年振りか……百では利かないだろう。まだ、貴方は《神》に囚われていた」

「それこそ、ヤツの呪縛から思考だけでも抜け出せたのは百年程前だ。だが、全てから解放されたのはついこないだだぞ」


 どこからか緑茶を運んできたフゥムスは、懐かしむ様にヒズミさんにそう語りかける。横柄な態度でお茶を飲み、ヒズミさんは地べたにふんぞり返った。


「そうか……まさか先を越されるとはな……私の目的の方が、より早く達せられるだろうと、そう思っていたのに」

「解放が目的ではないが、まぁ目的は達した。まだ、これからもあるがな」


 その言葉に、フゥムスは目を見開き、すぐに瞠目した。


「やはり、貴方とは相容れない様だ。私とは違う」


 俺は腹が立ってきた。

 なんだか蚊帳の外だからである。聞いててもいまいち何を話しているか分からない。

 ムキーっ! と俺は両腕を振り上げた。

 フゥムス! ヒズミさんがアルプラをぶん殴る事が目標だったのなら、テメェの目的ってのは、なんなんだよォ!


「なんと、それを達したと言うか。可能なのか、あり得ない」

「やったよ。まぁ色々と、奇跡もあった。おかげで今はこのザマだがな」


 俺の言葉を聞いてヒズミさんの達成した目的を知ったのかパチクリするフゥムスに、俺はムキーっ! と地団駄を踏む。横で無限が「構ってちゃんかな?」とか言っているが、断じて違う。この世の全てが俺に構う事は義務である。つまりはまぁ、構ってちゃんであった。


「私の目的は、死ぬ事だ」


 突然腕を組み真剣な顔でそう言ってきたフゥムスに、俺は目をパチクリとさせた。



TIPS

なんで亀の精巣が精力がつくと、ぺぺさんが断言していたかと言うとヤギの睾丸が精力つくと言われたからだぞ!

つまり適当を言ってたんだ!

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― 新着の感想 ―
[良い点] プレイヤーと関わり自身もプレイヤーとなったことで、ヒズミさんの語彙が汚染されていく……というかヒズミさんがペペさんへの有効打繰り出したの初めてかな? しかしヒズミさんから暴力を振るわれて…
[一言] ヒッズミさんプレイヤーライフを満喫してて何より。牛の金BALLはコリコリしてて意外と美味かったんですが、亀は違うんですかね。更新早くて嬉しい
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