真の完敗
未知のバグを見つけ出し、無事にサイトのログイン画面を突破することに成功したクロ達。
休む暇もなく、二人は次へ進む...!!
カチカチ──カチカチ──
「ふんふんふんふん〜」
掠れた声で、気分良く鼻歌を鳴らす。
複数のモニターにはネットワークの監視や、監視カメラ映像、そして世界のニュース情報なども流していた。
男が軽く、そして素早くキーボードを叩いた。するとそこに映ったのは渋谷区役所の戸籍データ。
「ふーん、やっぱりね。」
モニターの反射越しに、薄笑いを浮かる男が映る。
そこで右のモニターに一件の通知が入った。そこには「Pravos、国防総省にサイバー攻撃か。」という記事の見出しが。
「あはっ、遂に動き始めたんだね。───プラヴォス。」
「──システム解体、開始。」
そう放ち、エンターを強く押した。
次の瞬間、画面が切り替わる。やがて映し出されたのは真ん中に大きく「1216」という数字だけが。
「なんだこれ...数字?──いや、なにかのパスワードか?」
クロの手が止まる。思わず目を見開いた。
「もしパスワードだとしたら、どこで使うんだ?」
白賭は首を傾げる。
「恐らく、このサイトをまた調べ──」
クロがキーボードに手を置いた瞬間に、画面が再び切り替わる。
「なっ!?」
切り替わった先は国防総省のホームページだった。
唐突の展開に白賭の脳は理解が追いつかない。溢れ出す言葉は喉でつっかえて上手く発することが出来ない。
カチ─カチカチ──
「くっ、さっきのサイトに戻れない!なぜか履歴が無い!」
クロは必死に履歴を遡る。しかし、直前のサイトはおろか直近のハッキングした0bitのサイト履歴すら消えていた。その瞬間───空気が凍りつく。
「どっ、どういうことだ?」
白賭の口からようやく出た言葉は、どこかぎこちなかった。
「わからない...!けど、なにかまずいことが起きていることだけはわかる...!」
(何者かに消された...!?でもどうやって...?)
クロの目が揺らぐ。手は止まり、思考することだけに集中をやっていた。
「侵入でもされたのか...?いや、でもAIが検知するはず...」
静かに白賭がつぶやく。その声からは自身がなく、弱々しく聞こえた。
しかし、ここでクロがはっ!となにかに気がつく。
「それだ...!───」
それだけを言い残し、クロはターミナルを起動させる。
ターミナルはとあるファイルを調査していた。──それは0bitが残していったファイルだ。
「もしかして、ゼロビットの仕業だって睨んでるのか?」
クロは黙っていた。白賭は手に汗握る。
「でも!AIが検知してないんだぜ!?違うはずだ!」
「それが内部からの接続だったら!」
クロがようやく口を開く。それと同時に、モニターの動きは止まっていた。
「どういうことだ...?」
白賭が恐る恐る口を開くと、クロが椅子を少し避けてモニターを見せた。
「これはっ...!」
白賭の顔から血の気が引いた。
「まさか、このファイルにもデータを隠していたなんてな。ハッカーの裏を突くとは...」
クロはまたしても0bitという男に圧倒されていた。もはや呆れるほどに。
「てか、今も侵入されたままなのか!?」
「いや、ログを見たけど切ったみたいだ。」
白賭は胸をなでおろすも、まだ一つの疑問が残っていた。
「待て、まだなぜ履歴を消したのが0bitだと思ったのか聞いてない。」
白賭の言葉を聞いたクロはマウスを動かし、別のターミナルを表示させた。
「これだ。コマンドログ。」
ターミナルにはコマンドが打たれた時間、そしてコマンドの内容が書かれていた。
「このログの消し方、雑なんだ。この消し方は臨機応変に区別が出来ない、つまりプログラムを使った消し方に似ている。そしてゼロビット、ヤツもプログラムを使ってログを消していた。だからゼロビットだと思ったんだ。」
クロが少しの笑みを浮かべる。これでもゼロビットに勝ったと思いたかったのだ。
「なるほど。でもまだわからないことがあるんだ。なんで──」
プルルルル──プルルルル──
白賭の言葉を遮るように、クロの携帯に着信がかかる。
「恐らく、ゼロビット。」
クロが携帯を点けると、そこには由香里の文字が。
「あっ!」
クロの顔は青ざめた。
「まずい、忘れてた...!!」
クロが急いで由香里の電話にでる。
「もしもし?由香里だけど、集合場所に着いたよ...?」
「誰だ?彼女か?って、クロには出来ないか、すまんすまん。」
白賭が冗談を交わすが、クロはそれどころではなかった。
「ちげぇよ!新しいプラヴォスの仲間!」
「は!?ってもしかして、空白の一年が存在するあの子か!?」
唐突の告白に白賭は目を見開く。おもわず声が大きくなるほどだ。
「そう!その子!」
クロが騒がしく動き回り、支度をしている片手間で白賭と話す。
「誰と話してるの?」「信用できないだろそんなの!そもそもどうやって説得したんだよ!まさかお前脅してないだろうな!?」
「だあああちょっと待って!そんな一斉に話されてもわかんないって!」
結局クロは、三十分も由香里を待たせた。
「ごめぇぇん!ほんとにごめんなさい!もうほんとに!」
クロが謝りながら由香里の元へ走る。
「全然大丈夫っ、ってあっちに居る白髪の人もチームの人?」
ゆっくりとクロの後ろを歩いていた白賭に目を向ける。
「え?あぁそうそう。アイツはプログラマーでね。色々手伝ってもらってるよ。」
「へぇそうなんだ〜かっこいいっ!」
「かっこいいって...確かに外見はね...」
クロが小さな声でつぶやくと後ろから白賭が満面の笑みで頭を掴む。
「はじめまして、由香里ちゃん?クロから色々聞いてるよ。」
「はじめまして!そうなんですねっ!お名前は?」
由香里がクロをそっちのけで白賭と話し始める。それに不満があるのか、クロは白賭を睨む。
「俺は白賭って言うよ。高校生。」
「へ〜クロくんとは同い年じゃないんですね。」
「あぁまぁ色々あってね。」
白賭もまんざらでもない表情を浮かべる。クロはそれに更に腹を立てた。
「白賭さんって呼んでもいいですかっ?」
「うん。じゃあ俺は引き続き由香里ちゃ....」
「ああああちょっと時間が短くてさ。さっ、基地まで案内するから着いてきてよ。」
クロが白賭の言葉に被せるように言い、歩き始めた。
由香里は少し不満げな表情を浮かべるも、すぐに顔をニヤけさせた。
するとクロは無言で白賭の襟をつかみ引っ張る。
「ちょっと白賭借りるね!」
クロは由香里に向かって笑顔を見せた。
「ちょちょちょ待て、お前あんなに信用できないって言ってすぐ仲良くなってんじゃねーか。」
クロがコソコソと白賭に言う。
「おいおいあれが仲良くなってるように見えるか?建前だよ建前。一応仲良くなっておくんだよ...!」
白賭が必死に弁明するも、クロの疑いの目は晴れなかった。
「嘘つけ。お前めっちゃ楽しそうに話してたじゃん。もしかして惚れてるのか?」
クロはいやらしい表情で白賭をからかい始める。
「惚れてねぇよ...!」
後ろから由香里が近づいてくるのがわかった瞬間、二人は話すのを中断した。
「あの、大丈夫...?その、ずっと話してるから、何かあったのかなって。」
由香里が心配の表情を浮かべているのを見て、白賭は口を開けた。
「大丈夫だよ。心配掛けてごめん。」
白賭のあからさまな言葉にクロは吹き出す。
「ううん、こっちこそごめんね。大事な話ししてたんでしょ?」
「いや、たった今終わったから大丈夫だよ。」
「そっか!じゃあまた一緒に話そ!」
由香里がまた白賭に近づく。再びクロに孤独が舞い降りた。
(だめだ...白賭のスペックに勝てる気がしない...)
クロの後ろに二人だけのスペースが作り出され、クロはただ黙って歩くしか無かった。
(切り替えよう。ゼロビットの問題を考えるんだ...)
頭の中でゼロビットとの出来事を思い返しているとふと直前の出来事を思い出す。
(そういえばそうだ、なんでゼロビットは国防総省のホームページに飛ばしたんだ...?国防総省とは全く関係なかったのに...)
クロがスマホを取り出し、なんとなくコンピューターのログを見返す。
(それにゼロビットとの電話の時、認証を突破すればゼロビットの知っている情報教えてくれるって言ったのに、未だに電話がかかってきていない。)
クロは妙な不信感を抱くも、どうすることも出来ずに、ただ由香里を基地に案内するしかなかった。
風が強く吹き荒れ、男の身にまとっていた白衣が激しく靡く。
男は屋上の手すり越しに上から渋谷のスクランブル交差点を眺めていた。
「淀んでるなぁ。まるで死んでいるのと同然だ。」
おもむろに携帯を取り出す。口笛を吹きながら交差点全体を写真で撮った。
「もうじき、この国は終わる。───それも、国自身が生んだ”モノ”によってね。」
その声は掠んでおり、どこからか”それ”を軽視しているように見えた。
「──さてと、合図が出たことだし、そろそろ出ようかな。」
そう言うと、男は片手に持っていた”USB”をポケットにしまい込み、屋上を後にした。
どこからともなく騒がしい声が増えた。もうすぐで、渋谷を象徴するスクランブル交差点に差し掛かる。
「そういえば、基地に着く前に渋谷を通るし、そこでなんか買おうよ。」
クロが突然、口を開く。白賭と由香里はそれを聞き、目を合わせて微笑んだ。
「確かに、由香里ちゃんがチームの一員になるわけだし、お祝いなんかしても良いかもな。」
「え!?良いんですか!ありがとうございますっ!」
由香里の喜ぶ顔を見て、クロは胸をなでおろした。しかし、相変わらず注目は白賭のままであった。
(こうしてみれば白賭がモテる理由がわかった気がする。──動作だ。由香里と歩幅を合わせたり、目を合わせるときも一緒。話し方だった上手い。)
そんなことを考えていると、目の前にはスクランブル交差点が見えた。
「二人共!スクランブル交差点に着いたよ。」
クロがそう言うと二人は交差点の人だかりを見て目を見開く。
「やっぱり、いつみても人がすごいなここ。」
白賭がおもわず口を零す。
遂にスクランブル交差点に足を踏み入れる。この時、妙な感覚が再びクロを襲った。
───何かが来る...!
白賭が渋谷のモニターに目をやったその瞬間だった。
「あれっ?由香里は?」
隣に目線を戻すと由香里が居なくなっている。
「え?あれっ、本当だ...どこ行ったんだ?」
クロが辺りを見回すも、そこには由香里の姿は無かった。周りに見えたのはスマホに一直線な若者たちのみ。そう、誰も周りを見ていなかった。しかし、さっきまでの雑踏が、途端に遠くなった気がした。
「くっそ、人混みに巻き込まれたか。どうする?クロ。」
「とりあえずあっち側まで行って──」
「見つけたぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!」
交差点に獣のような声が響き渡る。その声は交差点に居た者の目を一瞬にして奪った。
もちろん、クロと白賭も例外ではなかった。
目を向けると、そこには金髪に狼の仮面を付けた白衣の男が一人。
交差点中が静まり返ったかと思えば、再びざわざわとしだし、みながまばらにカメラを向け始めた。
「なんだ...?アイツ...?」
白賭がおもむろに近づこうとする。
「白賭...近づくな。なんだか嫌な予感がする...」
白賭を制止し、クロは少しずつ後ずさりをした。
───案の定、予感は的中する。
男はクロの方へゆっくりと指差した。そして再び叫びだす。
「あの二人が!!!世界的ハッカーの!!!!プラヴォスだぁぁぁぁぁ!!!!!!」
その言葉が交差点中に響いた時、周りに居た人々はこうつぶやく。
「プラヴォスって、あの国防総省をハッキングしたっていうハッカー?」
その言葉を聞き、クロの頭に雷が落ちる。脳内で点と点が繋がった。
「どういうことだ...!?アイツは誰なんだよ!クロ!」
白賭が困惑している中、クロが一言──こうつぶやいた。
「全部、罠だったのか...」
「えぇ?...て、てか!今考えてる暇はねぇ!速く逃げねぇと、偽善に押しつぶされて死んじまうぞ!!」
クロの手を掴み白賭は人混みを突っ切る。しかし、後ろから大勢の人間が追いかける。
「畜生...!路地裏に逃げるしかない!」
白賭の表情が強ばる。この群衆に巻き込まれればその先に待っているのは『死』のみだと知っていたからだ。
路地裏に駆け込むと、そこには十字の分かれ道があった。白賭は止まること無く右に進む。
「良い逃げ道を知ってるのか!?」
引っ張られるがままのクロがようやく口を開く。
「あぁ、全く!知ってたら今頃、俺の顔に余裕が出来てるだろうな!」
白賭の顔は相変わらず固いままだった。
「それで、聞きたいことがある。さっき言った”罠”ってのは何だ?」
白賭が後方に注意をしながら走り続ける。白賭の問いに、クロの表情が変わった。
「...初めてゼロビットに会ったときの事、覚えてる?」
「あぁ。何故かクロのことを知ってて気味悪かったぜ。」
少し息を切らせながらもなんとか話す白賭。
「そう、そこからだったんだ。ゼロビットの敷いたレールを、知らない間に走っていたのは。」
「レール?」
クロが少し間を開ける。路地裏に白賭の荒い息使いが響いた。
「ボクらは、ゼロビットの計画通りに動かされてたってわけ。」
白賭の息が詰まる。思わずクロの方へ振り向くほどだ。
「計画通りって...!」
しかし、思い出したかのように白賭は再び口を開く。
「待てよ、もしかしてゼロビットが自分のサイトをハッキングするように誘ったのも計画の一部なのか?」
クロが真剣な面持ちで静かにうなずく。
「通りで...!導かれてるような気がしたのは気のせいじゃなかったってことか!」
「そうゆうことだ。最初にボクに父親の事件をチラつかせて興味を惹かせ、ハッキングをさせたのも...」
クロが頭の中を整理させていると、不意に口からこぼれてしまう。その言葉を聞いた白賭は頭に一つの疑問を浮かべる。
「でも、なんで俺らにハッキングをさせたんだ...?」
するとクロがその疑問を待っていたかのようにすぐにこう返した。
「そう、ボクもそれがずっと引っかかってたんだ。ボクはハッキングに成功すればゼロビット自身が情報を開示してくれるからと聞いて無心で続けた。──けど、ゼロビットには考えがあった。」
「考えって...?」
白賭が静かに息を呑む。額には冷や汗が伝っていた。
「ずっと、ボクたちはゼロビットのサイトだと思って攻撃していた。ゼロビットの巧みな話術によって気づくことは出来なかったけど...」
「なっ...!?あれはゼロビット管理のサイトじゃなかったのか!?」
クロのありえない言葉に、思わず大きな声が出てしまう。しかし、白賭はあのサイトのことを思い出す。
「はっ!もしかして、俺らは国防総省のサイトを...!?」
白賭の背中に冷たいものが走る。クロはおもむろにニヤけた。
「当たり。ゼロビットはどこかしらのタイミングで自分のサイトと国防総省のサイトをすり替えたんだ。そしてボクにハッキングさせた。」
「そんな...でも、俺らに国防総省をハッキングさせた動機がわからない。」
白賭はしかめ面をみせた。
「それはこれをみれば一瞬で理解できるはずだ。」
クロは白賭にスマホを見せる。スマホに映ったものを見た白賭は、はっとした。
「これは...!」
白賭は言葉を失う。脳内で全てが繋がる感覚が走った。
スマホには「 Pravos、国防総省にサイバー攻撃か。」という記事の見出しが。
「ネットニュースになればほとんどの若者の目に入る。そうすればプラヴォスの第一印象が『悪』と決まる。──って事か...!?」
白賭がクロの方へ目を見開く。すると、クロは皮肉にも苦笑し、こう言う。
「大正解。─その様子だと、ボクが言った”罠”の意味が全部わかったみたいだね、白賭。」
クロは息を切らせながらも、続けてこう言った。
「今までのを全て含めて、ボクらは真の完敗をしたって事だよ。」
由香里を基地に案内する道中でクロは渋谷に立ち寄る提案をする。
しかし、そこで出会ったのは───0bitだった。
0bitは渋谷中に響く大声で「Pravosの正体はあの二人だ。」と晒し上げる。
その時、クロは「これまでの全ては0bitの計画通りだったんだ。」と気づく。
0bitとの決戦は───もう近い...!!




