希望の光
突如として現れた謎のハッカー『0bit』。
0bitはクロの過去を知っているような口ぶりで話しかける。
一体0bitとは何者なのか。
二人は、疑問を"解体"していく...!
───カチカチカチカチ
「はぁぁ。結構やったぞ。黒の方はどうだ?」
「ボクもまぁまぁ終わったよ。にしてもなかなかめんどくさいね、セキュリティ強化。」
「あぁ、なんせ防護壁を構築しては、攻撃して検証ってのを繰り返すんだしな。」
時間は午前の三時。二人は昨日の惨状に向き合っていた。
「まじで明日が休日で良かったよほんと。」
モニター下の曜日を確認し、愁眉を開く。
「まぁその所為で今日も徹夜だけどな。」
「何言ってんだよ、いつものこと。」
「それもそうだな。」
何気ない会話を交わしながら作業に取り組む二人。
しかし、黒の心の中ではあの瞬間が繰り返し映し出されていた。
(テロの首謀者が気になるかい?)
0bitが放ったあの言葉が、黒には気がかりでならなかった。
(ゼロビットは知っていたのか?もしくはゼロビットが首謀者...?)
デスクに頬杖をつく。モニターに映る文字がぼやけて二重に見えた。
「おい、おい、大丈夫か?おーい。」
「はっ!」
「どうしたんだよ。ずっと呼んでんのに反応ねぇから、寝てんのかと思ったわ。」
白賭が冗談交じりに言う。
「あぁ。ごめんごめん。」
「もしかして、体調悪いのか?俺が全部やっとくから休むか?」
予想とは違うあまりの生気のない返答に、白賭は本気で心配をする。
「優しいな、白賭は。でも大丈夫。眠くもなんとも...」
ガタン───
デスクに頭をぶつけ、鈍い音が鳴る。なんとか白賭は黒の体を支える。
「おいおい、まじでやべぇじゃん。休んでろって。」
白賭の上着を黒に掛ける。
「おとなしく寝とけ。」
黒は猛烈な睡魔に襲われ、椅子にもたれかかりながら寝た。
「ったく、無理しすぎだろ。って言っても、WBCをハッキングさせたのはどこの誰だよってなるけど。」
白賭はデスクに戻り、作業を始めた。
「俺もちょっと休憩がてらにゼロビットが残したテキストデータでも見るか。」
管理フォルダから『0bit-data』というファイルを見つける。
(これだよな。それにしても何のために残したんだろうか...)
恐る恐るテキストファイルを開く。自然と白賭は息を呑む。
「誤算だった。西の国にある、ングラ・ライ国際空港、の人間は、根拠もない話をする。うんざりするよ、手も足も出ない。良い意味で言えば人生楽そうだ。」
「なんだ...これ?」
ただそれだけしか出なかった。読み砕いても何も出ず、ただ意味がわからないという言葉がだけが白賭の頭に渦巻く。
文字の文末には一つのリンクが。
「ダークウェブのリンク...見てみるか。」
ダークウェブを開き、リンクを打ち込む。
通信の渦がしばらく巻き、やがて上から少しずつサイトが表示されていく。
「なんだろう...これ?」
背景は黒、中央になにか動画が流されていくのがわかった。
「スクランブル交差点か...?でもなんで?」
スクランブル交差点のライブカメラが流されているのがわかった瞬間、白賭はシワを寄せた。
(ん?なにか書いてるぞ...?)
モニターに顔を寄せると書かれているものが英文だということがわかった。
「カミングスーン...って、まさかテロ!?」
白賭の手が震えだす。
(ちょ...調査するか...?でもできるのか...黒無しで...)
一瞬、白賭の動きが止まり迷いが生まれる。ライブカメラには交差点を行き交う人々が。その中には、手をつないで渡る親子や、幸せそうに笑う恋人同士が見えた。
(いや、やれる...やれる所だけでもやるんだ...!ゼロビットの暗号だって解読できたんだ...!)
白賭の手が動き始める。自身を奮い立たせ、ターミナルにコマンドを打ち始める。
(自動攻撃ツール。一応動かすけど、多分検知しない。ゼロビットってやつはそんな単純なやつじゃない───ハッキングされたあの時、一瞬でわかった。)
白賭の目が、操っている複数のターミナルを点々とする。
(くっ、サーバースキャン結果に異常なしか、こっちはどうだ!?)
白賭が脆弱性スキャンの結果に目を移すも、結果は無い。指先が冷え、キーボードを上手く打てない。タイプミスが連発する。
(こっちもだめか...!今やってるこのスキャンが最後だ...サイト内の隠しファイルのスキャン...なんとか検知してくれ...!)
ピッピッピッピッピ───
結果が順に表示されていく。
(無い...無い...無い...まだだ...!)
目まぐるしく文字が流れるも、結果内容はウェブサイトのアクセス権が無いとのエラーばかり。
(無理か...?)
そう諦めかけたその時だった。
そこには緑の文字で『Found』の文字が、希望の光のように眩しく輝いていた。
(見つけた...!)
白賭は急いでファイルの場所へ打ち込む。
今度は素早くサイトが表示され何やら日本語で書かれた文字が。
「ボーーーン!!!」
(なんだ...!?)
白賭が目を丸めると同時に、コンピューターは勝手にシャットダウンされた。
「なっ...!」
わけもわからないまま、肩を落とす。
「どうやってシャットダウンさせたんだ...」
ふと時計を見ると午前五時。すっかり朝になっていた。
「仕方ない、プラヴォスのセキュリティチェックしてから寝よう...」
白賭もまた、あっけなく0bitに負けたのだった。
「速報です。渋谷スクランブル交差点一帯で爆破事件が起こりました。事件の数分前、何者かが爆発物らしき物を所持し、渋谷の大型ショッピングモール内のスタッフ専用の裏口へ入っていったのを見た。と目撃者が証言しました。」
テレビの中継映像が流れる。ニュースキャスターが状況を放送していた。
プルルル──プルルル──プルルル
女は落ち着きが無く、応答待ちの電話を握りしめ、リビングを歩き回る。
「うわぁぁぁぁん...うぁぁぁぁぁん...」
息子が異様な空気を感じ、泣き喚く。
「大丈夫だからね...きっと...」
女は泣き喚く息子を落ち着かせるため、頬に伝う涙を指で拭う。
「あなた....お願い...電話に出て....」
しかし、あまりの心配に女の口からも思わず言葉が零れる。
(お父さん...お母さん...あのテロさえ、なければ...)
「はっ....!!!」
椅子にもたれ掛かり眠っていた黒が目を覚ます。強く握りしめていた拳には、爪の跡がくっきりと残っていた。
目をこすり、時計を見ると午後一時。
「十時間...?結構寝たな...はぁ、起きるか...」
体を起こしモニターを見る。電源の切れたモニターに反射して自分の顔が映る。
まだ自身の疲れが取れ切れていないのを感じるも、0bitの行方を追わなければならない。父親の真相を知る権利がある。黒の頭の中にそればかりが佇んで退かなかった。
椅子から立ち上がると、白賭がデスクにもたれ掛かり眠っているのが見えた。
「おとなしく寝とけ。」
白賭の口からでたその言葉が、ふと黒の頭に浮かぶ。
「頑張ってるのはお互い様。」
黒は自身に掛けられていた上着を返すように白賭に掛けた。
「さてと、やりますか...」
黒は白賭同様、管理者フォルダにあったテキストを見る。
(ングラ・ライ国際空港...ボクが白賭と出会う前、一度だけサーバーをハッキングしたことがある。でも、暇だったからしただけだ、特に理由はない。なにか関係があるのか...?ゼロビットはボクの過去を知っているような口ぶりだったが。)
様々な考察が黒の頭の中で交差する。しかし、黒はどれも真相に辿り着けそうなものではなさそうだと考えた。
「ん?ダークウェブのリンクだ。」
おもむろにリンク先へ走る。
同じく、スクランブル交差点のライブカメラ、その下には『Coming soon』の文字。
(スクランブル交差点だ...)
スクランブルという言葉にあることを思い出す。
(スクランブル・コード...あれは確か、EMPLILLERの犯行声明だった。)
ふと、点と点が先で繋がったような感覚がした。その時、黒の頭に電流が走る。黒は目を見開いた。
(もしかして...!ゼロビットは、エンプキラーの一員...!?)
しかし、再び新たな疑問が湧く。
(でも、だとしたらなぜボクのサーバーにハッキングしてきたり、お父さんの事について聞いてきたり、ましてやファイルを残していったりしたんだ?)
黒は疑問に埋め尽くされ溺れかける。
「うーん...なんでだ...?」
時計の秒針が一秒、また一秒と刻んでゆく。コンピューターのファンの音が小さく鳴く。
すると、黒の脳内に一つの可能性が浮かぶ。
(挑戦状...?なのか?)
うつむいた顔を上げ、静かにモニターに目を向ける。
(だとしたら...)
キーボードに手を置く。
「やってやる。このまま負けっぱなしじゃ気が収まらない...!
───システム解体、開始だ。」
黒は手を動かし始める。
(このサーバー、やけにリクエスト処理が多かった。ボクのプラヴォスでも渦を巻くほどに。)
リクエスト処理がターミナルに次々と送られる。黒は入念にそれを解析していく。
(きっと何かある。欠点のないサーバーなんてこの世に存在しないんだ。)
キーを弾く音が基地に響く。まるで、ピアノを弾いているかのように流暢に打ち込んでいく。
ターミナルにはエラーや失敗の文字が。しかし、黒は諦めなかった。動き続ける手の原動力。
それは───希望だった。
(まだだ、他の攻撃を探そう...!)
何を打っても結果はいつも同じ。だが、黒にとってそれはどのサーバーに攻撃するのにも一緒で、一つ違うところはセキュリティーが強固であるか、そうじゃないか、たったそれだけだ。
(三年間...三年間もこの時を待ってたんだ...!逃さない...唯一の”希望”!)
キーボードの騒がしいタイプ音に起こされた白賭が口を開く。
「ゼロビットのサーバーを調べてるのか?」
「うん。わかってはいたけど、やっぱり固い。」
「あぁ、俺もやってみたんだが、駄目だった。」
「そっか。でも、大丈夫。──ボクなら出来るから。」
黒の表情は自身に満ち溢れていた。目の輝きは、”あの頃”と少し近づいていた。
「お、おう。」
使い終わった攻撃ツールのおぞましい量を見た白賭は驚きを隠せなかった。
ガチャン────
「どうした...?」
黒がエンターを押すなり、手を止めた。
「システム解体、完了。───見つけたんだ。」
モニターに映っていたのは、さっきのリンクと似ているが少し違う新しいリンク。
「まさか...サブドメイン...!?」
「そう。それもただのサブドメインじゃない。」
「何が違うんだ...?」
「本来のサブドメインの構造とは違って、別の技術であるマルチドメインと合体させている異様な構造なんだ。」
少し不雑な説明に白賭は想像に頼る。
「そっ、そんなの出来るのか...!?」
「うん。技術的には難しくないけど、めったに見ない...っていうより動作が遅くなって実用性がないから存在を忘れてたよ...おかげで最初サブドメイン調査した時、大量にドメインが表示されてびっくりした。」
「動作が遅くなる...って、だからプラヴォスでもサイトの表示に時間がかかったのか!」
「おそらくそうだと思う。」
謎が解消され、白賭の気持ちは少し軽くなった。
「でも、話はここから。見つけ出したこのサブドメインに何があるか...見よう。」
「ああ。」
黒は恐る恐るサイトを開く。エンターの音が基地に響く。
「やっぱりさっきのサイトより表示されるのが速い。」
白賭がつぶやく。
サイトが完全に表示された時、二人は固まる。
「パスワード認証画面...ってことは...まだ調べる必要がありそうだ。」
黒がキーボードから手を離す。
すると、白賭が口を開く。
「なぁ、このログイン画面といいさ、──俺ら、導かれてるんじゃないか...?」
黒はハッとする。
「確かに、ボクは挑戦状だと思った。」
「挑戦状か...確かに俺らにあのリンクを残していくあたり、そうかもな。」
「受けて立とう、二人でさ。」
黒が再び自身に満ちた顔で言う。
「ああ。日本を守るためにもな。」
「あっ、今白賭かっこつけたね?」
白賭の顔を覗き込む黒。
「はぁ!?違うわ!ってか大体お前が....」
プルルル──プルルル──プルルル──
白賭の声に被せるように黒の携帯から着信がなる。二人の目線は、携帯へと移った。
「誰からだ?」
黒が携帯に歩み寄る。
「友達とかか...?」
「いや、名前が不明ってなってる。だれからだろ...」
何気なく黒は着信を取った。
「もしもし?どちらさ...」
「黒くん、だよね...?」
黒と着信相手の声が重なる。
「えっ、なんでボクの名前を...?」
「合ってた!良かったよかった。僕だよ、僕。」
掠れた声で問う口調はどこか既視感があった。
「おいっ、もしかしてそいつ...!」
白賭が言いかけたその時だった。
「ゼロビット─さ。」
一瞬で空気が凍りつく。二人は黙り込む。一気に様々な情報が流れ込んできたからだ。
「なっ、なんでこいつ黒の電話番号を...!」
「お、お前が...ゼロビット...!!」
緊張で手が震える。黒は段々と指先が冷えていくのがわかった。
「そう、僕はゼロビット。」
「どうやってボクの電話番号を...!?」
黒は大きく、しかし震えた声で聞く。まるで蟷螂の斧だ。
「あっはは、知りたいかい?」
ゼロビットはその威嚇に全く圧倒されなかった。むしろ、逆に質問を返すほど。
「ああ、知りたいよ、お前からはいろんなことを聞きたい。」
黒はなんとか冷静さを取り戻し、今度は静かに返した。
「そう。ならば、君が見つけた新しいサイトを調査してみなよ。でも、今度は上手く行かないかもね。──あっはは」
「黒がサブドメインを見つけたこともバレてるのか...!」
白賭の腕には鳥肌が立っていた。───もう逃げ道は無い。遠回しにそう言われているような気がしたからだ。
「それじゃあ、君がトビラを開けるその時──また会おう。」
そう残して0bitは通話を切った。
「....」
黒は携帯を机に静かにおいた。
「ゼロビットは...多分、今のボクらじゃ捕まえられない。」
黒のその言葉には、どこからともなく説得力が湧いていた。
白賭も薄々気づいていたが、黒のその一言で確信に変わった。
「でも、諦めたわけじゃない。」
「え?」
「昨日みたいに、やられてもいい。だから...捨て身で掛かろう。──もう一度”希望の光”が見える、その時まで。」
黒がモニターの方へ目をやり、それに釣られて白賭も目を向ける。そこに映し出されていたのはRSA暗号。
「これは...?」
「白賭が解読していたゼロビットの暗号フォルダ。解読し終わっていたと思ったけど、まだファイルが隠されていたんだ。」
「それが、これなのか...?」
白賭は自身の技術不足を遠回しに指摘されたように感じた。
「あぁ、そういうこ.........」
バタン───
白賭は0bitの残していったファイルの解析を行うも、その強固なセキュリティーから解析を断念する。
しかし、クロの技術によって隠されていた『サブドメイン』を見つけ出す。新しく見つけ出したサイトを解析しようとすると突如、一つの電話が。
電話の相手は0bit。0bitの言葉でクロの進行状況は筒抜けになっていたことが判明する。
電話を終え、作業に戻ろうとしたところで唐突にクロの意識が朦朧とする。
一体なぜクロは倒れてしまったのか...?次回も乞うご期待!




