『0bit』
暗号解読に励んでいた白賭は謎の足音が迫ってきているのに気づく。
足音の正体は一体...!?
「おい、大丈夫かよ。かれこれ三十分もトイレに籠もってっけど...」
「なんだ岳留か...」
迫りくる足音の正体は白賭のクラスメートの岳留だった。
「おいおい、心配してんのになんだはないだろ。」
「あぁ、すまん。痛すぎて死神がお迎えに来たのかと思ったんだ。」
「ははっ、なんだそれ。まぁそんな冗談が言えるってことは大丈夫そうだな。サボってないで早く授業に戻ってこいよっ。」
白賭の冗談に岳留は笑みを浮かべる。自然と岳留の口からひとつため息が出た。
白賭の心には友達を心配させてしまった罪悪感が残るも、日本を救うためなら致し方ないことなのだとも考えた。
上履きの軋む音が遠のいていく。完全に音が聞こえなくなったのを確認すると、白賭はもう一度、パソコンを静々と開いた。
相変わらず、目の前には一つの暗号が佇んでいた。白賭にはこの暗号が「お前には絶対に解けないだろう。」と自信満々に睨みつけてきているかのように感じた。
(画像にデータを埋め込む技術なんて...他にあったか...?)
白賭の頭に直前の座標表記がよぎる。
(待てよ...あの座標みたいな数値が画像のデータ数値に関係してたら...?だとしたらフォルダに画像が存在する理由も説明がつく...!)
白賭の止まっていた手が動き出す。ターミナル全体に進数のバイナリ表記が呼び出される。
(あの座標は多分、行とその字数。だからそれ通りに画像の数値を抽出してやれば...!!)
エンターを叩くと一瞬でターミナルに英数字が表示された。
(俺の狙いが正しければ、さっきのサイトの入力ボックスにこれが通るはず。)
モニターはターミナルから直前のサイトに移り変わり、白賭は入力ボックスという名のパズルにピースをはめ込む。
(頼む...!!!)
サイトは真っ白になり、リロードを始めた。白賭は心の中で祈る。
トイレの窓から差し込む風が少し弱まる。陽光が射したのか、気温も少し上がった。
白賭の表情から完全に血の気が引いた。落ち切った肩は戻ることはなく、ただ脳内には『絶望』の文字だけが渦を巻いていた。画面には再びダウンロードの進捗バーが。
(くっそ...あと何回やりゃいいんだ...?)
白賭はもはや「このファイルは足止めの為のダミーファイルなのかもしれない」という心配すらし始めていた。
(次は何なんだ。)
ダウンロードしたファイルを眺めるが長時間の戦いのせいで白賭の頭はぼうっとしていた。
(だめだ...頭が回らない...終わりが見えないせいでやる気も出ない...)
一応の為と、白賭はファイルを覗く。またしても画像ファイルが一つ。ただ、それだけではなく、そこには一つのテキストファイルが置かれていた。
白賭はテキストを開いた。するとそこに書かれていたのは巨大な素数であった。直感的に、白賭はRSA暗号だと感じた。
(計算、それも数字が大きいな...流石にプログラムに解読してもらうか。)
次は素因数分解を行うプログラムを組み始める。キーボードを打つ音だけが、沈黙の中に響く。
(今のうちに頭の中を整理しておこう。)
白賭は昔からプログラムを描いているおかげで、プログラミングをしている間だけ別のことを考えることができるようになっていたのだ。
(よし、完成だ。)
ほどなくプログラムを描き終え、そのまま実行へ移す。データ処理が少しもたつく。
しかし、数秒もすればRSA暗号は解読された。
(これで出力された数値を画像ファイルの内部に差し込むと解読できるはずだ。)
数値を画像ファイルに挿し込む。すると再び画像はリンク先を示すものへと変わった。
サイトは直前のと同様で、ファイルをダウンロードするためだけのものだった。
白賭は呆れた。まるでマトリョーシカだ。
(やっぱりな、わかってた。)
しかし、次は2つとも画像ファイルであった。どちらも中身は黒で染まっていた。
(2つの画像ファイル...へへ、そろそろネタが尽きた頃だな。)
白賭の目に光が戻り、直感する。───これで恐らく最後だと。
(しかもこの暗号、超楽勝なやつだ。)
白賭はこの暗号の解読方法を知っていた。
(2つの画像を結合させる、そうすりゃ本来の画像が見えるやつだろ。)
しかし、画像は黒く染まったままだった。だが、白賭は自身の狙いが外れたとは思わなかった。
(───俺にはわかる。
これを作ったやつは相当性格が悪い。きっと結合するので間違ってないが、何かが足りないんだろう。考えろ...俺...!!)
思考を巡らせる。「なにが足りないか」「なにか手がかりはないか」ファイルを隅々まで見つめる。
(はっ...もしかして...)
白賭は解読をし終えたファイルを見返した。そして、あるファイルを見たとき、白賭は確信した。
(やっぱり、ファイル名だ...)
白賭はあるファイルの名前をコピーし、それを結合した黒の画像ファイルに挿し込んだ。
(大当たりだ。)
黒く染まっていた画像から文字が浮かび上がってきた。白賭の肩の力が抜ける。しかし、心臓の鼓動はまだ速くなったまま、戻っていなかった。
(一番最初のテキストファイルの名前につけられた数値。あのファイル以外、名前に数字は入っていなかった...!あの数字が答えだったんだ...)
余韻に浸る暇もなく、白賭は解読したファイルを開く。
「よくここまでこれた。軍隊関係の者か、政府機関か、はたまたパソコンオタクか。まぁそんなのはどうでもいいが...これから我々がここに書くことを覚えておくのだ。」
唐突な日本語に違和感を覚える。
「我ら、EMP KILLERは日本を沈没させるつもりだ。理由は至って単純、日本の社会に不満を持っているからである。こんな腐った国は今すぐリセットしなければならない。たとえ失敗に終わってしまっても何度でもリセットを進行するだろう。」
(サイトの内容、あれは本当だったんだな)
白賭の脳内にEMP KILLERのサイトがよぎる。
「そしてきたる日、我らは最終手段である『スクランブル・コード』を実行させる。」
(スクランブル...コード...!?なんだ...それ...とにかく、黒に伝えねぇと...!)
白賭は個室から急いで教室へ向かった。
「先生、体調が悪いので早退します...!」
急いだ様子に先生も戸惑う。生徒からは様々な憶測が飛び交うが、白賭はそんなものには目もくれず、一目散に基地へ向かった。
───プルルル....プルルル....プルルル....
「危ないって!今さっき授業中だったんだよ!バレたらどうすんだよ!」
「黒!よく聞いてくれ!」
「えぇ...?」
珍しく白賭が焦っているのを感じ、黒は動揺する。
「授業中だったのは申し訳ない...!けど、それ以上に大事だ!今すぐ早退してくれ!」
「そっ、早退だって...!?なんでだよ!」
「お前が盗ってきてくれたファイルの中に、EMP KILLERの犯行声明が隠されていた!」
「犯行声明...?」
「あぁ......やっぱりだ。────日本を沈没させるって。間違いなかった。」
「ほんとかよ...じゃあそれの調査のために早退ってことか?」
「あぁ、頼む。黒がいないと流石にEMP KILLERには太刀打ちできない...」
白賭の声が少し弱まる。
「あぁわかった。ボクも今から基地に向かう。待ってろ!」
その声は、リーダーシップのある、頼もしく暖かい声だった。
「ありがとう。」
白賭は電話を切り、基地の方へ一心に駆けた。
約4キロの距離を止まることなく。
「はぁ...はぁ...はぁ...あと少し...」
肺が凍りそうな冷気の中、白賭の耳に入る情報は上がる呼吸音のみ。
眼の前には基地の大きな扉が見え、白賭は足を緩める。
「着いたぞ...!」
人感センサーが反応し、ゆっくりと開く扉。それに合わせるように白賭の足は緩まり続ける。
人ひとり入れる間が出来たところで、白賭は基地内部に駆け込む。
「プラヴォス、頼むぞ。」
USBを挿し込む。起動音と共に金の天秤が映し出される。
(さっきのファイル...恐らくまだデータが隠されているはずだ。そうじゃなければ2ギガもデカくならない。問題はどこに隠されたかだ。隅々まですべてのファイルを解析したはずだが...)
白賭は手当たりしだいのコマンドを打つ。しかし、どれも結果は先程同様であった。
(はっ、サイトならどうだ...?まだ調査してない...!!!)
すぐさま二つのサイトに対し、同時調査を開始した。
(自動攻撃プログラム...俺と黒で作った物の中でプラヴォスの次に有能だ...!)
モニターは複数のターミナルで埋まり、大量の文字が流れていくのが映し出されていた。
(なにか引っかかればいいが...頼む...!)
数十秒後、大量のリクエスト処理、エラーがターミナルを染めたが、成功の文字だけは一向に顔を出さなかった。
(くっそ、無理だったか...せめてサーバー契約先のプロバイダ情報でもいいから特定したかったが...)
白賭はブラウザを閉じ、無言で降参の意を表した。
基地の時計が秒針を鳴らす。壁にかかってあるモニターにはサイバーマップが表示されており、リアルタイムでサイバー攻撃が行われているのが見える。
白賭はしばらくモニターを見つめた。目から光を失い、過去を思い出していた。
(俺にもいつか、母さんと弟の仇を討てる時がやってくるのだろうか。)
左上の方を見つめ、感傷に浸る。
───バーバーバーバーバー!!!!!
沈黙を打ち破るように、唐突に基地内部のAIが警告のビープ音を鳴らし始めた。
「侵入を検知!!!!ボット攻撃によるものの可能性が高いです!!!繰り返します!!!」
「なっ!?侵入者!?一体....何者だ!?」
白賭は自身の鼓動が上がっていくのがわかった。急いで通信ログを確認すると、そこにはなんの異常も『存在しなかった』
「どういうことだ...!?侵入したならコンピューターの接続のログが残るはず...!!」
───ガチャン...ピーピーピーピー
「はっ...!?」
ひとりでに扉が開く。白賭は不意に扉の方へ目を向ける。
「はぁ─はぁ─何が起きてる!!」
声の正体は、息が切れくたくたに尽きた黒だった。
「侵入者だ!ボット攻撃を喰らった!!」
「ボット攻撃だと!?本当か!?」
「あぁ。どうしたんだ!?」
妙なところに引っかかる黒に思わず聞き返す白賭。
「おかしい、ボット攻撃程度じゃうちのセキュリティーを突破することは出来ないはずなんだ...!!」
黒の言葉に白賭は耳を疑う。思わずもう一度検知した攻撃内容を見る。
やはりそこには『ボット攻撃』の文字が。
「間違いない...ボット攻撃だ!」
白賭が警告音に負けじと大きな声で言った。
黒が白賭の近くまで駆け寄る。黒も警告内容を確認すると目を丸める。
「おいおいまじかよ...!仕方ない、俺は侵入者の後を追う!白賭は重要データを全部消してくれ!バックアップは取ってある!!」
「わかった!」
黒は急いで席に付きPravosを起動する。
「あ、接続ログなら見ても意味ないぞ!接続履歴が”無い”んだ!」
「履歴がないって...消してるってことか...!?」
「あぁ、恐らくこいつは侵入と同時に特殊な土産を実行したんだ。内容は...例えばログに書き込まれる特定の文字をミリ秒ごとに削除する、みたいな感じだと思う。」
白賭は皮肉にも得意げに考察を飛ばした。頬には冷汗が伝う。
「なるほど、恐らくそうだろうな。でもおかしい...今そのスクリプトを探してるがどこにもないんだ。」
「まじかよ...あとちょっとで俺もバックアップ終わるから、終わったら俺も手伝う。」
黒のキーボードを打つ速度が段々と落ちていく。
「だめだ...片っ端から探したけど無い...」
黒の手は完全に止まった。白賭のバックアップも終わり、万事休す。
基地に掛けられたモニターはサーバー内の侵入者の動きを映し出していた。
二人はふと侵入者の動きを見る。目線の先には驚くべき光景があった。
「こいつ...いつの間に...!?管理者ユーザーに昇格してやがる!!」
侵入者のユーザー名には管理者のマークが。白賭は目を見開く。黒も早急に権限を昇格しようとした。
「なっ...管理者になれない...!?」
だが、時すでに遅しだった。
「恐らく、侵入者が管理者になった瞬間パスワード変えたんだ...」
「そんなことがボットにできるのかよ!?」
黒の問いに白賭は言葉を詰まらせた。数秒の沈黙の末、白賭は口を開いた。
「もしこれが───ボットじゃないとすれば...?」
白賭は自分ですら驚くような馬鹿げたことを口にした。
「そ、そんな、ボットじゃないわけ...」
「AIの誤検知なら?」
白賭が黒の言葉に被せるように言う。
「このAI検知システムを作る時、動く速さがこれくらいならボットとして検知させるって学習させたよな...もし黒の想定を上回る速度でハッキングを仕掛けてきたとしたら... 」
「....このサーバーが侵入されたのも納得できる、な...」
黒が恐る恐る状況を呑み込む。
「それにしても...尻尾でもつかまないとまずいぞ...!」
黒は再び手を動かし始める。侵入者の動きを知るためモニターに目を向ける。
「侵入者は管理者フォルダに移動してる!恐らくデータを漁るはず...!今がチャンスだ!!」
「どうする気だ...!?」
白賭は黒の動きを不思議そうに見つめるだけだった。
黒はコードエディタにプログラムを描き始める。まるでキャンパスに絵の具を塗るかのように、モニターはカラフルな文字に染まっていった。
「情報を抜きとる。あわよくば、捕まえる。」
黒はただそれだけ言って、コードを打ち込み続けた。
だが、侵入者は管理者フォルダに入ると、すぐに別のフォルダに飛び移った。
「なっ、なんでだ...?管理者フォルダのデータが目的じゃないのか...!?」
「あいつ、なんか動きがおかしいぞ..!」
延々と管理者にしかアクセス出来ないフォルダを点々と移動しており、白賭の目にはまるで鬼ごっこをしようとでも茶化してきているように見えた。
「構わない...もうプログラムは完成する...そしたら、ボクらの勝ちだ。」
黒はエンターを打ち終えたあと、手を止めた。
「これで、侵入者を捕まえる準備は出来た。」
ターミナルにはさっき作られたプログラムが起動された状態で止まっていた。
「プログラム動いてないけどこれ大丈夫か...?」
白賭が指摘するも黒は自慢げな笑みを見せた。
「これでいいんだ。このプログラムが起動されたあとで通常ユーザーの空間になにか変化を検知すればそのユーザーの情報を開示するプログラムを作った。あとは侵入者がここまで降りてくるのを待つだけ。」
「なるほど、それなら管理者の権限がなくてもプログラムが実行できるな...!」
「そういうこと。」
黒と白賭は勝利を薄々感じていた。しかし、二人は知らなかった。───この侵入者が只者ではないことを。
ウィン───
「なんだ...?」
二人はふと音のする方へ目を向ける。すると自身のモニターに一つの新しいターミナルが独りでに開かれていた。
「白賭、押した?」
「いや、押して無いけど...?」
そう確認しあっていると、勝手にターミナルに文字が打たれ始めた。
「は!?な、なんだ!?」
あまりの怖さに動揺を隠せない黒。
「落ち着け!...」
黙々と打たれていく文字に白賭は集中する。
「こんにちは。月宵 黒くん。」
黒は絶句した。
「な、なんで...こいつ...黒の本名知ってんだ...?」
空気がガラリと変わった。今までとは違う。───もう取り返しがつかない。
続けて侵入者はターミナルを通してチャットのように話し始めた。
「僕の名前は0bit。元公安に所属していた者だ。」
「ゼロビット...?」
黒が口を開いた。
「黒くん。渋谷スクランブルサイバーテロで君は父親を亡くしているね?」
「なっ、名前といいなんでそれを知ってるんだ!?」
黒もキーボードに文字を打ち始める。
「なぜそれを知っている?お前がテロの首謀者か?」
しかし、0bitは何も打つことは無く、沈黙を貫いた。
「おい、いま、捕まえられないのか...?」
「はっ、そうだ...!」
黒が0bitの情報を抜き取ろうとキーボードに手を置くと、新たに文字が打たれ始めた。
「テロの首謀者が気になるかい?」
その瞬間、基地内部の空気が変わった。
空間がズレるような、これから何かが始まるような。そんな感覚が黒にはした。
「知ってるのか?」
黒はターミナルに打ち込んだ。
返答は
「さぁね。」
これきり、接続は遮断された。
「くっそ、バレていたのか?罠が。」
プログラムの結果は空白。なにか情報が書き込まれることもなく、黒は強制終了させた。
「くそっ....負けた。ゼロビットに...!何者なんだ....!?」
負けた。───その言葉が黒の頭の中を支配する。これまで黒はハッキングや防御で負けや失敗を経験したことがなかった。故に、追う傷はとても深いものであった。
「おい、黒!これを見てくれ!」
黒が感傷に浸っていると、そんなことなど知る由もなかった白賭は容赦なく黒を呼ぶ。
「なんだよ...」
黒が渋々白賭の方へ向かう。
「これ見ろって。」
白賭のモニターを覗き込む。
「ん?ただのコマンドログ...って、あれ...?」
モニターにはただのコマンドログの特定のコマンドを抽出した結果が映し出されていた。しかし、黒はそれに違和感を感じた。
「これ...ゼロビットのコマンドログか?」
「あぁ、俺が言いたいこと、わかったか?」
白賭は黒が察したのを確認した。
「あぁ、おかしいな。もしこれがゼロビットのコマンドログだとしたら、データのダウンロードコマンドが一切ないのはおかしい。」
「だよな。ただ単にサーバー内を走り回って、最終話しかけて出ていくって...目的が不明だ。」
黒はしばらく黙り込んだ後、こう言った。
「二つ気になったことがある。」
「なんだ...?」
「ちょっと貸して。」
黒が白賭の席に座ると、ログを開き、前にさかのぼり始めた。
「ゼロビットが管理者フォルダに入った時、覚えてる?」
黒はマウスロールをゆっくりと転す。
「あぁ、でもコマンドログには管理者フォルダに入った時のダウンロード履歴はなかったぞ?」
「うん。”ダウンロード履歴は”ね。」
「どういうことだ?」
白賭はモニターを睨む。
「やっぱりね。これ見て。」
モニターに映ったのはゼロビットが管理者フォルダに入ったときのコマンドログだった。
「白賭はさっき、ダウンロードコマンドの履歴だけをターミナルにダンプした。だから何も出なかった。そしてボクはそれを逆手に取ってみた。」
「はっ...!?ゼロビットがファイルを作ってる!?」
ゼロビットがテキストファイルを作成するコマンドを打っているのがログに残っていた。
「で、2つ目はなんだ?」
思い出したかのように白賭は問う。
「まぁそう急かさないでよ。2つ目は、──本当に侵入者が一人だけだったか。だね」
「なんだよ急に怖い。」
「ゼロビットがターミナルから話しかけてきたよね?」
「おう。まじでさっきはビビったわ。」
「あのときのターミナルは通常ユーザーから起動したのもだった。でも、おかしいんだ。ゼロビットはあの時、管理者にしかアクセスできない上位フォルダに居たはず...」
「た、確かに...!」
白賭は驚いた。それと同時に黒を尊敬した。あれだけ追い詰められた状態でも、しっかりと状況を分析、記憶していたからだ。
「って、それを検証するのは明日にしようか。」
「えっ、なんでだよ。」
「だって、」
黒はおもむろにモニター先にある惨状に目を向けた。
「あーそういうことか...」
「ってことで、今日はサーバー内のフォルダ復旧と、セキュリティー強化しようか。」
「それじゃあ、行ってきます。」
「行ってらっしゃい!」
男の張り切った声と、女の元気な声が交差する。
「お父さん気をつけてねー!」
遠くの部屋からも、男を見送る優しい声が。
───ピコピコピコピコ
「またプログラミング?」
洗濯カゴを持った女が、少年に問う。
「うん!将来はセキュリティエンジニアになって、日本を守るんだ!」
少しぎこちない動きでキーボードを打ちながら、目を輝かせてそう言う。
「ふふふっ、お父さんとおんなじ仕事につくのね!」
「ねぇねぇ、お父さんってなんの仕事してるの?」
湯気が立ち込める中、湯船に浸かっている少年が男に問う。
「え?セキュリティエンジニアっていう仕事をしてるよ。」
「どんなの?」
湯船から身を乗り出す。さらに目を輝かせて少年は問う。
「キャンパスに、コードっていう絵の具を塗って、日本を彩る仕事だよ。」
男は自慢気に自身の仕事を語る。
「なにそれ!面白そう!」
少年は落ち着きを見せず、湯船の中で小さくジャンプした。
波が揺れて湯船から湯が溢れ出る。
「黒も、大きくなったらなるか!セキュリティエンジニア!」
「うん!なる!ボクも日本を彩る?っていうのやってみたい!」
「あははっ、そうかそうか!」
暖かく、かけがえのない過去に、黒は思いを馳せていた。
暗号を解読するとそこにはEMP KILLERの犯行声明が。このことを知らせるべく、白賭は黒を基地へと呼ぶ。
しかし、黒を待っていると突如、謎のハッカー『0bit』にメインシステムをやられてしまう。
黒も遅れて合流し、急いで捕まえようとするも0bitは例の事件について黒に話しかけはじめる。
0bitとは何者なのか。なぜ、黒の父親の死を知っているのか。
次回も乞うご期待!




