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暗号ファイル

なんだかんだあり、由香里を仲間にした黒はダラダラと廊下を歩いていた。

しかし、次は白賭から面倒な頼みごとをされてしまう。

(それにしても、案外言ってみるもんだな。)


教室に戻る道中の廊下で、黒はそんなことを考えていた。


両腕を頭の上で組んで、だらだらと廊下を歩く。


日常では馴染みのない『ハッカー』なんて言葉。身近に存在するものならすぐに飲み込めただろうが、残念ながら馴染みはないものだ。


「いや待てよ...」


(確かに、親がセキュリティー企業の社長ともなれば、ハッカーは身近...なのか...?)


ひらめいたり、新しく疑問が生まれたり。黒の脳内はいつだって忙しなかった。


「はたまた、何かあるか...」


黒の脳内に彼女の空白の一年がよぎる。


(何があったのか全く検討もつかない。しかもあの子、なにかを隠してる様子もなかったしなぁ...)


───ブーブー


黒が頭をぐるぐる回していると、一件のメッセージが届いた。


「うわっ!?」


黒は決して通知の音に驚いたわけではなかった。


(っぶね。周りに人がいなくて良かったぁ。スマホなんか持ってたら死ぬほど怒られるからな...)


そう。ここは中学校である。


黒はスマホを消音モードにしポケットに滑り込ませる。周りを見渡し廊下を少し進んだ先の丁字路付近に、トイレが存在するのを確認した。


「よし...」


黒は周りを見回した後、腰を低くして静静とトイレのある方へ向かった。


(ふぅ、一体なんの通知だよ...)


ポケットからスマホを取り出し、黒は通知を確認する。


「緊急。この記事に乗ってるサーバー...続きを見る」


ホーム画面からの通知はそう書かれている。


「うわっ、白賭からだ。嫌な予感...」


見事にその予感は的中した。黒が通知をタップすると真っ先に黒の目に入ったのは『ハッキング』というワードだった。一瞬にして黒の顔は引きつる。


「緊急。この記事に乗ってるサーバーに侵入してなんかいい感じのデータ盗んできてほしい。よろしく。」


メッセージはそれだけだった。黒は共に送られてきたリンクに飛ぶ。


(いい感じのデータってなんだよ...適当だな...)


ブラウザアプリが渦を巻いている最中、黒はそう思っていた。


記事が表示され、黒は記事のタイトルに驚いた。


「十二時三十分頃、日本の国際金融機関、『WBC』が、サイバー攻撃の被害に遭い、サーバーが一時的にダウンしている状態とのことです。」 


「こ...国際金融機関だって!?ふざけてんのかあいつ!?」


トイレにそんな言葉が響く。思わず出てしまった声なため、制御が効かなかった。


黒は完全に冗談だと思った。「本気で言ってるのか?」と白賭にメッセージを送るも、すぐに「本気だよ本気。大真面目。」と返ってきたため、黒は頭を抱えた。


しばらく頭を抱えていると、しびれを切らせた白賭から直接電話がかかってきた。


「すまん、急に言って。でも緊急なんだ。」


白賭は暗い声で言う。


「いや、緊急も何もなんでだよ。」


黒は心を落ち着かせ、声を抑えて言う。


「それがな、俺がこの記事を見る少し前、ダークウェブを見てたらたまたま変なリンクを見つけたんだ。そこで俺はそのリンクに飛んだんだが、そのサイトの内容がとんでもないものだったんだよ...」


白賭の声も自然とだんだん小さくなっていくのがわかった。


「....なんだったんだ...?」


思わず黒も息を呑む。


「『私達、EMP KILLERは日本を沈没させる。』って。英語で...更に俺が確信ついたのはその下に書いてある『次のステップは、国際金融機関、WBCを。』って言う文だ...」


「な...ち、沈没だと...!?そりゃ確かなのか!?」


黒の額に、冷や汗が一つ。


「あぁ。確かに俺は見た。けど、残念ながら映ったのは一瞬で、その後は別のサイトに勝手に飛ばされて、調査をする間もなく...ってことだ。」


「そうか...そういえば『EMP KILLER』って、確か最近動画投稿サイトを攻撃してなかったか?」


「あぁ、そうだ。だから急いで足でも突き止めねぇと、お前の父さんの(かたき)どころじゃねぇ。」


「確かにそうだけど....本気っつったって...国際金融機関だぞ...?セキュリティーもそんな甘くないはず...」


黒は自分の手先が冷たくなっていくのがわかった。心臓の鼓動もはっきりしてきて、いよいよダラダラしている時間は無いと、心が急かしてきているようだ。


「ばか。」


「えっ?」


唐突の罵倒に唖然とする。


「俺が世界ランクのセキュリティーに正面から突っ込め〜!なんて言うわけ無いだろ、ましてや今からしてもらおうと思ってんだから学校のパソコンなんかもってのほかだ。」


「まさか!バックドアかなんか作ってくれてるのか!?」


「いや、それはない。」


黒の期待を白賭は一瞬にしてへし曲げる。


「なんだよ、じゃあどうしろ.....ってもしかしてそういうことか?」


「やっと気づいたか?」


「サーバーが攻撃を喰らったのは今から大体十分前ほど。だからシステムがまだ復活してないと白賭は予測した。そして、どこかしらのセキュリティーホールが開いてるはずだからそこを突いて侵入しろ...ってことか...?」


「お見事。一言一句大正解だ。」


白賭は小さく笑いながら言った。


「畜生め。」


「おいおい、やらないよりやってくたばった方がマシだろ。」


「そりゃそうだけど...」


黒は少しの間だけ頭を回したが、どう考えても「やらないよりやったほうがマシ」が正論にしか聞こえなかったため渋々「わかったよ。」とだけ言い残し、そのまま通話を切った。


後にスマホには「サンキューな。」というメッセージが送られてきて、黒の表情は少し緩んだ。そして、黒は時計を見て再び顔を曇らせるが、走ってパソコン室へ向かった。












ブーブー


(ん...?)


男の腕にバイブレーションが走る。


白色の輝く髪に整った顔。筋肉質で、更には─────ハッカー。


静かに席を立ち先生の元へ近づく。


彼が通り過ぎると、60%の確立で女子生徒たちは彼の顔に見惚れてしまう。


この教室の中も、例外ではない。そのことに、クラスの男子生徒たちは「ハズレのクラスを引いた。」とがっかりする。クラスの女子生徒たちを彼一人が独り占めしているようだからだ。


彼自身は、そんなことしたくてしているわけではない。しかし、生まれながらに持った神々しいほどの顔立ちが、女子生徒たちをそうさせていた。


「すいません。ちょっとトイレに行ってきてもいいですか?お腹が痛くて...」


「はい、どうぞ。」


板書を書いていた先生に小さな声でそう聞き、彼は教室を後にした。


教室に残るのは、板書にぶつかる、チョークの音だけだった。


「くっそ...ずりぃよなぁ。先生だってあいつばっかに優しい。俺なんか「トイレ行きてぇ」って先生に言ったら『我慢できないんですか?』なんて、詰め寄られたぜ?」


「そりゃお前の言い方が悪いんだろうけども。それにしても、あんなに女子の心を落としまくってるくせに、あいつ、芯からとんでもなく心が広いんだぜ?そんなの悪く言えねぇよ...」


女子からではなく、その心の優しさから男子にも好かれている。


彼こそが────異崎(ことざき) 白賭(はくと)なのだ。








「WBCのデータ盗んできたぞ、あとは白賭が選別してくれ。授業に遅れたんだ、これ以上先生に迷惑かけられない。よろしく。」


黒からのメッセージはこれだけだった。それに添付されたデータの容量は三テラバイト。白賭はシワを寄せた。


「流石に三テラバイトのデータをダウンロードする気力はわかねぇな...」


白賭はおもむろに服の中から無理やりに隠していたパソコンを取り出し、開いた。


(重要そうなファイルだけ抜き取ろうか...)


コマンドを入力すると、あっという間に巨大なファイルは五ギガのファイルに変わった。


(なんかよさそうなデータ入ってないかな...)


白賭はファイルを一通り覗いていくも、表情が緩むことはなかった。彼が探していたのは銀行の個人データではなかった。そんなものには目もくれず、たった一つのものをただひたすらに探し続けていた。


(うーん...ん、なんだこれ...?)


見つけたのは『Letter_250452035525134412.txt』という名前のテキストファイルだった。しかし、そのファイルは異常と言っていいほど容量が大きく、ファイルの五ギガ中、二ギガをこのテキストファイルが占めていた。


(テキストファイルにしてはサイズがおかしい...開いてみるか...)


白賭は「本当にこのファイルがただのテキストファイルで、膨大な文字数にコンピューターの処理が追いつかなくなったらどうしよう。」なんて、一瞬心配をしたが、実際は白賭の腰を抜かすほどの文字の量だった。


「はっ?」


白賭が目にしたのは「Try to solve it」というたった十五文字の英文だけだった。白賭の髪が靡いた。嵐が通ったかのように、衝撃が脳に直撃する。


あまりの衝撃に開いた口が塞がらず、白賭の脳内では「そんなわけない」という言葉だけが交差していた。


(いや、何かの間違いだ...落ち着け、俺...)


白賭は深呼吸を数回ほどした。すると脳が英文の意味を理解しようとし始めた。


(「解いてみろ」...ってことはやっぱり、このファイル自体が暗号...!!それも、恐らく『EMP KILLER』が作ったってとこか...)


続けて白賭の脳内に一つの考えが差し込む。


(これが暗号、だとするとテキストファイルは不自然だ。拡張子の偽造か?)


キーボードに指が触れる。白賭がコマンドを入力するとテキストファイルは画像ファイルへと変わった。狙いが間違っていないか、白賭は画像ファイルに改変したテキストファイルを恐る恐る開く。


(狙いは間違っていなかったか。)


白賭が再びそのファイルをクリックすると、直前までテキストファイルだったものは画像ファイルとして開かれた。モニターには、黒く染まった背景に、再び短い英文の書かれた文字が映し出された。


(なんて書いてるんだ?)


「世の中の災いはしばしば密かに形を成し、突然に起こるのである」


白賭が翻訳機に英文を流し込むと意味深な文が翻訳機に映し出された。


(誰かの言葉か...?)


疑問に思い、検索に走らせる。しかし、特にこれと言ったものが見つからなかった白賭は手を止めた。


(まぁいい...そんなことよりこのファイル、仕掛けはこれだけじゃないはず...)


再び指が動き出す────白賭の経験値が、彼をそうさせた。


(画像ファイルならだいたいこの手口だろうな。)


画像内部を洗い出すツールを駆使し、画像ファイルを解析した。やがて、白賭はあっけなく画像ファイルの中に新たなファイルを見つけた。しかし、ツールの結果を見るなり、白賭の顔は引きつった。


(想定内...だが、また二つのファイルが出てきたな...めんどくせぇ...)


この暗号はこれで終わりではない。見つかったファイルに白賭は直感的で、そう感じたからだ。


見つかったファイルの一つは直前同様の画像ファイル、そして2つ目は音声ファイル。白賭は再び、画像ファイルから手を伸ばした。直前の画像同様、また英文が書かれているだけで、背景も黒色。


「私は痩せたが世界は肥えた。」


翻訳に通せばそう返ってくるだけだった。しかし、今度の白賭の反応は違った。頭に差し込んだのは一つの記憶だった。


(これ、授業で聞いたことあるぞ。中国の玄宗皇帝の言葉に似てる...恐らく、正しく翻訳すれば『世界』は『天下』になるはず。)


考えを張り巡らせた白賭だが、思考回路の終着点はやがて「だからなんだ?」に行き着いた。手先が冷える。


(一度画像ファイルに画像を隠せば、さらにその画像に情報を隠すことはできない...ならこの画像はなんのために使うんだ...?)


しばらく頭を悩ませたが、「浮かばないものを考えても仕方がない。」と考えた白賭は胸に小さな蟠りを残しつつ、解析対象を音声ファイルに切り替えた。


(音声ファイルは大体解析方法は決まってる。きっと今回もそれだ。)


すぐさま音声を抽出し、音声を特殊なグラフに変換する。知識の範疇内だったことから白賭は一度肩の力を抜いた。変換が80%に差し掛かったとき、音声データに隠されていたデータがQRコードだということを察する。


(やっぱりな。)


白賭は顔に少しの笑みを浮かべるも、まだ画像ファイルの解析が終わっていないことを思い出す。どこからともなく風が差し込み、体がより冷える。


(とりあえず、QRコードでも読み取るか。)


かじかむ指でキーボードを打ち込み、QRコードを読み取ると、サイトへ飛ぶリンクが表示される。画像ファイルが気がかりなまま、サイトへ飛ぶと入力ボックスが一つ。上にはまた英文が書かれている。


(三の三十六...?四の十八...?なんだこれ...?)


座標のように二組の数字が十数個ほど入力ボックスの上に書かれている。白賭の脳内には更に疑問が増える。


(座標...だとしたら数字の桁が足らない。なんの数字だ?)


考えているうちに体は更に冷え込みを増した。手も思考もかじかんでしまい、白賭は固まる。すると、段々と遠くから音が近づいてくるのに気づく。瞬時にそれは足音だとわかった。


足音がだんだん大きくなっていき、不意に鳥肌が立つ。


白賭は急いでパソコンを背の服の中に無理やり押し込んで、何事も無いように装った。


タッタッタッタ


(なんだ、パソコンを使っているのがバレたのか...?)


足音は通り過ぎることもなく、トイレの中に迫りくる。ちょうど白賭が入っている個室の前で足音は止まった。


コンコン───


個室のドアを何者かがノックする。


(一体、誰だ...!?)

暗号化された怪しいファイルを見つけた白賭は苦戦しつつも解読に励む。

すると、何やらこちらへ足音が近づいてくる。

足音の正体とは一体...!?

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― 新着の感想 ―
Xより読みに来ました。 緊張感とか伝わってきて良かったです。 ただ、主人公の名前の読み方とか気になりました。 地の文に出てくる名前の表現で、『黒』を使うよりも『クロ』とかを使用された方が読みやすくて…
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