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交渉

仲間を増やすべく学校のサーバーに侵入し、技術者を探していた黒。

そこで親がセキュリティの社長である由香里という人物が同じクラスに居ることを知る。

次の日の昼休み、ついに由香里と接触する...!!!

ピピピ───ピピピ──ピピピ───


耳に刺さるような鋭く甲高い音が基地の中に響いている。


「うぅん...うーん...」


掠れたような声と心地の悪そうな顔で、黒は椅子にもたれかかっていた。


聞き馴染みのある音の所為か、耳は起きていても体は中々起きなかった黒だったが、それでも絶え間なく鳴り響く音は、やがて黒の体までも起こしていった。


「はぁ...もう朝か...何時間寝たっけ...?」


黒は、鳴り続けるアラームを止めながら、左上の方向を見て必死に昨日の出来事を思い出そうとした。


「生徒の情報盗んだあと、ボクがお風呂に入っている間に白賭が帰って、その後も色々やってたんだけど...」


その調子で昨日の出来事を思い出そうとしていた黒だったが、とあることに気づいたのであった。


「あれ...その後が全く思い出せない...!!!???」


昨日の記憶が綺麗サッパリ抜け落ちている。


黒は全身に鳥肌が立つ。ハッカーとして、自身の行動を覚えていないなど言語道断。


───もしかしたら、何かをやらかしたかもしれない。そんな可能性すらありえる。


開いた口が塞がらないままの黒だったが、突如体を起こし、パソコンを起動しようとPCに手を伸ばした。


何かがあってからではまずい。───黒の肌がそう感じたからだ。


しかし、偶然視界の端に映った時計が、黒の心臓に衝撃を与えた。


「はっっっ....!!!」


不意に時計に目をやった黒が見た光景は、七時五十九分。


登校完了時刻は八時ジャスト。


「グッ...グハッ...」


そのまま膝から崩れ落ちる黒なのであった。








「はぁ、今朝は災難だったな...」


言わずもがな、黒は遅刻した。


(昼休みかぁ、やること無いなぁ...)


椅子の前足を浮かし、ゆりかごのようにして黒は暇を持て余していた。


窓辺の席だった黒は、ふと運動場の方を見る。


多くの生徒たちが外でサッカーや、かけっこをして無邪気に遊んでいた。


黒はその光景に、どこからか寂しさと羨ましさを感じた。


まるで、帰る場所もないのにただひたすらに歩き回るだけの野良犬のような。


陰キャだから。とか、そういう感情ではない。


ただ───あの純粋で無邪気な姿が、黒には光って見えていた。


『渋谷スクランブルサイバーテロ事件』


あの日が黒の時間を止めた。小学四年生。まだ子どもでいられたはずの頃。


純粋でいられた季節は、ほんの一瞬だった。


それ以降、黒の目に映る世界は変わった。

人の闇。社会の裏側。

笑顔の裏にある意図。権力の過ち。


気づけば夢が野望に変わり、瞳の輝きはどこかに消えてしまった。


だから


「いいな。」


その言葉が出たとき、ふと黒の脳内には、存在しない”家族との幸せな記憶”が流れていた。


(あの出来事がなければ...きっと今頃は───だからこそ...テロリストを捕まえなければならない...!)


これまで何万としてきたことであったが、黒は改めて、そう誓った。


「あ、そういえば...」


黒はおもむろに席を立ち、教室を歩き回る。


(確か、由香里...?だったよね...)


昨日、由香里を組織の仲間に入れるべく話をつけるというミッションを立てていたのを黒はすっかり忘れていた。


教室の中で立てっている生徒は皆、後ろの方に群がっており、席から動いたものは確実に目立ってしまう。


しかし黒はそれ以前にやらなければならないことの優先順位を早々につけていたため、迷うことなく教室の中を歩き回っていたのだ。


しかし、あっけなく、そして簡単に最悪の事態は起きた


「何か捜し物?」


可愛らしい声が黒の背後から聞こえた。


さらには、ほのかに甘い匂いもし、黒は瞬時に女子だと悟った。


黒は振り返り、咄嗟に「いや、大丈夫だよ。」なんて白賭のような爽やかな声で言ってやろうと思っていた。


しかし、現実は違った。


「あ...その...いや...だ、だいじょ....って、ええぇ!?!?」


「!?!?」


たじろぎながらも必死になんとかしようとしていた黒だが、彼女の顔を見て思わず声を上げてしまった。


「顔が...!!!───ハッ!!」(思わず声に出しちゃったし、変なところで気づいて遮っちゃったせいで悪口みたいになっちゃってるし最悪だよもう!!!)


黒は比喩で片付けていいほどではないくらいに顔がトマトのように真っ赤になっていた。


「かっ、顔になんかついてるかな...?」


黒の言葉に思わずそんな言葉を返してしまう由香里。


その言葉で更に黒は焦りだす。兎にも角にもこの状態を落ち着かせるためにも、かつて無いほどに黒は頭を捻った。


しかし、これからの黒の言葉が、状態を悪化させていく。


「い...!いや!か、か、、、、、、」


「か???どしたの?」


「可愛いなって思って!!!」


黒はこのとき思った。


これがこの場を安全に回避するための最強の言い逃れだと───


しかし、黒はここが中学校だということを忘れていた。


「おい!あそこで陰キャが由香里に告白してるぞ!!」


「おいおい転校二日目でまじか!」


教室がさっき以上にどっと湧き上がった。


後ろにいる生徒たちが、黒をからかい始めたのだ。


黒は目を丸くして呆然としている。


由香里は黒以上に赤くなった顔をしかめる。


「あ、あぁ、あの、これはちがくて.....!」


必死に釈明をするが、湧き上がった悪意の塊の前では、黒の声はもはや塵に等しかった。


次々と黒をからかう言葉が飛び交い、黒の耳は溺れかけていた。


「あぁもう、最悪だ。」


小さく後ずさりをした。ここから逃げたいと言わんばかりに黒の足は教室の出口の方へ向く。


今にも逃げ出したそうな黒に気がついた由香里は黒の手を掴んでこういった。


「一旦出よう...!」


由香里は黒の手を引っ張り教室を後にした。










今思えば、可愛いなんて冗談でも言わなければよかった。


由香里に引っ張られながら走ったあの廊下の間。黒は何度も何度もそう思った。


続けて黒はこう思った。目立つとか目立たないとか、もはやそういう話ではなくなってきている。と


「ごめん。急にあんなこと言っちゃって...」


「ううん、大丈夫。私、色んな男子によく言われるから。」


黒の言葉に的はずれな返答をしてしまう由香里。言葉足らずだったなと自分の落ち度に少し反省する黒。廊下の窓から見える空は少し曇っていた。


少し迷ったが、黒は由香里の勘違いを指摘することにした。


「あの...さ、実は可愛いって言おうとしたんじゃないんだよね。───いや...!別に君が可愛くないって言ってるわけじゃないんだけど、その、なんていうか......」


喋れば喋るほどトゲを増していく黒に由香里は少し笑みを浮かべる。まるで言葉をあまり知らない子供を見るような目で黒を見た。


「そうだったんだ。ふふっ、いいよ。私の方こそなんか勘違いしちゃってごめんね?」


「あ、いや、それはボクの言葉足らずが原因だから、謝らないで。」


「うん。それにしても幼稚だよね、うちのクラスの男子。」


由香里は前で自分の指を重ねる。


「いや、まぁ、そうだけど、学校だから仕方ないよ。そういう人もいるし。」


さっきのたじろぎとは別に大人びたことを唐突に言う。


「ふふっ、なにそれ。」


思わず由香里は吹き出した。黒は自分が見えなくなっており、自身の違和感に気づいていない様子だった。


「で、それで結局、可愛いじゃなくて私に何を言おうとしてたの?」


由香里が話を引っ張り戻した。引っ張ってもらってばかりの黒は「そういえば!」と言わんばかりの表情をした。


「そうそう、で、ボク....えっと....」


黒が本題に入りかけたときだった。黒は気づいてしまったのである。


(あれっ、これって急に「実はボク、世界的にリークされてるハッカー集団なんだ。」なんて言っても100%信じてもらえなくね?どうすればいいんだ!?)


当然である。もしそのまま言ってしまおうものなら、さっきの教室のように笑われてしまうに決まっている。


(速く言わなきゃなのは重々承知なんだけど、一体なんて言えばいいのか...しかも親がセキュリティー企業の社長だし...)


そんなことを考えているうちに、時間は過ぎてゆく。段々と微妙な空気となり始め、由香里の表情も曇り始めていた。


「えっと...その...」


話を切り出そうにもまだいい案が出てこない。黒はまたしても言葉をあまり知らない子供のようになっていた。


「どうしたの?顔色悪いけど、大丈夫?」


由香里が心配をしてしまうほど、黒の顔は真っ白になっていた。


「あぁぁえっと、その、わかった。話すね。」


投げやりになったかのように、黒はすべてを話し始めた。


「今から言うことは、ごっこの話だから、本気にしなくて大丈夫。」


切り出しから明らかに不審だったが、黒は必死になりすぎてそんなことなど気づきもしなかった。


「う、うん。」


一方、不審に思いながらも冷静な由香里には、違和感しかなかった。


「ぼ、ボク、実はハッカーなんだ。ハッカーってわかる?」


黒は周囲を見渡し、二人以外誰もいないことを確認した上で聞いた。


「うん、ちょっとだけ。お父さんがセキュリティーの仕事してるから。」


由香里は相変わらず不審がっている。


「それで、ボクはクラッカーって言って、悪い方のハッカーなんだ...ハッカー集団として組織を作ってるんだけど、人手が足りなくて困ってて...色々あって君のお父さんがセキュリティーの仕事をしてるって知ったから力を貸してほしいと思って今こうして話してるんだけど...」


もう明らかにごっこの範疇では無いことに気づいた由香里は完全に黒の話を信じていた。


「そ、それは本当の話なの...?」


「あ..いや...君がもし警察とかに言わないなら、その問に答えるよ....」


「言わない。黒くんの言うこと信じるよ。」


「えっ!?」


あまりの飲み込みの速さに、今度は黒が驚いた。意表を突かれた所為か、思わず間抜けな声が廊下に響く。


「飲み込み速くない!?」


思わず聞いてしまう黒。


「え!?もしかして本当に嘘だったの!?」


「いや、聞いてもらったらわかるとおり、本当なんだけど。けど、なんで?」


「それは、なんで嘘だと思ったか?ってこと?」


「いや、なんでそんなすぐOK出せたのかなって...」(ボクなんか警察に突き出されかけた時のうまい言い訳を結構時間かけて考えたのに...)


由香里の目をそらし右上を向く黒。


「うーん。でももし嘘でも別に私に害は無いし、本当なら楽しそうだと思ったからかな!」


お手本のような眩しい顔でほほ笑んだ由香里に黒は目を潰されかける。


「そっか。自分から聞いておいて失礼なんだけど本当に入るの?」


黒は由香里の目の奥を見つめた。


「うん。もし、黒くんが迷惑だと思わないなら、私は入りたい。」


礼儀を重んじながらも、自身の意見を突き通す姿に黒は少し驚くも、ゆっくりうなずきこう言った。


「わかった。じゃあ後にその話をするから、その時まで待ってて。もう昼休みも終わっちゃうし。」


「うん。こういう思いもおかしいかもしれないけど、楽しみにしておくね。それじゃ私は先に教室に戻るから。」


「うん。」


黒はいつもより上手く話を切り上げ、由香里を先に行かせた。


「さっ、ボクも戻ろうかな。」














──────カチカチカチカチ


暗闇の中で唯一、光を放っていたもの。───それはパソコンのモニターだった。


「 Welcome to Database! ver.8.0」


「ようこそ!防衛省データベースへ!」


そんな文字が、黒の背景に白い文字で溶け込んでいた。


キーボードの打ちに迷いは存在せず、なれた手付きのようで攻撃(それ)は行われた。


「こちら”第一ノ皇帝”。防衛省データベースハッキングしたよ。それじゃ、標的を情報本部に拡大させるね。」


エンターを押し、作業が完了したのか、通話を繋いでいる仲間に状況説明を行った。その声はどことなく軽く、まるでその行為になんの悪びれも感じていない様子だった。


「了解。こちら”第四ノ皇帝”。地方防衛局全て制圧終わったぜ。”第五ノ皇帝”からの指示が降りるまで、絶対に侵入がバレないように。だってよ。バックドアでも仕掛けるか?」


声の持ち主は通話相手だった。肩が凝るような言葉使いをわざわざしているが、どことなく苦しそうで、時々語尾に自我が出る。第四ノ皇帝と名乗る人物も、その行為に悪びれる様子はなかった。


「おっけーい。」

緊迫した空気もせず、意外とあっさり由香里を仲間にすることに成功した黒。

しかし、そんなことをしている間に黒い影は防衛省の乗っ取りに成功する。

一体、その正体とは...!?

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