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容疑者ゼロ

一つ目の爆弾を解除することに成功した二人。

しかし、二つ目の爆弾は0bitの言うとおり、一筋縄ではいかなかった。

最後の希望が絶たれてしまった二人の行方とは...!

ドッドッドッド───


「お前らはあっちを。俺らはこっち側を当たる。」


疎らに鳴り響く足音が一度に鳴り止む。


騎龍が指揮を取ると、現場班の隊員が静かにうなずく。


全員が息を潜める中、騎龍が進み始めると、一斉に隊員も続いた。


誰も居ない──そう考えてしまうほどの妙な静けさ。


眠ってしまった街は、現場班の背中を密かに睨んでいた。














「許す許さないも、この爆弾を止めなきゃ意味ないだろう?クロくん。」


「くっ...!」


クロの歯が軋む。今にも飛びかかろうと、おもわず一歩前に踏み出した。


「二つ目が爆発すれば...渋谷はどうなるんだ...?」


その問いを聞いた途端、0bitの瞳孔が開く。


鼓膜が破れたかのように、耳が一切の雑音を拒んだ。




「...僕の計算上──渋谷は一瞬で更地と化すだろう。」


「はっ...!?」


「そんな...!」


0bitの声は少し低いように聞こえた。二人はとっさに、一歩後ずさった。


「そんな事より、いいの?もう時間も二分を切ったけど。」


「畜生!んなこと知った上だ!」


クロが再びパソコンと向き合う。


地獄へのタイムリミットまで残り二分。


手の届くネットワークは、全て沈黙したまま。


すると、由香里の頬に涙が伝った。


不意に白賭の瞳に、その涙が反射する。


「由香里──くっ...!」


強く握りしめた拳に映ったのは、由香里との会話だった。










「白賭さんってどれくらいハッキング出来るんですか?」


片方の眉を上げた由香里が白賭を見上げた。


「え〜?どれくらいかなぁ。──まぁでも俺はハッキングってよりも、プログラミングが得意だから、クロのアシスト的な感じかな。」


白賭は顎に指を置き、左上の方へ向く。


「へぇ〜そうなんですね。プログラミングっていつからやってるんですか?」


小さくステップを踏みながら、白賭の前を歩く。


危なっかしげな様子だったが一方、白賭の目には微笑ましく映った。


「え〜いつからだっけ。確か五歳の頃から触ってたと思う。」


「えー!五歳のときからですかっ!?」


由香里の声が不意に大きく響いた。


「ちょっと失礼なんですけど...なんでクラッカーになろうと思ったんですか...?」


先頭を歩くクロを垣間見ながら小声で耳打ちした。


すると、途端に白賭の表情が曇った。


「あぁごめんなさい!無神経でしたよね...」


由香里ははっとし、ぎこちない口ぶりでフォローにつまずく。


「いや、大丈夫。こっちこそごめんね?気使わせちゃって。」


うつむいてしまった由香里の顔は赤面していた。


白賭はその様子におもわず汗をかく。


「いえ...」


「わかった、由香里ちゃんにだけ言おう。そしたら気にしなくて良いよね?」


そう白賭が苦笑すると、由香里が顔を上げて目を見開く。


「えぇ!?」


「クロには内緒ね。」


白賭は唐突に真剣な面持ちで前を向いた。


「実は昔に俺...」


由香里は白賭の言葉を一つ一つ噛み締める。


淡々と口から発される言葉からは重く、そして孤独を感じられた。




白賭が話し終えた頃、由香里は小さく息を吸った。


ただひたすらに、安易に聞いて良いものではないと後悔をする。


会話の中に出来た”間”に耐えられなくなった白賭が口を開きかけたその時だった。


「白賭さんは、優しいんですね。」


「えっ?」


思いがけない由香里の第一声目に、白賭は肝を抜かれる。


「クロくんだってなにか過去があってこんな事してるんですよね。違ったらすみませんけど、白賭さんはクロくんを優先するためにこのことを内緒にしてるんだと私は感じました。」












(あの時、初めて俺の内側をわかってくれたのは、由香里だったんだ。──だから、絶対に死なせるわけにはいかないんだ...!)


由香里の涙ぐんだ目を強く見つめ、ゆっくりとうなずいた。


振り返れば、クロの葛藤が目に映る。コマンドを打っては、その結果に拳を握りしめていた。


「クロ...!負けるな...!」


静かに、力強く発した言葉すら、カウントダウンのプレッシャーにかき消され、クロの耳には届かない。


「残り──一分。」


いつもよりゆっくり、そしてはっきりと0bitが物を言う。


「だあああ全然見つからねぇ!渋谷から少し外れた場所ですら、まるで見当たらない!」


感情がキーボードの打擲に現れ始める。


「ははははっ、良いねぇ最高だ!」


(正直、クロくんが二つ目の爆弾を止めることはもう不可能だろう。だけど残念だなぁ。クロくんにはちょっとだけ期待してたんだけど...)


0bitが街の方を見る。優しく吹く風はまるで、神が0bitの味方をしているかの様だった。


二十、十九、十八──


コマンドがエラーを吐くたびに、0bitに一つ微笑みが増え、爆破までの時間は減る。


「ま...まずい...!もう爆破しちまうぞ!!!」


「だからわかってるって!もう...どうすれば...!!!」


白賭の手が小刻みに震える。指先どころか、体の芯まで凍りついていた。


「十、九、八、七...」


0bitがカウントをし始めると、遠くの方から何やらうるさく、それでいて静かな音が近づいてくるのを感じた。


その瞬間、クロの瞳に光が差す。それを見た白賭の瞳にも、希望の光が。


「三、二、一!!!」


0bitが大きく腕を広げた。


「ボーーーーーンッ!!!!!」


「...」


「...」


カウントダウンの時間が一、二秒過ぎた。しかし、そこに残ったのは爆音でも、断末魔でもない。


喉元を掻っ切るような、鋭い沈黙だ。


「...あれ?も、もしかして...止めた?」


思いがけない事態に、0bitは言葉に詰まる。


すると、その反応を見たクロと白賭が吹き出した。それから、溜めていた感情が爆発したかのように笑い始める。


「はははっはははは!──そろそろ芝居も()めよう、白賭!」


その様子にしばらく眉間にシワを寄せていた0bitも、突如として表情を変えた。


「ふっ、ははははははっ!そういうことか!」


「その様子だと、ボクらの”カラクリ”がわかったみたいだな。ゼロビット!」


クロは余韻に浸るかのように顔をほころばせて話した。


「あぁ、二人とも、渋谷に二つ目の爆弾は無いって感づいたんだろう?それも随分前に。」


「大当たりだ。」


爆破を止めた安堵が急速にクロの心に直撃し、笑みが溢れる。


「待って!いつ感づいたか当てるよ。」


今やクロの仕掛けに0bitは心を踊らせていた。


「──一つ目の爆弾を止めた時、だろう?」


0bitが由香里の髪をそっと撫で、クロの表情を伺う。


「なんでわかった?」


クロは0bitの勘の良さに意表を突かれた。


「あの時、クロくんは僕から自身のモニターが見えないような位置に移動してた。油断してたから気づかなかったけど、よく考えれば不自然な行動だ。」


由香里から少し離れる。そして両手を後頭部で結んだ。


「っておいクロ、俺はまだお前から『別のところに爆弾があるかもしれない』としか聞いてないぞ。結局、どこに二つ目の爆弾があったんだ?」


二人の会話にいまいち入れていなかった白賭が痺れを切らせた。


「あぁ、確かに白賭には言ってなかったね。爆弾の在処───それは新幹線の中だったんだ。」


「なっ、そんなのありかよ...!?」


白賭の言葉に0bitが静かに首を横に振る。


「そう、ボクも新幹線を睨んだ時そう思った。でも、相手はゼロビット。言葉の抜け道を探すのが大好きな人間だ。」


「ははっ、よくわかってるね。」


クロがそう言うと0bitの表情がころっと変わる。


「なるほど...」


不本意にも納得してしまった。喉の奥に何かが残る。


「それにしても、移動に一か八かを賭けてよかったぜ。バレてたらどうなってたことか。」


「移動?僕からモニターが見えない位置に動いたことかい?」


クロがこぼした言葉に0bitは引っかかった。


「あぁ、それがどうした?」


「いや、仮に僕がそれに気づいていたとしても、クロくんの妨害は端からするつもりは無かったけど?」


「な、嘘つけ!」


淡々とした会話に拍子のズレが生じた。


「嘘じゃないさ。そもそもこれも、技術力テストに過ぎない。」


「テスト?そんなわけない!あんたはゲームだって──」


「ゲームとは言ったけどテロとは一度も言ってないよ。それに、もしテロなら国の心臓を狙うさ。」


クロの言葉に被せて、まるで諭すように0bitが謳う。


(なぁんだ、褒めてないか。まぁいいさ、そんなことより上に上がってきなよ。君たちはもう、僕のゲームに参加する権利を得ているんだから。)


(クロくんがゲームをクリアできたらね。)


(──ゲーム、スタートだ。)


クロは目を閉じ、0bitの言葉を思い返す。やがて、唇を噛み締めた。


「まぁ何にせよ、今回はまんまとクロくんに舞い踊らされたよ。僕の負けさ。」


0bitを睨みつけていたクロだったが、0bitが苦笑を漏らすと表情が緩む。


「認めるんだな?」


「あぁ、認めるよ。」


クロが前のめりに聞き返すも、0bitの言葉が曲がることはなかった。


針のような鋭い視線を緩め、クロは一つ息を呑んだ。そして、遂に口を開いた。


「そうか、なら聞こう。──あんたは、渋谷スクランブルサイバーテロの首謀者か?」


恐る恐る、そう聞くと0bitは少しうつむいた。


「へへへっ。」














「ここからだ、ここから話し声が聞こえる。」


騎龍がそう言うと後ろに付いていた隊員も扉に耳を傾ける。


「僕の負けさ。」


(こんな廃ビルの屋上になぜ人が...?それに負け?なんの話だ...?)


騎龍が熟考するも、あまり会話の内容を砕くことは出来なかった。


あの言葉が出るまでは───


「そうか。なら聞こう。」


(何だ...空気が変わった...?)


「あんたは、渋谷スクランブルサイバーテロの首謀者か?」


(なっ!?なにっ!?)


『渋谷スクランブルサイバーテロ』


その言葉が耳に刺さった瞬間、息を呑む音がいくつも重なった。


再審課の中でも、”あの件”は暗黙の了解として知られていた。


「静かに...!バレたらどうするんだ...!?」


騎龍が小声で必死にメンバーをなだめる。


(恐らく、ここに居るのはプラヴォス...もしくはその関係者。屋上の階段に入るための難解なロックも、何者かによって解除されていた。それに、プラヴォス目撃の通報も重なっている。)


騎龍は下ろしていたリボルバーを強く握りしめ、背後の隊員に無言の合図を送る。
















「僕はテロの──」


ガターーンッ!!!


「...!!!」


0bitの言葉を遮り、クロの居る屋上の扉が勢い良く開いた。


ダッダッダッダ──


突然の状況にクロも白賭も息を詰まらせる。


瞳孔は大きく開いたまま、ただただ隊員がリボルバーを構えて近づいて来るのを見るしか無かった。


ふと我に返り、クロが0bitの方へ目を向けると、小さく微笑んでいる姿が見えた。


「そこに居る二人、ゆっくり両手を上げなさい!」


騎龍がクロと白賭にリボルバーをぶらすことなく構える。


「なんだ...!?0bitの仲間か...!?」


「いや違う、あのバッチは公安だ。」


白賭が両手を上げながら、戸惑うクロに小さく目配せをする。


「僕が!!!」


一瞬の油断も許されないこの空気を打ち抜いたのは、両手を上げて待っていた0bitだった。


0bitの存在に気がついた数人の隊員が早急に照準を定める。


「...」


一瞬の静まりが、0bitに呼吸をする間を与えた。


「あのテロの───首謀者だ。」


その言葉がこの場の空気に触れた瞬間、


まるで海の底深くに沈められたかのように、


まるで時が止まったかのように、


一切の動き、呼吸が困難になった。


「あ...あ...はっ...」


呼吸を思い出す頃には隊員は0bitの居る屋上へ飛び移り、連行を始めていた。


「ぉ...お、おい!ま、待てよゼロビット!」


0bitは顔だけを振り向かせ、クロの目を静かに見つめた。表情は変わらず薄笑いを浮かべている。


「なんでだよ...なんでそんなことしたんだよ!!!返せよ!!!ボクのお父さんを返せ!!」


クロが両手を下ろし、0bitの方へ走り出す。白賭が腕を掴み止めるも、強く振り払うほどだった。


「はははははっ」


0bitが笑う。それも、あの時とは違う、甲高く、乾いた声。


それに察した隊員は0bitの腕を荒々しく引っ張った。


「おい!なんとか言えよ!!!おい!!」


嗄声(させい)した残酷な悲鳴が眠ってしまった街に響いた。

無事、二つ目の爆弾を解除し、さらには0bitを芝居で踊らせると、完全勝利を収めた二人。

しかし、約束の質問では0bitの口から衝撃の事実が吐き出され、さらには二つ目の質問を聞き逃し再審課に連行されていくという最悪の結末を迎えた。

二人の行方はどうなるのか...!?

次回もお楽しみに!!!

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