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第五五話 夜明けに微睡むヴァンパイア

「これにて一件落着、かしら」

「どうだろうな……」


王城の貴賓室にある暖炉の(そば)、ふかふかの絨毯(じゅうたん)直座(じかずわ)りして、枕代わりの柔らかい太腿を提供してくれている吸血姫エルザに曖昧な言葉を返す。


諸々の騒動から暫く経ち、既に吸血公と人狼公の連名で事の顛末(てんまつ)市井(しせい)へ公布されて、厳しい季節の中でも魔族国の亜人種達は活気づいているが、火種になりそうな懸案事項は残されている。


「まだ、南東領の中核都市を落とした老将ガドラス麾下(きか)の旅団が撤収できていない。彼らは森林地帯の深くまで攻め入っていたからな」


「そう言えばリズ… 黒曜公からクラウゼに親書が届いていたそうね」

「何のことは無いさ、労せずして都市を奪還できた事に対する謝礼だ」


実際は “玉座に座る気があれば推挙してやる。先ずは飛翼種のディアと中央領軍を抱え込め” と、巫山戯た一文が混じっていたものの、面倒なので考慮に値しない。


(ゆえ)に金糸の髪を垂らして、(のぞ)き込んでくる彼女の(あか)い瞳を曇りなく見返した。


「こほん、その件は良いとして…… 何やら街中で純魔族の娘を拾ったり、双子魔女と一夜を共にしたりとか、迎えに来たリエラから聞かされたけど?」


「……不本意ながら、事実ではある」

「うぅ、私の色仕掛けには乗らないのに… えいッ」


唐突に頭を持ち上げられ、太腿の上から放り出されるのかと思いきや、人外の綺麗さを持つ吸血姫の顔が降ってくる。


「てッ、そっちか!?」

「んっ……」


問答無用で唇を奪われた挙句、甘噛みされて滲んだ血液を舐め取られてしまう。


体勢的な不利もあり、“あぁ、膝枕というのは信頼している相手以外にして貰うと危険だな” と、少しばかり間の抜けた考えが脳裏を過った。


「ふふっ、ご馳走様♪」

「そりゃ、どうも……」


再度、頭の位置を戻されて撫でられつつも、胡乱(うろん)な視線を送ると照れた表情で彼女が(うそぶ)く。


「単なる嫉妬の(たぐい)。“緋眼の騎士候” は若い街娘に人気の英雄様だから」

「言ってくれるなよ、それも布石だ」


中央領と首都イグニッツはベルクス駐留軍が去った事により、権力の空白地帯となっている。


この状況を作り出して早期に入城した吸血公エルザと人狼公ヴォルフラムは優位な立場にあるが、自領の復旧で手一杯な黒曜公リズヴェルは()(かく)、青銅公アイオライトは横槍を入れてくる可能性が高い。


そんな状況下で少しでも地の利を得るべく、酒場や街角の吟遊詩人に金を握らせて首都奪還に()ける吸血飛兵隊の勇士を語らせていたら、いつの間にか謀略に長けた “緋眼の騎士候” などと祭り上げられていた。


「英雄譚は結構だけど、まさかリエラと恋仲にされているなんて……」

「劇場の演目にもなるとかで、本人は抱腹絶倒(ほうふくぜっとう)していたぞ」


因みに情報を持ってきたリアナは憤懣(ふんまん)やるかたない様子ではあれども、開演されたらレミリと一緒に見に行くようだ。


うちの大隊に属する連中は(おおむ)ね観劇予定との事で、話を合わせるため劇場に(おもむ)くのも一興かと眼前の吸血姫を誘う。


「嬉しいけど微妙かも、私の演者(吸血公役)は出るの?」

「さてな、それより……」


冬の間、漁夫の利を狙う第三国の宣戦布告は無いとして、暖かくなれば近隣の小国なども含めて蠢動(しゅんどう)を始める事は避けられない。


東部諸国の中では比較的に戦力を保有していたベルクス王国と争い、見事に退(しりぞ)けてみせたので軽々(けいけい)に仕掛けてくる(やから)は少ないと思うが、油断は百害あって一利なしだ。


余裕のある内に魔族国を(まと)め上げ、隙を見せない事が肝要(かんよう)となる。


「次に()()うのは魔族の身内か」

「新しい魔王の件、四公会議で話し合うけど揉めそうね」


「勿論、玉座を取れるように動いて構わないな?」

「えぇ、それが “手を取り合える明日” に繋がるなら」


暖炉の照り返しを受けながら微笑み、共に困難な道を歩む姫君が王になる意思を示して、その代わりに意地悪そうな口調で予期せぬ言葉を(つむ)ぐ。


「全て首尾よく運んだら、北西領はお願いね」

「勘弁してくれ、レイノルドの方が適任だ」


「ん~、領内に残っているベルクスの開拓民とか、取り込もうと思っているし、爺やは頭が固いから……」


聞けば中核都市ヴェルデに捕えている王国貴族の次男坊リヴェルを(つか)いに仕立て、国境沿いの町村を奪った人間達に “現状では攻撃の意思が無い” と伝えるよう、指示を出したそうだ。


しかも、地域一帯の官吏(かんり)に彼を登用するとまで(のたま)うため、最終的な目標である人魔共存に(かな)うとしても、内部批判を受けそうな施策に溜息する。


「クラント村も対象なんだろ? リアナとレミリが怒りそうだな」

「そこはクラウゼの人望で何とかなさいな♪」


気軽に言ってくれる吸血姫を見遣(みや)り、これからも忙しい日々が続くのは必定かと諦めて瞑目した。


「まだ、先は長いな……」

「ふふっ、何処までも付き合うわ」


優しく髪を()かれながら微睡(まどろ)みに(ひた)り、暫しの安寧に身を任せる。


道半ばなれども奪った命や、流した血の量に見合うだけの平和が得られる事を願い、ゆっくりと思考を停滞させて眠りに落ちた。


どうせ、また明日も騒がしい一日になるのだから。

読んでくれた皆様、ありがとう御座います!!

これにて終幕です。


短編ガチャや新作ガチャが流行る昨今、反応が芳しくない時点でエタるなり、打ち切るなりした方が良いとのアドバイスも頂きましたけど…… ある程度の分量を書いてしまって申し訳ありません n(>_<)n


どうにも中途半端に投げ出すのは読者軽視に思えてしまいますので、これからも仲良くしてやってくださいね。ともあれ、暫くは読専に戻ろうかと思ってますけど!!


改めて、此処まで読んでくださった方に感謝の意を示したく……

皆様の応援で筆を進ませる事ができて嬉しく思います、ありがとう御座いました!!

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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読みましたが、面白かったですよ。設定もしっかりしてたし登場人物も魅力的でしたし。ただ架空戦記は広げれば広げるほど着地が難しくなるので、ここでいったん切るのもいいかもしれません。教会はぶ…
[良い点] 終幕、お疲れ様でした! 毎話楽しみに、楽しく拝読いたしました。 [一言] しばらく読み専とのことですが、インプット果たしてより面白くなった新作、楽しみにしています!
2020/11/10 22:20 退会済み
管理
[一言] 完結お疲れ様でした 大団円よりも現実的な終わり方で好感が持てます エタらず筆を進めて下さった事へ最大限の感謝を込めて、ありがとうございます
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