70 盗賊死すべし! 慈悲は無い
出鼻をくじかれた盗賊団はいきなり壊滅状態になった。
「ヒェェェエ! 助けてくれー!」
「なあ……俺達と組まねぇか? 人数減った分取り分増えるからよォ」
勝手なものである。自分らは人が命乞いをしても楽しんで殺しているくせに、いざやられる側になると途端にこの態度だ。
「言いたい事はそれだけか! 貴様らには裁きは必要ない! レジデンス家の名において貴様らを処する!」
「さあ、覚悟あそばせ……」
「レジデンス流剣技! 縦横斬!」
「ファイヤーボール!」
レジデンス兄妹も殺る気まんまんである。それもそのはず、このゴーティ伯爵領は故意での強盗殺人は問答無用で死刑なのだ。二人の気分は処刑人モードである。
「ヒィィィ! せめて何かお宝くらい奪って帰らないとアジトのお頭に殺される!」
比較的無傷の盗賊がオトリとも知らず荷物箱に近寄った時。
「ウォォォォォ!! 盗賊め! 覚悟しろ」
「うぁぁぁわ!?」
箱の中にいた商隊の腕利きの剣士が飛び出し一瞬で盗賊の首を斬りはねた!
「罠だ……。こいつら最初からオレたちを殺すための罠を仕掛けてやがった!?」
「ふざけるな! 卑怯者がぁ!!」
言うに事欠いて卑劣な盗賊に卑怯者呼ばわりである、とりあえずコイツら全員オシオキだな。
しかし重装甲の連中が残っていた。どうやら遅い魔獣に乗っていたのでほぼ無傷である。
そして、コイツらの鎧には見覚えがあった、最初に逃亡者を追っていた男爵の私兵と同じ物だ。
「目の前の地面を水たまりにチェンジ!!」
「!? コイツが俺達の魔獣を全滅させた奴だ!」
「遅い! ルーム、サンダーボルトを頼む!」
「待ってましたわ! サンダァァ・ボルトォォーーー!!」
もう結果は当然である。重装甲の鎧は金属製、それを足元の水たまりに全身サンダーボルトで数十万ボルト相当の電撃を食らったのである。全員が即死だ。
「クソっ! クソッ!! ワシの可愛いマンティコアがやられたのもこやつらの仕業か!? どうにかこの場を逃げないと」
後ろの方にいたのはフードの男である。どうやらコイツが魔獣使いのようだ。魔獣使いは空を飛ぶ魔獣を呼び寄せ、その背に乗って逃げようとしていた。
「逃すか! ピィィィィーー!」
フロアさんが指笛を吹くと旋回を描いた数頭の大型のダイブイーグルが飛来した!
「あの魔獣を切り刻め!!」
クェェェェェエ!!
空飛ぶ魔獣といえど数頭の大型のダイブイーグルに翼を滅多打ちされてはたまったものではない。魔獣はそのまま墜落し、魔獣使いは墜落死した。
「無理だ、逃げろ! 逃げろぉ!!」
「あーら、どこへ行くのかしらぁ?」
商隊のリーダーの服装のマイルさんがニッコリ笑うと指を鳴らした。
「逃がさないよっ! 茨の呪縛!」
地面から生えた茨は逃げようとした盗賊の足元に絡みつくと全身に蔓を這わせて数人の盗賊を絡め取った。
「ルームちゃん、後は任せたわよ」
「承知致しましたわ! 私の大魔法を食らいなさい! ファイヤー・ウォーーール!!」
押し寄せる炎の壁が絡め取られて動けない盗賊を包み込んでいく。これはもう地獄絵図と言えよう。
ほんの30分も経たずに盗賊団は壊滅した。比較的無傷なのはもう数名しか残っていないがそれでも全員戦意は喪失している。
「ユカ様! 盗賊は皆殺しではないのですね!?」
「ああホーム、数名は残さないと。コイツらの巣を潰す為に案内してもらう」
「ふざけんな! お前らヘクタール男爵を敵に回したんだぞ! 生きてられると思うな!」
盗賊はやはり短絡的なバカである。イキがって自ら男爵が黒幕だとバラしてくれた。
「やはり黒幕はヘクタール男爵だったのか。『ゴーティ・レジデンス伯爵』の名において息子の僕がお前を処罰する!」
「レジデンス伯爵!? お前ら……いや貴方様は伯爵様のご身内なのですか、どうかお助け下さい! 私達は嫌々男爵の命令に従っただけなんで……!」
ザシュッ!
命乞いをする盗賊の最後の言葉を言わせる前にホームの剣が一人の盗賊の首をはねた。




