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古竜なら素手で倒せますけど、これって常識じゃないんですか?

 事件を無事解決したフィル一行、一抹の寂しさを抱きながら、お祝いのパーティーの準備を始める。


 悪魔との死闘で体力を使ったフィルを労うための小宴、彼女を慰撫するための集まり。


 寮専属のメイドさんのシャロンは忙しなく準備を始めたが、ここでうっかり属性を発揮させる。間違えてフィルのコップにアルコールを注いでしまったのだ。


 フィルは変な味、とそのままコップ一杯分のワインを飲み干してしまった。


 フィルの顔が真っ赤になったのでセリカはすぐに異変に気がつくと慌てて水を飲ませるが、手遅れだった。


 古竜を素手で倒す女の子は目を座らせると「…ひっく」と漏らした。そして流派ザンドルフに酔拳の秘技があること証明するかのように食堂の物を破壊するが、すぐにセリカがそれを制止する。


「《睡眠》!!」


 スリープの魔法を唱えたセリカは一発でフィルを眠らせる。 

 セリカは汗を拭いながら吐息を漏らす。


「…普段ならばフィル様ほどの賢者は眠らせることなどできませんが、お酒のおかげで助かりました」


 そのお酒のおかげでこのような目にあったのだが、それは無視するとそのままみんなでフィルを抱えて彼女の部屋へ連れて行った。

 

 先ほど怪獣のように暴れていた娘とは思えないほど可愛らしい姿で眠る少女をベッドに載せる。


「…すぴーすぴー」


 と寝息を立てる少女をしばし見つめるとセリカたちはそのまま部屋を出た。

 がぢゃり、とドアを閉めるとフィルは夢の中の住人となる。



 ………………

 …………

 ……



「……ん?」


 と起きると身体に異変を感じる。正確にいえば見慣れぬ衣服に戸惑う。


「あれ? これは前、舞踏会で着たドレスってやつに似てるの」


 ドレスの裾の端を持ってパンツを確認するとこれまたパーティー仕様の複雑なやつだった。


「むむう……」


 と思っているとフィルと同じようなドレスを着たセリカがやってくる。


「フィル様、なにをやっているのですか? はしたない」


「セリカだ。ちょうどいいの。あのね、起きたらドレスを着せられていたの。それに白百合寮でもなくなっているの」


 キョロキョロ、と周囲を見つめる。


 見ればセリカの実家よりも豪華で広い空間にいた。執事服やメイド服を着た人がいっぱいいる。


 セリカは溜め息とともに言う。


「当たり前ではないですか。フィル様はこのセレスティアの女王なのです。女王は王宮にいるもの」


 どうやらここは王宮のようだ。

 フィルは素っ頓狂な声を上げる。


「ふぇ? ボクが女王なの!?」


「先日、国王陛下から譲位されたことを忘れましたか?」


「忘れた。というか知らない」


「またそのようなことを言って。ならばわたくしを大臣に任命したのもお忘れですか?」 


「まじ!? 超急展開なの」


「左様です。取りあえずフィル様は女王なのですから、礼儀正しくしてください」


「わかった」


「じい……」


 ジト目で見つめてくるセリカ。


「わ、分かりました」


 と言うとセリカはにっこり微笑むが、フィルはすぐにここが夢であると気がつく。


 お腹が減らないことに気がついたからだ。昨日からなにも食べていないはずなのにフィルの食欲は一向に刺激されない。これは変だった。


 空腹で夢だと気がつくのはフィルらしかったが、気がついたからといってなにかができるわけでもなかった。

 

「うーん……」


 と悩むが、ここは夢、手順も合理性もない世界だった。

 すぐに場面が切り替わると、城が燃え上がっていた。

 見れば城の上空には一匹の竜がいた。

 いやただの竜ではない。

 巨大で凶悪な古竜が舌を出し待ち構えていた。

 フィルは『いつもの』対応をする。あくびをしながら古竜を視界から外したのだ。


 フィルにとって古竜など大きなトカゲと大差ない。慌てる必要などなにもなかったが、そうもいっていられない展開となる。


「きゃあ!!」


 と絹を裂くような声が聞こえたのだ。

 そこにいたのは竜の掌によってがしりと掴まれたセリカだった。

 彼女は竜に捕まり、今にも食べられてしまいそうだった。


「あーれー、お助けをー」


 などという三文芝居がかった台詞を漏らすが、たしかに彼女は危機的だった。ドラゴンの鋭いかぎ爪によってドレスが破けている。このままではお嫁のもらい手がなくなるかもしれない。そう思ったフィルは身体に魔力をまとわせる。


「ここは夢の世界。でもどこだろうとセリカを傷つけるものは許さない!!」


 フィルはそう叫ぶと拳に魔力を集中させ、それを振り下ろす。

 ぶおんという音を出し、空気を切り裂く。

 蒼い魔力が軌跡を描き、ドラゴンのおなかにめり込む。



 ぼごぉ!



 とドラゴンのおなかはめり込み、吹き飛ぶ。


 その際、ドラゴンはセリカを手放すが、それを空中でガシリとキャッチすると、セリカは微笑んだ。


「さすがはフィル様です。女王様になっても最強ですね」


「うん、ボクは最強。セリカのためならばどこまでも強くなれる」


「有り難いことです。夢の中まで守ってくれるの最強の騎士様」


 セリカは全身で喜びを表し、フィルを抱きしめるが、しばらくフィルを抱きしめると急に真顔になる。


「ところでこれは夢ですが、夢から目覚めたら、大変なことになっているのでは?」


「ほえ?」


「だってこの前もフィル様は夢で暴れて家具を壊していたではないですか」


「……う、そういえばそうだった」


「今回もきっとなにかが壊れているかも」


「それは厭なの。またカミラ夫人に怒られるの」


「でしょうね」


「あ、そうだ。夢から目覚めなければいいの。そうすれば怒られなくてすむの」


 ぴこん、と頭の上に電球を出すフィルだが、セリカは呆れた顔をする


「そのような手法はその場しのぎです」



「うう……」


 と言うフィルを説得する。


「フィル様、起きたらわたくしも一緒に謝って差し上げますから」


「セリカ……」


 その優しげな言葉と提案に感動をすると、フィルは目覚める覚悟をする、というか、夢の世界はいくら待っても美味しいご飯を食べられないので飽き飽きしていたのだ。


なので「目覚めよ!」と念じるが、フィルは即座に夢の世界から脱出する。



 ………………

 …………

 ……



 目覚めるとそこに広がっていたのは想像以上の惨劇だった。

 フィルの部屋のいたるものが散開しており、壁も壊れていた。


「……う、想像以上に暴れてしまったかも」


 そう嘆くが、実はそうでないとすぐに気が付く。

 見れば壁の外にはフィルの部屋を破壊した存在がいた。

 それは大きな竜だった。

 古竜がそこにいたのだ。


「……あれはなんだろう?」


 問うとセリカが教えてくれた。


「フィル様! ご無事でしたか!? あれは古竜です。どうやら王弟の一派がフィル様を倒すために送った刺客のようです」


「なんですと!?」


 びっくりしてしてしまうフィル。


「次々と悪魔を返り討ちにするフィル様に業を煮やしたようです。地下迷宮に眠る最強のドラゴンを解き放ったようです」


 セリカは慌てながら杖を持つ手に力を込め、フィルの前に出る。


「ですがご安心を! もうじき大賢者アーリマン様の応援が。それと王都から騎士団の増援も」


 と言うが、フィルは全然焦っていなかった。


「あれってただのドラゴンだよね?」


「古竜です。最強の」


「そっか、じゃあ、大丈夫」


「そんな悠長な」


「悠長じゃないよ。根拠はあるの」


「根拠ですか?」


「そう、だってボクは大賢者ザンドルフの孫娘だもの。じいちゃんの一番弟子!」


 フィルはそう宣言すると疾風の速度で古竜に立ちはだかる。

 そして右手をぐるぐる回すとそれを古竜に振り下ろす。

 フィルの豪腕によって古竜は吹き飛ぶ。

 空の彼方に飛んでいく。

 キラン、と夜空の星になる古竜。その光景を見てセリカは呆れながら言った。



「……相変わらずフィル様の強さは常識知らずです」



 フィルにこりとした笑顔で返答した。



「古竜なら素手で倒せますけど、これって常識じゃないんですか?」



 元気よく言い放つ銀髪の少女はとても可愛らしかった。

 とても凜々しくもあった。

 そう、まるで未来の女王様のように気高く、力強い存在に見えた。

第一部完結です。

長い間応援くださり、ありがとうございました。

引き続き、漫画版なども応援くださると嬉しいです。


いつか第二部で皆さんとお会いできることを祈っておりますので、ブクマを残していただけると嬉しいです。

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― 新着の感想 ―
[一言] フィル様、またいつか会うの
[良い点] やっと出番が来たのに不憫な古竜さん…
[一言] スゴいやっつけな打ち切り感が… 前回ので第1部完の方がよかったのでは…
感想一覧
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