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勝手にからあげにレモンを掛ける

白百合寮に向かうと、玄関先で掃き掃除をしていたメイドさんがびっくりする。


「フィ、フィルさんがふたりいる!!」


 驚くメイドの少女はシャロン。

 ひょこっと三人目の本家フィルが顔を出すとさらに驚いた。


「ひ、ひえ、もう一匹増えた」


 シャロンは腰を抜かすが、それは白百合寮の番犬キバガミも同じだった。


 フィルの帰還を察知したキバガミは、はあはあと鼻を鳴らしながらやってくると、戸惑った。主が三人もいたからである。


「こ、これは面妖な――」


 と匂いを嗅ぐが、三人とも同じ匂いだった。皆、フィルと同じシャンプーの匂いがし、中華丼の匂いがする。


 そのように混乱する少女と犬を見て、フィルは面白がる。


「キバガミですら見分けが付かないの。くすくす」


「キバガミさんに見分けが付かないのならわたしに見分けが付くわけがありません。フィルさん、セリカさん、見分け方を。いえ、その前に事情をお話しください」


 セリカがかくかくしかじかと話すと、シャロンは「ふむふむ」とうなずく。


「なるほど、そういう事情が。ならば今日から買い付ける食料の量を増やさないといけませんね」


「それは助かります。ダーク・フィル様も、ホワイト・フィル様も、同じくらい食べられるでしょうから」


 ダーク・フィルは首肯する。


「げへへ、その通りだぜ。あ、カツ丼にはグリンピースは乗せるなよ」


「今日の夕食は鶏の唐揚げですわ」


 シャロンは言う。


「そうか、あたしがみんなの分のレモンを掛けてやる」


 それを聞いたホワイト・フィルは激高する。


「ダーク・フィル! あなたは本当に悪い子ですね。人の分までレモンを掛けてはいけません」


「備え付けてあるもんを掛けてなにが悪い。残すやつのほうが邪悪だろう」


「個人の嗜好があるのです」


「じゃあ、お前の分にはたっぷり掛けてやるよ」


 と言うとふたりは「むむー!」と顔をつきあわせて対立する。善い子と悪い子は相容れぬものらしい。


 すかさずフィルは止めに入る。


「やめなよ、ふたりとも。唐揚げは人を幸せにする食べもの。喧嘩しちゃだめだよ」


「うっへー! 唐揚げにマヨネーズを付けて食べる本家にいわれたくねー!」


「そうですわ。マヨネーズどころか稀にケチャップも付けるでしょう」


「それは最近のマイブームだよ」


「マイブームも糞もねーんだよ、唐揚げにはレモンって法律で決まっているんだ!」


「え? そうなの?」


 セリカのほうを見るが、そんな法律はないという。


「あんな唐揚げに唐辛子を掛けるような令嬢の言うことを信じるな。舌がいかれてるぞ」


「セリカの辛いもの好きはちょっとね」


 ホワイトも同意する。


 ちなみにセリカは唐揚げにたっぷりの七味か、生唐辛子をすりおろしたものを付ける。見ているほうが汗を掻くほどの辛党なのである。


 このようにああではない、こうではない、と唐揚げ談義に花が咲くが、結論が出るわけもなく、四人は寮の中に入っていった。


 箒を持ったままそれをきょとんと見送るシャロン。キバガミも余りのできごとにびっくりしたままだ。


 しばらく沈黙が続くが、キバガミが総括する。


「この世界が主のような人間ばかりになれば、平和になると昔言った覚えがあるが、取り消そう。主のような人間があとひとり増えたら、この世界は黙示録のようになるかもしれない」


 その感想を聞いたシャロンは、

「そうですね」

 と首肯した。ちなみにあまりのことにキバガミがしゃべっていることにも気が付かないほどだった。キバガミはフィルたち以外の前では「犬」の振りをしているのである。



 フィルたちは白百合寮に上がる。当然、寮生たちの注目を浴びるが、気にしない。目立つのはいつものことだった。


 問題なのは部屋をどうするべきか、だった。


 白百合寮は基本、ふたり部屋なのである。今回は寮長にお願いし、もう一部屋借りることができたが、部屋割りで揉める。


 三人が三人とも、

「セリカの部屋がいい!」

 と言ってきたのである。


 当たり前であるが、セリカはひとりしかおらず身体を三等分することは不可能である。


 まさかセリカも分裂させるわけにはいかないので、ここはジャンケンで勝負を決める。


 三人は恨みっこなしだからね、と言うとそれぞれに策を練る。



 ダーク・フィルはチュウニのようなポーズを取ると、黒いオーラをまとう。

 ホワイト・フィルは神聖な光を受け取ると、それを拳に込める。

 フィルはなにも考えずにぽんと出す。



 三者三様であるが、皆がグーを出す。あいこだ。

 次に三者はチョキを出し、その次はパーを出す。

 それを延々と繰り返し、勝負は決まらない。

 きっと知能や感性が同レベルだから決着が付かないのだろう。

 そう思ったセリカは折衷案を出す。


「わたくしなどのために争わないでください。毎晩、部屋を交代すればいいのではないでしょうか?」


「それはいいアイデアかもしれませんが、その順番を決めるのにも揉めます」

「それはくじ引きで決めればいいでしょう」


 とセリカは紙で即席のくじを作る。

 三人はそれを引く順番でも揉めたので、あみだくじにするとようやく納得する。


 こうして初日はダーク・フィル、次はホワイト・フィル、最後はノーマル・フィル、という順番になった。


 三人は納得したわけではないようだが、これ以上争っても仕方ない、そう思ったのだろう。


 このようにしてセリカの相部屋は決まった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 今回の話し読んでて、遠い昔のキンドンでしていた、ショートコント『良い子・悪い子・普通の子』を思い出した。
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