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容疑者たち

 モルネット邸の中に入ると、食堂に通される。

 フィルたち以外の来客はすでにそこに集っているようだ。

 食堂に入ると、怪しげな人物が目に入る。



【アルバート 人間 男 三七歳 小説家】



 小説家を名乗る男は、フィルたちを胡散臭げに眺めると、「ふんっ」と鼻を鳴らした。


 怪しい。


 次いで目に入ったのは、



【スラック エルフ 男 ??歳 音楽家】



 だった。ありもしないエア・リュートを弾きながら話しかけてくる。


「そこの男は気にしないでいい。ああいうやつなんだ」


 ららら~と美声で話しかけてくるエルフはなかなかに美青年であった。

 この人も怪しい。


 次に話しかけてきたのは女性だった。



【ユミナ ??? 女 二七歳 占い師】



 褐色の肌が素敵な女性で、占い師なのだという。とても陽気な女性ですでにお酒を呑んでいた。


「きゃはは、只酒最高。毎年、これだけが楽しみなのよね」


 なんかこの人も怪しいぞ。



 と、思っていると、セリカの脳髄に電撃が走る。

 なにか違和感を覚えたのだ。



「毎年、四人の男女がこの地に集うのです。今年はフィル様たちも入れて七名ですが」



 それは眼帯の執事の言葉だった。


 しかし、今、ここにいるのは三人。執事は先客がすでにきていると言った、これで全員なのである。


 セリカたちを入れても六人しかいないのだ。

 すでに客が全員揃っているのに、六名しかいない。

 これは矛盾している!

 そう思ったセリカは眼帯の執事に指をさし、そのことを指摘する。

 すると眼帯の執事は、特に驚いた様子もなく、



「毎年こられているお笑い芸人のリイトン様はおたふく風邪にかかりまして。去年に引き続き、欠席です」



 と言った。

 そういえば今、王都ではおたふく風邪が流行っていることを思い出す。


 セリカは振り上げた拳を下ろすと、

「そうですか、お大事に……」

 と言った。


 四人目がこなかった理由は想像以上に普通だったが、セリカはまだ警戒を緩めない。


 やはりこの洋館は怪しさで満ちている。


 陸の孤島のような地形、眼帯の執事、そして今日、呼ばれた人々も怪しさ満点だった。


 小説家であるアルバートは著作を尋ねても教えてくれないし、音楽家であるスラックはピアノも弾けないようだ。リュート弾きだというが、商売道具のリュートも持っていなかった。


 ユミナという女性は妖艶な姿をしており、種族すら不明だった。

 皆、腹に一物抱えていそうな感じである。


(……これは絶対事件が起る)


 そう思っていると、案の定、それは起きた。

 遠くから「ずどーん」という音がする。それと同時に辺りが光る。

 どうやら近くに雷が落ちたようだ。

 それは全員が知覚したが、セリカは「はっ!」となる。


「雷のあとに岩が転がり落ちるような地響きがしませんでしたか?」


「たしかに」


 ランスロート伯爵は神妙な面持ちで同意する。


「やはり。ここに至る道はあそこだけでした。あそこが岩で塞がれるとここは陸の孤島になります――」


  セリカがそう主張すると、執事も同意する。


「その通りです。ここの食料は一週間分しかない。閉じ込められたら大変です」

 と言うと様子を見に行こうとなる。


 ここは自分が、と率先して挙手するが、フィルも付いてきたいという。


 フィルならばどのような危機にあっても対処するだろう、と思ったが、取りあえずお留守番をして頂く。


 セリカはランスロート伯爵を指名すると、彼と一緒にレインコートを着込み、現場へ向かった。



 ――現場は、先ほどとまったく同じだった。



「……拍子抜けね」


 とはさすが口にしないが、落雷が岩に当たり、道が塞がれていた、という展開を予想したセリカはちょっと残念だった。


 ランスロート伯爵はそんなセリカに苦言を漏らす。


「侯爵家の娘よ、先ほどから言いたかったのだが、推理小説の読み過ぎではないか?」


「そんなことはありません。落雷はあそこにある一本杉に着弾したようです。あと数メートルずれていればあの大岩に当たり、大岩が転がり、谷を塞いでいたことでしょう」


 というか、落雷の衝撃で大岩が少し動いているような気がします。

 と大岩の側まで向かい、軽く触れる。

 すると大岩はすうっと動く。まるでドアでも押すかのような感覚である。

 大岩はそのまま転がると、谷の底に落ちていった。


 そしてそのまま街へと続く一本道を封鎖する。街へ続くトンネルが封鎖される。


「…………」


 セリカは絶句し、涙目になりながらランスロートを見るが、彼は溜め息をこぼしながら言った。


「……図らずもお嬢ちゃんの望む展開になったな」


 呆れてはいたが、怒ってはいないようだ。


「まあ、こういうことも人生ではあるさ。気にするな、ともかく、いったん、屋敷に戻ってこのことを皆に報告しよう」


 とランスロートは建設的に言うと、セリカは落ち込みながらもそれに従った。


「……ぐすん」


 涙目になりながら帰ると、モルネット男爵の屋敷では信じられない光景が繰り広げられていた。

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