水着審査無双
フィルの弁論は大成功に終わったが、内容は稚拙だったのでそこまでの点数はもらえなかった。
弁論だけの点数は「75点」であった。
参加者の平均は70点だから多少いいくらいだろうか。
「うーん、残念」
とフィルは悔しがるが、ここまでは計算通りだった。
「フィルさんの知性には期待していない。平均点を取れれば十分」
シエラは失礼にも言う。
「ただ、その代わり次の容姿審査でがんばってもらう」
「うん、そうする」
ちなみに今現在のフィルの暫定順位は12位である。参加者30人だからまだまだ結果は分からない。
「次の容姿審査で100点を取れば暫定3位くらいにはなるはず。そのときこそが勝負」
「おお、100点すごい!」
「自信を持ってください。フィル様なら可能です。ささ、こちらで着替えましょう」
セリカはそう言うとフィルを更衣室に連れて行く。
フィルは全裸になると水着に袖を通す。ちなみにスクール水着は学校指定のものだったが、シエラがアレンジしてある。
「ところでなんで胸に大きく、「ふぃる」って書いてあるの?」
「よく分かりませんが、殿方はそれに萌えるそうです」
「ぷぷぷ、へんなの」
と言うが、フィルはまんざらでもなく、スクール水着を着る。
「それにしてもフィル様ほどスクール水着が似合う女生徒は他にいません」
「えへへ」
「はい。紺色の水着と銀色の髪のコラボレーション。胸があまりないのもデザイナーの思うつぼです」
「それって褒めてる!?」
「褒めているのです。シエラさんは気にしていましたが、わたくしはフィルさんの胸が好きです」
「ありがとう。でも、セリカみたいに大きくなりたい」
「ありがとうございます。でも、大きいのは大きいで問題が」
「どのような問題?」
「まず肩がこります」
「まじで!?」
「まじです」
「それにあまり可愛いデザインのブラがなくなります。大人用のになってしまうのです」
「なるほど」
「わたくしもフィルさんみたいにふりふりのが着たい」
セリカはどこか遠い目で見るが、すぐに現実に戻ると、フィルを更衣室から送り出す。
フィルは元気よく出るが。更衣室から出た瞬間、セリカは不穏な空気を感じる。
なにか視線のようなものを感じたのだ。
「……この感じは」
まるで殺意にも似たその感覚、セリカはすぐに暗殺者を想定した。準戦闘態勢でその視線を探ったが、視線の先にいたのは、綺麗な女の子だった。
セリカと同じくらいの年頃だろうか。学院で一度も見たことがない女生徒だ。フィルと同じくらいの背丈だが、胸は大きかった。金髪のツインテイルの少女だった。
彼女は氷のような冷たい目でフィルを見つめていた。
その視線はあまりにも酷薄だったので、セリカは思わずその間に立ち塞がり、フィルを守るが、その行為を見た金髪の少女は、にやりと笑うと言った。
「……優勝はわたしのもの」
彼女はそれだけ言い残すと立ち去っていく。
セリカはその後ろ姿を真剣に見つめるが、フィルが心配げに尋ねてくる。
「どうしたの? セリカ」
「……いえ、なんでもありません」
と言えばいいのだろうか。しかし、それにしてもあの態度、フィルに敵意を持ちすぎている。フィルは他人に恨まれるような娘ではないはずだが……。
そのように思っていると、水着審査が始まる。
フィルは、
「お、出番だ」
と言うとぱたぱたと走り出す。そのまま会場に向かう。
こうなればセリカにはもうなにもできない。あとはフィルの優勝を見守るだけであった。
(……しかし、先ほどの生徒、気になります)
いまだにもやもやするセリカは、忠実なメイドの名前を呼ぶ。
「……ルイズ」
セリカがそう言うと、ルイズと呼ばれたメイドはどこからともなく現れる。
「――は、お嬢様、何用でしょうか」
「先ほどの金髪の生徒の存在が気になります。調査願えますか」
「分かりました。早急に行います」
と言うとルイズは風のように消える。まるで忍者である。
先ほどまで金髪の生徒がいた場所を見つめると、最後にこうつぶやく。
「悪魔のように綺麗で、悪魔のような冷酷な目をしていた――、でもまさかね」
セリカはそう結ぶと、バックステージからフィルを応援することにした。
フィルが壇上に立つと、満場の拍手に包まれる。
「フィルさん、可愛い!」
「I LOVE FILL!」
「こっち向いてー!」
黄色い声援が場内を包む。ちょっとしたアイドルというか、人気舞台俳優のようである。
フィルもまんざらではなく、舞台の上を歩く。
あらゆる角度から観客に自分を見せ、評価してもらうのが水着審査のこつであった。
フィルはお尻をフリフリ歩く。ちなみにこれは高さの違う靴を履いて歩いている。そうすれば自然とお尻をフリフリ歩くことになるのだ。セリカのアイデアであるが、目下のところそれは成功していた。
「なんて可愛らしいお尻なんだ」
「桃尻フィル!」
「食べてしまいたい」
と大好評だった。
声援に応えたいフィルは、最後にくるっと宙返りをする。五回転半ひねりである。
ウルトラ難易度の技を決めると、会場の声援はさらに増し、
「100点! 100点! 100点!」
と言う声が響き渡る。
これには審査員も無視することはできず、フィルの得点が表示される。
ちなみに水着審査は5人の審査員によって行われ、その平均点が導き出される。
審査員は会場の熱気を見て、フィルの魅力に100点を出さざるを得ない。審査員長を務めるアーリマンは言う。
「ワシは胸が大きい娘が好みじゃが、大きさによって得点を左右させない。ましてやフィルは発展途上の娘、大樹の苗を見て誰が巨木にならないと笑うことができようか」
という評を漏らした。要は将来巨乳になるかもしれないから、それに期待ということだった。
女性代表として入っているフィルの担任、ミス・オクモニックは呆れたが、たしかにフィルは可愛いので100点を付ける。
残りの審査員も似たり寄ったりで、妖精のようなフィルの水着姿に高得点を連発していた。
唯一、90点を付けた審査員はフィルのスクール水着が気に入らなかったようだ。彼は白スク水派なのである。
さて、このように水着審査では無双をし、ぶっちぎりの一位を獲得した。
これでフィルは総合2位まで一気に駆け上がる。優勝圏内である。
セリカとシエラはフィルの躍進を我がことのように喜んだ。




