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買い食い禁止令

 シエラは説明をする。


「王立ミスコンは、みっつの種目をテストして、総合一位を決める大会なの」


 紙に書いた種目をフィルたちに見せる。


「まずは内面の美しさを図るコンテスト」


「お腹をかっさばいて見せるの?」


「いいね。あたしのお腹の中は真っ黒そうだ」


 けらけら笑うが、違うと続けるシエラ。


「ミスコンで見られるのは文章だね。各自、原稿スピーチを用意して、世界平和について語るの」


「おお、壮大だ」


「まあ、この辺のスピーチはあたしが用意するから、フィルさんはそれをそのまま読んで」


 セリカはそれに横やりを入れる。


「待って下さい。それは卑怯では。大会の趣旨に反します」


「でも、政治家もスピーチライター雇うでしょ」


「……それはそうですが」


「なら一緒。まあ、セリカ様の言いたいことも分かるから、あとで軽くフィルさんにヒアリングして、フィルさんっぽい原稿に仕上げるから」


「ボク、世界を平和にする方法知っているよ。みんなで相撲を取るの! 勝った人のいうこと聞くの。ボクはそうやって山のみんなと友達になったの」


「フィルさんらしいね。世界がそんなだったら、戦争はなくなるのに」


 シエラは微笑ましげにいうと次の種目を話す。


「次は恒例の水着審査。参加者の美しさを競うの」


「それは心配ないですね。フィル様は世界一かわゆいです」


「まあ、かわゆいけど、美人ではない」


「なにをいいますか。世界一の美人さんです」


「美人と言い張るには、胸がね。あまりにもちっぱい」


 セリカとシエラの視線がフィルに注がれるが、たしかにフィルの胸は平坦に近い。


「……これでも成長はしているのですが」


「まだまだ発展途上だね。でも大丈夫、この世界にはちっぱいが好きな人も多い。貧乳はステータスなのだ!」


 シエラは恒例のスクール水着を取り出し、説明をする。


「そのちっぱい信者の票を総取りすれば結構いいところまでいけると思う。あとは他の部分で伸ばす」


「他と言いますと?」


「銀髪萌え連中は勝手に取り込めるとして、ボクっこ好きもいけるはず。あとは髪型をツインテールにして、審査員を間違えてお兄ちゃんと呼ばせて、その層もかっさらう」


「……なんというあざとさ」


「あざとくて結構。政治とはそういうもの」


「まあ、でも、実は水着コンテストはそんなに心配していないんだよね。フィルさんは可愛いから、たぶん、ぶっちぎりの一位」


「それには同意です」


「唯一の心配はセリカさんの参戦だけど、今年も参加しないのでしょう」


「一生しないです」


「ならば票が割れることもないし、よゆーのよっちゃん」


「セリカも出ればいいのに」


「わたくしはちょっと」


「セリカが出れば500シルもらえる確率が高くなるの」


「だよねー」


 とシエラも同意するが、セリカは出る気が一切ないようだ。


「まあ、出ないものは仕方ない。さて、ミスコンは勝ち抜き形式なんだけど、たぶん、これで結構いいところまで総合点を延ばせるはず。ふたつ目が終った時点で優勝圏内のはず」


「となると三つ目の種目が大事ですね」


「うん」


 と首を縦に振るシエラ。


「して、その三つ目はなんなのですか」


 セリカは尋ねるが、シエラは「それがね……」と表情を曇らせる。


「実は三つ目は分からないんだ」


「どういうことなの?」


 フィルは首をかしげる。


「毎年、二つ目までは同じなんだけど、三つ目だけは毎年変わるの」


「シエラさんの情報網でも掴めないのですか」


「うん、残念ながら。実行委員のほとんども知らないらしい。実行委員長とその腹心だけしか知らされていないの」


「うーん、それは困りましたね。対策できない」


「ちなみに去年は詩作大会だった。5・7・5の文字だけで歌を作るの。なんか東方の遊びらしい」


「まあ、面白そう」


「フィルさん、なんか歌を作って」


「ボクはフィル お腹が減った 今日もまた」


「おー、5・7・5です」


 セリカは拍手をするが、シエラは首を横にする。


「ぶぶー、駄目。季語が入っていない」


「季語?」


「季節を感じさせる言葉を入れないといけないの、ハイクという歌は」


「ボクは春になるとお腹が減るよ?」


「フィルさんは一年中お腹が減ってるでしょ」


「難しいの!」


「そう、難しいのよ。まあ、今年は別の種目だろうけど、このように突然の応用力を求められるわけ」


「それは大変です。フィル様は応用力もなければ、基礎も備わっていません」


「そこなんだよね。まあ、悩んでも仕方ないから、大会直前まで探りを入れるけど、最悪、三種目目はぶっつけ本番になる」


「それは仕方ないですが、あらゆる手段に備えましょう。それに弁論大会と水着審査だけでも練習させておかないと」


 セリカとシエラは同時にうなずくと、共闘感をみなぎらせた。


 一方、フィルはオレンジジュースを飲み干すと、お腹が減ったのか、メニューを見ている。間食する気のようだ。


 それを見たシエラはメニューを取り上げると言った。


「フィルさんはスタイルはいいけど、大会まで間食禁止」


「ええ! まじで!」


「まじで。もしも大会当日までにデブっちゃったら、勝てるものも勝てない」


 フィルは助けて、とセリカを見つめるが、セリカも同意する。


「もはやここまで計画を進めたのです。わたくしもフィル様に優勝してほしくなりました。つまり、心を鬼にします。大会当日までお小遣いは預かりますので、買い食いは厳禁です」


 その言葉を聞いたフィルは涙目になると、

「ミスコンなんて出なければよかった」

 と、大声で嘆いた。

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