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モルドフ

 セリカたちの戦いが始まる。

 キバガミが前衛となってスケルトン・ウォーリアを破壊する。

 セリカがそれをサポートする。

 それが基本的な戦いだった。


 キバガミの戦士としての実力はなかなかで、叡智の騎士ローエンの次くらいに頼りになる存在だった。


 一方、侯爵令嬢のセリカも負けず劣らず。


 幼い頃から重ねてきた戦闘の鍛錬、フィルと出逢ってからの精神的肉体的成長は、セリカの実力を何倍にもしていた。


 ファイア・ボール、エアカッター、アイスランス、基本魔法が乱れ飛ぶ。

 スケルトンに弱化魔法を唱え、キバガミに強化魔法を唱える。


 持ち主のいなくなったスケルトンの武器をミツバチのように操り、残ったスケルトンに剣舞を加える。


 そのように戦っているとスケルトンたちの数は徐々に減る。


 このまますべて殲滅できそうであったが、そうは問屋が卸さない。奥から無尽蔵に増援が来る。


「……やはり一万体はいるのかしら」


 自嘲気味に漏らすとセリカは後方に意識をやる。


 このまま戦略的撤退をしたほうがいいのかと思ったのだ。地上に戻って叡智の騎士ローエンを連れてくるのが正解か、そう思ってしまったのだ。


 そうなればフィルをひとり迷宮に残すことになる……。


 そう逡巡していると、セリカの弱気を笑うかのようにダンジョンの奥から声が聞こえた。


「うりゃりゃりゃりゃー!!」


 と叫びながらやってきたのはフィルだった。彼女はどこからか見つけた丸太を振り回しながら、こちらに向かってきた。


 彼女が丸太を振り回すたびに五体ほどのスケルトンが吹き飛び、ひしゃげる。

 まさに無双。一騎当千とはこのことだ。


 どうやらもう撤退の心配はしなくていいらしい。それに霊薬の行方も気にしなくていいようだ。


 フィルは元気な声でこう言い放った。


「セリカー! 奥の間で霊薬を見つけたよー! 古文書にニキビも治るって書いてあった。良かったねー!」


 セリカは最近、鼻の頭にできたニキビに悩んでいたのだ。


 今朝も鼻をさすりながら良い薬はないかしら、と愚痴を漏らしていた。

 ……まあ、それはいいとしてあまり大声で吹聴しないでほしいが。そう思いながら、セリカもスケルトンを掃討していった。


 10分後にはすべてのスケルトンを倒し、静寂を取り戻した。


 フィルと合流すると、彼女のポシェットに入っていた霊薬の小瓶を受け取る。青い液体のそれは南洋を思い起こさせるほど綺麗だった。それに霊的な力を感じる。


「これが古代魔法文明の霊薬。反魂の術を成功させる霊薬」


 ごくり、と息を飲む。死んだおばあさまの顔が浮かんだ。


「いけない、いけない」


 と首をひねる。


 死んだ人をこの世界に引き戻すのはよくないこと。ましてや個人的な理由で使うのは言語道断であった。


 そう思ったセリカは自分のリュックサックに霊薬を仕舞おうとするがそれを許さないものがいた。


「そこのご令嬢、その霊薬をこちらに渡してくれないか」


 低音の男の声だった。やけに渋い。一瞬、ローエンを想起させたが、ローエンよりも幾分か若かった。


 その声の主がモルドフであるとすぐに分かった。


「あなたがモルドフですね」


 確かめるように質問するセリカ。モルドフはゆっくりとうなずく。


「あなたには逮捕状が出ています。なぜ、刑務所を脱走したのですか……、というのが愚問ですね」


「愚問だとも。俺はその霊薬を手に入れ、親友を復活させたいんだ」


「なるほど、名誉欲や知的探究心からではなく、個人的な理由で反魂の術を実験されていたのですね」


「ああ、とある男と共同研究していたのだが、その相棒が囚人を実験台にしてしまった。俺はそのとばっちりで懲役3000年さ。ま、身から出た錆だがね。人を見る目がなかった」


「ならばこの霊薬もまた多くの人の犠牲で作られたと知っているのでしょう。また同じ過ちを犯す気ですか」


「人間とはそんなものだ。何度も失敗する。しかし、その失敗で最後だ。その霊薬を使い、親友を復活させたら、あと5000年懲役をもらって、そのまま刑務所で朽ち果てよう。もう、二度と脱走はしない」


 男は凜とした表情で言った。おそらくであるが、彼は願いを叶えればそのまま刑務所で暮らすことも厭わないだろう。


一目で彼が悪人ではないと察したセリカ。思わず霊薬を渡したくなったが、そういうわけにもいかなかった。


 なぜならば反魂の術は禁忌だからである。反魂の術で蘇った人間が悪事を働いた。復活させた人物を食べた、という話は枚挙にいとまがない。


 せっかく、人を復活させてもその心まで復活させるのは難しいのだ。モルドフが誰を復活させたいかは知らないが、決して良い結果にはならないだろう。


 だからセリカは小瓶を握りしめると、それを隠す。

 それでモルドフは交渉の余地がないと思ったのだろう。戦闘準備を始める。


「お嬢ちゃんたちに恨みはないが、少し痛い目に遭ってもらうぞ」


 セリカの代わりに答えたのはフィルだった。


「それはこっちの台詞かも。歯の2、3本は覚悟してね」


 このようなやりとりののち、フィルとモルドフの戦闘が始まったが、意外にも戦闘は一瞬では終らなかった。


 モルドフは最強の賢者であるフィルに互することができる実力を持っていたのである。

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