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セリカとキバガミ

 大百足の化け物を倒したフィルたち一行、その後、動く鎧やシャドウ、アンダー・トレントなどを倒しまくるが、なかなか目当てのモルドフとは出遭わない。


 フィルから「本当にここにいるの?」という素朴な疑問が出る。


 それに答えるはキバガミ。


「このダンジョンには人間がいる匂いがします。定期的にキャンプをしたようなあとも。おそらく、そいつがモルドフでしょう」


「たしかにこのわたくしたちの前に入ったのはモルドフだけ。その人間がモルドフでしょう」


「なるる。じゃあ、このまま奥に行けばいるのね」


「おそらくは」


「モルドフさんはなんのためにダンジョンの奥に向かっているんだろう。さっきも聞いたけど」


「……これはフィルさんには黙っていたかったのですが」


 セリカはそう前置きすると、このダンジョンの秘密について語る。


「このダンジョンは古代魔法文明の遺跡といいましたよね」


「うん」


「その魔法文明では生命を蘇らせる実験が盛んでした。死霊魔術が盛んだったのです」


「おお、それは知っている。爺ちゃんも得意」


「大賢者ザンドルフ様は霊体(レイス)になる実験をされていましたが、古代魔法文明の王は死んだ人間を生き返らせる研究をしていたそうです」


「成功したの?」


「それは分かりませんが、王はある日、国中から若い男女をこの遺跡に集め、生きたまま彼らを生き埋めにしたそうです」


「まじで!」

「まじです」


「なんでそんなひどいことを」


「一万人の男女の怨嗟と呪詛を小瓶に封じることによって反魂の術に必要な霊薬を作り出そうとしたとか。その霊薬のひとつがまだ残っているという噂です」


「モルドフさんはそれを探しているんだね」


「おそらくは」


「ならボクたちがそれを先に見つけて、そこで待っていればモルドフさんを見つけられるんじゃない」


「エクセレントです。その通りです」


 セリカは感心すると微笑む。


「しかし、問題なのはどうやって霊薬を見つけるかです。霊薬は学院の調査隊が何度も探しているのですが、いまだに見つかりません」


「大丈夫! こんなときこそ爺ちゃんに習った魔術の出番」


 そう言うとフィルはそこら辺に落ちてる木の棒を拾ってくる。

 それに向けておまじないをする。


「棒さん、棒さん、ボクたちを霊薬の場所まで案内して」


 そう言い放つと棒から手を離す。棒は北の方向へ倒れた。

 フィルは「こっち!」と指をさす。


 まるで子供の戯れのような方法であるが、なにも頼りが無いよりはましだろう、とセリカたちはフィルの後ろに付いていく。


 道が分かれるたびにフィルの占いは続き、迷うことなく進む。


 途中、中途半端な位置に倒れるが、そのときはフィルの直感で決める。もはや棒は意味がないんじゃ?


 そう口にしようとした瞬間、キバガミがなにもない壁に向かって「わん!」と叫ぶ。


「どうしたのです、キバガミさん」


 と尋ねるとキバガミはこの壁の間から空気の流れを感じる、と言った。


 セリカは注意深く探るが、そのようなものは感じない。フィルのほうを見るが、彼女もなにも感じないようだ。


「でも、犬の感覚は人間よりも優れているの。キバガミに賭ける」


「賭けると言いましてもどうするのでしょうか。魔法の隠し扉ならば合い言葉が必要です」


「合い言葉ならばもう知ってるよ。合い言葉は『どっか~ん』」


 フィルはそう宣言すると、己の丹田に力を蓄える。両手を腰まで引き力を溜める。

 溜めに溜めた力を解放し、壁に向かって正拳突きを加える。



 どっか~ん!



 大きな音がダンジョン中に響き渡る。フィルに取って壁など、ミルフィールと変わらないのかもしれない。


 セリカは呆れて吐息を漏らしたが、その吐息もすぐに飲み込むことになる。フィルが破壊した壁の先に新しい部屋を発見したのだ。


「まさか本当に隠し部屋があるとは。すごい!」


「すごいのはこれを見つけたキバガミなの」


「たしかにそうですね。キバガミさんはすごいです」


 喉を撫でると彼は「く~ん」と喜んだ。


「さて、ここからは学院の調査隊も足を踏み入れたことのない地域です。どんな危険があるか分かりませんから、慎重に……」


 と言い終える前にフィルは勝手に歩き出し、見事に落とし穴に落ちる。


「わー!」


 と、のんきな声を出して落ちていく。


「フィル様!」


 と救いの手を差し出すが間に合わない。


「まずいですわ。離ればなれになってしまう」


 気が動転するセリカだが、キバガミは冷静な口調で言った。


「セリカのお嬢、大丈夫だ。この道の奥に階段がある。そこを降りれば合流できるはず」


「なるほど、たしかにそうかも。急ぎましょう」


 侯爵令嬢と狼は急いで階段を降りるが、階段降りた先には無数のスケルトン・ウォーリアーがいた。


 カタカタと震えながら、こちらをじっと見ている。


「……もしかして、さっき話した一万人の男女のなれの果てかしら」


「そうかもしれぬ。そうでないかもしれぬ。今は調べている時間はないが。今、オレたちにできることはこいつらを倒してフィル様と合流することだ」


 キバガミはそう言うと猛然としたタックルで一匹のスケルトンを粉砕、スケルトンの大腿骨をかみ砕いた。


 こうしてセリカとキバガミの戦いが始まる。

 フィル抜きの戦闘は久しぶりだった。

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