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運命の日 その8

 ━━━これからどうすればいいんだろう。


 ひとまず命の危機がさった宗次郎は、馬車に揺られながぼんやりと考えた。


 殺されかねなかった最悪の状況は脱したが、未だに檻の中にいて、手錠をかけられたまま。さらに大地個人は宗次郎に対して疑いを持ったままだ。


 何よりも、


 ━━━ここは千年前なのか……。


 自分の置かれた状況に活路が見出せず、宗次郎は頭を抱えたくなった。


 ━━━どうする? どうやって戻る?


 あの実験室で生まれた時空の孔に飲まれた結果、宗次郎は時間を飛び越えた。


 では、同じように時空の孔を作ってそこに飛び込めば、元の時代に戻れるか?


 おそらく答えは否だ。


 時空の孔は波動の暴走、いわば偶然の産物だ。だから同じことをしても千年後に戻れる保証はない。下手をすればもっと前の時代に行く可能性だってある。


 では千年後に戻れるように設定して時空の孔を作れるか? それも否だ。宗次郎はそこまで自身の波動をコントロールできていない。


 ━━━八方塞がりだ……!


 波動の技術が上がる手がかりになれば。そう考えて参加した実験の結果がまさかこんなことになるなんて。


「ちくしょー……」


 宗次郎は身体から力が抜けていくのを感じた。


 三塔学院に通い、八咫烏となり、十二神将になる。


 なんとなく思い描いていた人生プランが音を立てて崩れ落ちていった。


 ━━━ん? 待てよ?


 英雄、という単語に引っ掛かりを覚えた宗次郎はハッと顔を上げる。


 ここは宗次郎がいた時代より千年も前の時代。皇大地が存命であり、まだ大陸に妖が跋扈している。


 ということは、つまり、


 ━━━初代王の剣に会えるかもしれない!


 書物の中でしか出会えないはずの憧れの存在にあえるかもしれない。そう考えた宗次郎は思わず立ちあがろうとし

て、


「ゔっ!」


 天井に思い切り頭をぶつけてしまう。


 涙目になりながら頭頂部を押さえつつ、自分の感情も抑えにかかる。


 呼吸を整え、思考をクリアにする。先ほど交わした大地たちとの会話を思い出す。


 ━━━もしかして、あの大男が?


 宗次郎を気絶させたあの大男は大地からつるぎと呼ばれていた。


 もはや確定と言っていいだろう。


「マジか……」


 千年前の時代に来たのだから当然といえば当然だが、物語の英雄に会えるとは。


 自分のいた時代に帰れないとか、三塔学院に通えないとか。


 そんな危機的状況がどうでも良くなるくらい、宗次郎は自分が浮き足立つのを感じた。


「お」


 宗次郎を乗せていた馬車が止まった。


「よし、下ろせ」


「御意」


 そしてすだれから大男の手が伸びる。


 先ほどは恐怖でしかなかったが、今はこの上なく頼もしく感じる。


 ━━━きっとこの向こうには……。


 檻ごと持ち上げられながら宗次郎は期待に胸を高鳴らせる。


 ここには皇大地と初代王の剣がいる。そして大地と爺の話からして、現在進行形で妖と戦っている。


 なら、降ろされる場所は妖と戦う最前線の基地に決まっているではないか!


 きっと強い波動師たちがわんさかいるに違いない。そう期待した宗次郎は簾の向こうに運び込まれ━━━


「は?」


 またしても、宗次郎は驚きの光景を目にするのだった。




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