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「泡」

フリーでもウォーキングでもなく、あえてホラーを更新。


昨日、お風呂に入っていて、ふと思いついたもので。

 わたしの名前は佐山貴子。実家から大学に通っている、ごくごく平凡な大学二回生だ。


 実家はいいぞう~。家のママ様が、料理も作ってくれるし、洗濯もしてくれる。おまけにお布団も干してくれるんだ。


 いや~、大人になったら、親孝行しなくちゃな~。って、もう20歳か。今度、肩でも揉んであげようかな。


 っとと、最近、サークルの友だちからも、「実家自慢し過ぎ」と釘を刺されてたんだ。実家の良さは、これぐらいにしておこう。


 じゃあ、何を話そうかな……そうだ、お風呂の話をしよう。


 え? はいはい、お風呂もママさんが沸かしてくれるんでしょ、って? いや、まあ、その通りなんだけどさ。違うって。これは、実家自慢じゃないって。


 むしろ、あんまり自慢にならないことのような気がするんだけど……まあ、ちょっと聞いてみてよ。






「泡」






 その日、私は上機嫌だったの。レポートも書き終わったし、5コマの講義は休講だったし、バイトの給料日だったし。


 もう、これでもかっ! と言わんばかりに機嫌を良くして、家に帰ってきたんだ。そしたら、幼馴染のれんちゃんが遊びに来てて、私の部屋で漫画を読んでいたわけ。


 これは、もう、スマブラするしかないじゃない? 私のプリン最強伝説を、確固たるものにするしかないじゃない?


 もちろん、スマブラったね。二時間ぐらい、れんちゃんとスマブラったね。私の華麗なるプリンさばきで、れんちゃんのリンクを抹殺し続けたね。


 ……はい、嘘です。ごめんなさい。本当は、れんちゃんのリンクに爆殺されていました。私のプリンは、焼きプリンになりました。


 絶好調な日だったから、今日こそはと思ったんだけどなあ。れんちゃん打倒の道は、遠い。


「しゃばだば~♪」


 とりあえず、その日の夜は、れんちゃんにつけられた泥を落とすため、泡風呂に入ってみた。


 もらいものの入浴剤とバスソルトで、お手軽、簡単、リッチな泡風呂。このゴージャスなお風呂に入って、ぽっかぽかに温まったまま、映画なんぞを嗜んだりするんだ。


 もこもこと盛りあがったきめ細かい泡を、にぎにぎしたり、頭の上に乗っけたりする。うーん、苦い敗北にお釣りがくるような、充足感。昔は、正直侮っていたけれど、何の何の。泡風呂、いいものですよ。


「ぴっぴどぅ~♪」


 ステレオな泡風呂のイメージ通り、足を上げ下げなんかもしてみる。が、私の足、色気皆無。こんなごぼーみたいにひょろい足は、大人しく湯船に沈めておくに限る。


「あ~あ、もうちょっとお肉をつけた方がいいのかなあ」


 れんちゃんからも、「貴子はやせ過ぎ」って言われてるからなあ。スタイルの良いあやつの申すことじゃ。これは検討せねばなるまいて。


「じゃあ、明日は、マックポテトでもつまんでみーようっと」


 ふーっと大きなため息を吐いて、私は湯船に沈もうとして……。


「……あれ?」


 ちらっと、何か見えた。ため息で泡が動いた部分。そこから、泡の下に隠れていた、入浴剤で濁ったお湯が見えた。


 その中から、こっちを見ている子どもの顔が見えた。


 お湯の中にいる、私じゃない誰かが見えた。


 もう、湯船は元通り、泡に覆われているけれど。その下には、まだ、子どもがいるかもしれない――――


「んなわけないって」


 バシャバシャとお湯をかき混ぜてみたけれど、やっぱり、誰もいなかった。


 はい、今日もお風呂あるあるネタ、いただきました~。


 よくあるよね、こういう見間違い。

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