No.9 坪庭とビールショーケース
「その手があったのにゃ! さっそく業務用サイズの冷蔵庫を発注するのにゃ!」
「待て待て待て、早まるなカルカンよ。この茶室のどこに置くとゆうのじゃ!?」
先ほどから目の色を変えて尻尾をグルングルンと回すカルカン。
何やら良からぬ方向にスイッチが入ってしまった。
そうして再び訪れる男の集団。超速で縁側と坪庭を増設していく。
「随分と赴きのある良い坪庭じゃが、この茶室の数倍広いのはどういうことなのじゃ?」
「あ、ヨウは庭に出ちゃダメなのにゃ」
ぐぬぅ。たった数メートルも移動させないつもりなのか。
「あそこにある無駄に広い空間はなんじゃ? 枯山水でも作るのかぇ?」
「ちょうど来たのにゃ!」
ピンポーン! ピンポーン!
「お届け物です。こちらにサインをお願いします」
「ごくろうさまなのにゃ!」
「こんにちはー。猫飯亭ですニャン! 出前のお届けにあがったニャン!」
「ほれ、カルカンよ。ビールも来たぞ?」
坪庭に不釣り合いな業務用巨大ビールショーケースが設置され、12ダースの缶ビールは難なく収まった。
しかも猫飯亭のアルバイトの帰り際に追加のビール注文まで行う始末。
「カルカン、お主の美的センスは壊滅的じゃな」
「光の神になった時点で美的センスは投げ捨てられるものなのにゃ」
「それに飲酒は控えめとゆうとったのはどうしたのじゃ?」
「控えてますが何かなのにゃ?」
コヤツ……目がマジだ。
まぁ、封印を急かされないのだからよしとしよう。
この様子なら飲ませておけば当面は封印のことも忘れそうだしな。
「ご相伴に預かってもええかの?」
「勿論なのにゃ! 朝まで飲むにゃーーー! うぃっく!」
乾杯する前に飲んでいたようだが、改めて二人で乾杯した。
◇◆◇◆◇
「のぅ……茶室がビール臭いんじゃが……」
「んにゃー? ビールが茶室臭いのかにゃ? それは大変なのにゃーーー」
目の前で酔いつぶれている猫に、神の威厳はもはやない。
そもそも朝まで飲んで、昼まで飲んで、夜通し飲むという生活をひと月も続けている。妾としては願ったりの展開のはずなのに、少々この世界が可哀想にも思えてきた。
「ところでカルカンよ。妾が封印されないとどんな不都合が起こるのかぇ?」
「んーー? それは法則の男神が激おこで大変なことになるのにゃ」
「具体的には?」
「この国と狐魔族が全部消されちゃうにゃー」
カルカンは畳に全身を投げ出して突っ伏したまま、とんでもない言葉を放つ。
「どえらいことでは無いか。早めに封印せんで良いのかぇ?」
「にゃー、でも滅ぶのはこの国と狐魔族だけだから、よくよく考えたらそれでも良いかにゃーと思えて来たのにゃー……」
そう言葉を残し寝息を立て始めるカルカン。それでいいのか光の神よ。




