No.8 ダースで頼もう
よし、言質はとった。これで封印を避けつつ食べたい物が何でも食べられるぞ。
「何にゃー? そんなにニヤニヤした顔してるのは何か企んでるにゃー?」
「クロスワードを楽しんでおっただけじゃ」
最近気付いたのだが、カルカンは数字が苦手なようで頭の中を数学的なもので埋めておけば必要以上に思考を探られないようだ。不都合なことが露見しそうになったらフェルマーの最終定理でも考えることとしよう。
お茶を啜っていたカルカンが妾をじっと見つめてくる。
「ところでネットの巡回は進んでいるのにゃ?」
「まずはゲームのクリアを優先しておるから、まだまだ先は長いのぅ」
「つまりいつ終わるのにゃ?」
コヤツ……はぐらかされることに勘づいたのか?
まぁ、言質を取られるようなヘマを妾がしなければ良いだけ。
今も思考を読んでいるのか、カルカンはグルグルおめめになりながら頭を抱えて唸り出す。
「うぅ、なんか小難しい数字を並行で考えるのはやめるのにゃ」
「今考えとったのは微分積分学じゃな。このくらいのマルチタスクを熟せんことにはお嫁にもいけんわい」
「そんなマルチタスクより家事のマルチタスクが出来る嫁の方が有難いと思うのにゃ。そんなことより!」
カルカンは勢いよく畳をバシバシと肉球で叩き始めた。
「つまりこれは長丁場になるのにゃ?」
「……長丁場と言えば、そうかも知れんのぅ」
「よっし、それなら私にも考えがあるのにゃ!」
何を思い立ったのかカルカンは電話の元へといそいそとにじり寄り、受話器を取った。
「あ、もしもしにゃ? 猫飯亭かにゃ? えーと、缶ビールを12ダースと、ニンニク抜きジャンボ餃子を2つとそれから……」
コヤツ……開き直って居座る気だな?
受話器を置いたのを見計い、間違いをからかっておく。
「カルカンお主、注文が間違っておったぞぇ。缶ビールを1ダースじゃろうが、あの注文では144本も届いてしまうぞ? 全くお茶目さんじゃな。フフフ」
「んにゃ? 何も間違ってないのにゃ」
コヤツ……真顔だ。計算ができんのか?
「算数が苦手なようじゃが、144本は物凄い数じゃぞ」
「今日飲む分は144本であってるのにゃ。太らない体質になったとは言え、飲みすぎには気を付けているのにゃ」
コヤツ……真っすぐな目をしておる。
ま、この体格で飲めるわけも無し。泣きついてきたときにでも便乗して冷蔵庫を設備に追加してやろう。
カルカンがポンッと肉球に納得の槌を打った。
「その手があったのにゃ! さっそく業務用サイズの冷蔵庫を発注するのにゃ!」




