No.4 妾の名は
契約内容を読み進めていると、曖昧な部分が多いことに気付く。
「のぅ、カルカン様よ。ここに書いてあることは絶対なのじゃな?」
「何にゃ? いまさら様付けなんて気持ち悪いからやめるのにゃ。書いてあることは絶対にゃ」
───契約内容:
・封印対象は現在の地点から自らの意志で出ることは叶わない。
・封印対象は封印を受け入れるための条件として望みを一つ出すことが可能。
・封印の履行には封印対象の最終確認の同意が必要。
何度も読み返してみて思ったことは抜け道が多いということ。
まず望みを出せるが、叶えて貰えるとは書いていない。これは叶えられない要望だった場合の保険だと思うが、同意の方も望みを出しただけではしなくても良いことになる。期限もないし、望みを二つ以上出してはいけないとも書いていない。
一番厄介なこの地点から動けない項目についても、妾の意志で出られないだけだ。いかようにもできる。
思考を進めていたら肉球の手でポンポンと膝を叩かれ催促された。
「どうにゃ? 納得してくれたかにゃ?」
「ええじゃろ。契約はしてやるが、そんな簡単に妾から同意が引き出せると思わんことじゃな」
その後は言われるままに魔術具のペンを渡され、サインを書こうとして手が止まる。
「で、妾の名前は?」
「んなもん決まってないからテキトーに書くのにゃ」
「キラキラネームでも良いのか?」
「書いた名前が正式な名前として登録されるにゃ」
念のために聞いて良かった。これはしっかり考えねばなるまいて。
「ヨーコ……カルカン……よし、決めたぞ。妾の名前はヨウカンなのじゃ」
名前を書くと契約書は光に包まれ、消えていった。
カルカンの方を見やると、眉間にシワを寄せ目を閉じ仰いでいる。
「なんじゃ? 不服そうじゃな?」
「名前が少し被ってるのにゃ」
どうやら勝手に少し名前を拝借したことが気に食わない様子。
「なら、ヨでも、ヨウでも好きに呼ぶが良いのじゃ」
「分かったのにゃ。Hey、ヨウ! よろしくにゃ!」
「ヘイを勝手につけるのはやめい。なんかアホっぽくなっとるのじゃ」
あだ名をヨウにされたが、ヘイヨウと呼ばれるのだけは阻止した。
カルカンが耳と尻尾をピンと伸ばす。
「さっそく望みを言うのにゃ。1つだけ叶えてやるのにゃ」
「まずはお茶が飲みたいのぅ」
「にゃ? お茶なんかで大事な望みを1つ使って良いのかにゃ?」
首を傾げたカルカンへ満面の笑みで妾は応じる。




