No.19 エレガントな楽器は入らない
「そろそろ季節の変わり目にゃー。封印日和だと思わないかにゃ?」
アホのカルカンが何やら提案して来ているが、ジト目でちらりと一瞥して無視。
季節の変わり目に何か挑戦してみたい気持ちはある。
「妾は音楽をやってみたいのじゃ」
「カラオケかにゃ?」
「歌も良いが、楽器に挑戦してみたいのじゃ。何か妾にお勧めのエレガントな楽器はあるかぇ?」
カルカンが酒瓶を片手に逃げようとしたので、酒瓶を奪い取り人質にする。
「さぁ、すぐに用意するのじゃ!」
「にゃーーー……」
妾は両の拳を突き上げ、力強くガッツポーズ。
カルカンは力なく項垂れながら片手でガッツポーズ。
何やら温度差があるが気にしない。このリビドーを芸術として昇華するのだ。
ピンポーン!
「お待たせしましたー。オチャノミズメイダイドオリです~。入らないのでお隣の部屋にお届けしますね」
頼んだのは妾なのに、なぜかラザの部屋へ運ばれてしまう。
慌てて仕切られている襖を全開にした。
「カルカン、お主バカではないか? 部屋に置けんわい。それとも妾が移動しても良いのかぇ?」
「だからダメだと言ってるのにゃーー! エレガントな楽器なのにゃ。間違いないのにゃ。No.1にゃ!」
ラザの隣に鎮座するグランドピアノ。
二畳間に入るわけが無い。
「とにかくチェンジなのじゃ」
「そんなデリヘルみたく扱わないで欲しいのにゃ」
「横に大きいのはダメなのじゃ。ほれ、何か用意をせい」
ピンポーン!
と、言う訳でオチャノミズメイダイドオリのスタッフが再訪したが、やはり入らないと言う。
「なんじゃカルカン。お主、寸法も正しく伝えられんのかぇ?」
「失敬にゃ! ちゃんと横は入るエレガントな楽器にしたのにゃ!」
急遽、ラザの部屋の改造工事が始まった。
そもそも工事が必要になる楽器な時点で嫌な予感しかしない。
暫く工事の音がけたたましく鳴り響き、大人数がゾロゾロと引き上げていく雰囲気が襖越しに伝わる。じゃが、それを無視して妾はゲームのレベル上げに勤しんでいた。
襖の向こうで何やらカルカンが騒いでいる。
「ヨウ、ヨウ! 工事は終わったのにゃ。ゲームはポーズしてこっちをみるにゃー!」
「なんじゃ? 時限アイテムでエンカ率を上げたばかりじゃから今は忙しいのじゃが……」
スルーすると面倒臭いことになりそうなので重い腰を上げて襖を開ける。
数秒は眺め、襖をそっと閉じる。
「……さ、さーて、レベル上げを再開するかのぅ」
「パイプオルガンはエレガントで良い音がするにゃ、早く弾かないのかにゃ?」
「もっと普通の楽器が良いのじゃ! たわけ!」




