No.18 全人類の夢
「カルカンよ。これは水かぇ?」
「愛媛県民の水にゃ」
その異世界の日本とやらに出向いて、愛媛県民と呼ばれる民族に土下座をしてこいと言いたい気分だ。
そう思っていたらカルカンがコップで受け止め、並々と注がれたそれを突き出す。
「ヨウも飲むにゃ」
受け取って一口頂いてみる。
「……めちゃくちゃ旨いのぅ、愛媛県民の水」
「ドヤなのにゃー」
「いや、美味しさは分かる。分かるのじゃが、普通の水も必要なのじゃ。他の蛇口で水は出るかぇ?」
カルカンが少し体を引いて「え? 何言ってるのコイツ?」とでも言わんばかりの意外そうな顔を見せている。
「いやいや、カルカンよ。お茶はどうやって入れるのじゃ? ビールやオレンジジュースでは無理じゃろ?」
「ビールがあるからそれを飲めばいいにゃ」
このアホの子は、ここが茶室だと言う事を忘れているのでは無いか?
それにこの反応だと他の色の蛇口も絶対に碌な物ではない。
「ほれ、業者を呼び戻してクーリングオフじゃ」
「あ、それは出来ないのにゃ。クーリングオフ無しの特急プランに同意したのにゃ」
何やら違法な雰囲気。これ以上このアホ猫にこの茶室の管理を任せられん。
「お主、蛇口からビールが出れば飲み放題とでも考えたのじゃろうが……妾の望み次第でいかようにでも変えられることを忘れたのかぇ?」
「ご、ごごご、ごめんなさいなのにゃ。何をそんなに怒っているのか分からないけど、許して欲しいのにゃ? キャハにゃ?」
言い終わりにあざとい仕草まで足してきた。
もはやプライドすら無いらしい。
妾は肩を竦めて嘆息しつつ、残りの蛇口の確認を再開した。
「残りは赤、茶、黒か……赤は温かい水でも出るのかぇ」
バシャバシャボトトバシャボト……!
複雑なスパイスの織りなすハーモニー。圧倒的な香りは食欲を刺激する。
「おいカルカン」
「だって、カレーは飲み物と言うのにゃー。だから蛇口から出てきたら便利だと思ったんだにゃー」
「ギルティじゃ」
具材まで出てくる。一体どんな技術で誰がどこから流しているのか。
「次は茶色じゃ」
渋さを感じる濃い飴色。キャラメルのような香りも感じつつ麦が立つ。
「モルトウイスキーかぇ?」
「おおーーー、正解なのにゃ! ヨウも飲むにゃ?」
妾は額に手を当て溜息をついた。
もう最後の黒はひねらなくても分かる。
「そっちの黒は黒ビールのスタウトかポーターか、それともボックかぇ?」
「んにゃ? 最後は全人類の夢を叶えたし、茶室にも合ってるにゃー」
「まさかカルーアでも出てくるのかぇ?」
ジャバジャバババシュワワ~~~!
「これは……コーラかぇ?」
「コーラなのにゃ。全人類が望んでいるし、お子様でも飲めるのにゃ」
妾は無言でカルカンの額にチョップをかました。




