No.17 水道管の水とは?
「カルカン……カルカン! 大変なことになっておるから早くこっちきてたもれ!」
妾が全力でカルカンを呼ぶと、部屋の片隅に光が集まって猫の姿を形どる。
「んにゃ? 封印される気になったのにゃ?」
「それどころでは無いわ! この惨状が見えんのかぇ? 妾の下半身はびしょ濡れじゃぞ?」
水道管が破裂し、畳は全部水没。
ゲーム機各種はロフトにかろうじて逃がしたが、水が引いていかない。
「あー、これはさっさと業者さん呼んで修理して貰うしか無いにゃー」
「ついでに畳の業者にも入れ替えを頼んでおくれ!」
「油染みで入れ替えたばかりなのにゃ。もう暫く我慢出来ないのにゃ?」
互いに腕を組んで眼力だけで譲らない姿勢。
どうせカルカンは便乗して何か酒関連の要求を呑ませようという魂胆。
まともに取り合う義理もない。
ピンポーン!
「お待たせしましたー。アクアレスキュー★あ、漏れてるよお母さん、ビショビショ! です~」
何とも微妙な業者名。名付けたやつの顔がみてみたい。
カルカンが手続きを済ませ、業者は迅速な仕事を開始、あっという間に作業を終わらせて帰途についた。
「カップ麺程度の時間で仕事が終わったようじゃが、本当に直っておるのかぇ?」
「オーダー通りの完璧な仕事をしてくれたのにゃ。蛇口も増設されたにゃー」
カルカンの視線の先を追ってみると確かに大量に増設されている。
「たかだか二畳間に5つも必要なのかぇ?」
「ひねると分かるのにゃー」
尻尾を立てた誇らしげな顔に一抹の不安を覚えつつ、試しに一つひねる。
ジャバジャバババーシュワシュワ~!
蛇口から大量に水と泡が出てくる。
色はまるで金、泡は純白。麦とホップの香りが漂う。
「……のぅ、カルカンよ。妾はこの香り、最近とてもよく覚えがあるのじゃが」
「その香りはハラタウとザーツなのにゃ。あとモルトは……」
「まてまてーーーい!!」
水道の蛇口をひねるとビールが出てきた。
残りの蛇口も嫌な予感しかしない。
「お主、やりおったな? で、普通の水は出るのじゃろうな?」
「んにゃ? そのオレンジ色のシールが貼ってあるのが水にゃ」
「してこのビールは?」
「ビールは私にとって水みたいなものにゃ」
かつてここまで残念な神様がいただろうか。
気を取り直してオレンジのシールがある蛇口をひねってみる。
とても瑞々しい柑橘系の香りが華やいだ。液体は鮮やかな橙色。
「カルカンよ。これは水かぇ?」
「愛媛県民の水にゃ」




