No.15 イタズラでもモンクレでもない
なるほど。妾が望まない限り、カルカンと言えど勝手に店を増やせないようだ。
交渉は成立し、妾とカルカンは力強く握手した。
翌日には妾が望んだ店に電話注文ができ、互いにホクホクである。
「えー、それから広島の純米大吟醸と、長野の純米大吟醸と……」
異世界にある日本という国にまで注文が可能になるとは思わなんだ。
カルカンは値段の高い方から全部頼む勢いで注文を続けている。
──チン。
「ようやっと電話が終わったか。次は妾ぞ」
妾が願ったことで日本の店も充実しているし、どういう理屈かは分からんがここまで届けてくれる。
新たに出前屋敷、スーパーイーツ、金のさらがラインナップに加わった。
「ラザよ。今から甘い物を注文するぞ。何が食べたいのじゃ?」
『う~、あんこ~』
「餡子だけでは分からんのぅ。他に何かあるかぇ?」
『ドーナツたべたいござる~!』
ふむふむ。あんドーナツで探して見るか。
まるで昭和にあった、鈍器になりそうなシティページを開いて探していく。
「いまどき紙媒体は珍しいのぅ。しかも字が小さくて読みづらい……ん? あったあった」
ドーナツ専門店の欄に「揚げたて0分お届け」という広告文句を見つけた。
詳細にも「揚がったら必ず1分以内にお届けします。出来なかったら無料にします」とは、剛毅な店があったものだ。
「えーと、あんドーナツを80個、それからオールドファッションとサーターアンダギーを……え? 違うのじゃ。イタズラではない。それにお母さんは禁忌を犯して捕まっておるのじゃ」
ラザが所望する数を伝えたら子供のイタズラだと判断されたようだ。
どうにか説明と注文を終えて受話器を置く。
「ふぅ、理解して貰えて良かったが、説明はしんどかったのじゃ。これで味がダメだったり、揚げたてじゃなかったりしたら文句をゆうてやる」
「裁判沙汰は困るにゃー」
「そこまでするとはゆうておらん。せいぜいカスハラをするだけじゃ!」
「それが裁判になる時代なのにゃー」
モンクレ、カスハラは絶対ダメだと言い、カルカンが仁王立ちをしている。
同じ意味では無いのだろうかとも思ったが、剣幕に押されて小さく頷いた。
そんなやり取りをしていたらインターホンが鳴る。
「お待たせしましたー! ダソキソドーナツでございます」
「お、来たのぅ」
揚げたてのドーナツが届いたからにはさぞかし芳しい香りかと思いきや、微塵も感じられない。怪訝に思いつつも店員を問い質して見る。
「揚げたてと書かれておったが? あ、いやいや、これはモンクレでは無くて、その確認みたいなものじゃ」
「あ、大丈夫ですよお客様。これからですんで」




