No.14 被写体は置物
それは困る。畳は土足厳禁とさせて頂きたい。
厳正な話し合いの結果、隣室を与えてそちらに住まわせることとなった。
カルカンはやりきったと言わんばかりの両腕上げガッツポーズをして騒ぐ。
「さぁ、ペットを用意したのにゃ! 封印を受け容れるにゃー」
「封印か、禁酒解除か、どちらが良いかのぅ?」
「酒にゃ!」
アホの子で良かった。これでまた暫くは誤魔化せるだろう。
それから数日はゲームをして食っちゃ寝の自堕落生活が続く。
しかし、納得がいかないことも多い。
「ほれ、ラザさんや。こっちを見ておくれ。せめて顔だけでも」
新しく隣の部屋を用意して住むことになった大地の神ラザ。
丸一日観察をしてもピクリとも動かない。幾ら話しかけても見てもくれない。
酒の追加注文を終えて受話器を置いたカルカンが、憐れむような顔を見せる。
「無理にゃー。ラザ様を思い通りに動かせたのは先代だけなのにゃ」
「そこをなんとか。せめてカメラ目線の写真を撮りたいのじゃ」
カルカンに頼んで最高級の一眼レフカメラを用意させたのに背中しか撮っておらず、このままでは宝の持ち腐れになってしまう。
「のぅ、のぅ、チラッとだけでも見てたもれ」
妾が話しかける間にも、カルカンがスタスタと隣の部屋へ入っていき、楽しそうに会話をしたのちに餌を与えている。
「のぅ、こっちに向けるサービスは無いのかぇ?」
「ヘタにラザ様が動くと大地震が起こるからダメなのにゃ。見るならこっち側からにするにゃー」
「そちらにいっても良いのか?」
「ダメに決まってるのにゃ!」
理不尽すぎる。百枚目の記念撮影もラザの背中のショットとなった。
いそいそとネットにアップしながら嘆息しているとカルカンが戻ってきた。
「これは間違い探しか何かにゃ?」
「全部別の写真じゃ、たわけ。じゃがラザがあまりにも動かんくて……これでは熊の置物なのじゃ。いいねの数もドンドン減ってきているのじゃーーー!」
妾は涙目になってカルカンの肩を掴み、強く揺する。
嫌そうな表情を見せたカルカンが無言で訴えてくる。
「なんじゃ? 言いたいことがあるのならゆうてみぃ」
「こちらに向ける方法が無くも無いにゃー。但し、教えるには条件があるにゃー」
どうせ酒関連だとは思うが、居住まいを正して条件に耳を傾けた。
「ラザ様を動かすには甘い物しか無いのにゃー。それでお願いなのは、ヨウの望みに日本酒のデリバリーがあるお店を挙げて欲しいにゃー」
なるほど。妾が望まない限り、カルカンと言えど勝手に店を増やせないようだ。




