No.12 ラブリーは本気
「よし、まずはゲーム三昧じゃな!」
妾が気合いとゲーム機の電源を入れたとき、カルカンの様子が急変した。
「うっぷ、気持ち悪いにゃー、オエェェェ……」
「ば、バカモン! 畳の上にリバースするやつがあるか! 早く厠へゆけ!」
カルカンをさっさと部屋から追い出し、必死になって畳にへばりついた吐瀉物を拭っていく。雑巾にも酸っぱい匂いが移ってしまう。
「この匂いは慣れんのぅ」
「ふー、危なかったのにゃ。間一髪だったにゃー」
「いや、既にフライング手遅れじゃった」
ハンカチで手を拭きながら、次の酒瓶に手を伸ばした猫の腕をガシッと掴む。
「なんにゃー?」
「いやいや、お主。先ほどリバースしたばかりじゃろう? ちっとは摂生せぇ」
「チッ……」
コヤツ、舌打ちしよった。もう神として扱わんでもええじゃろう。
それから一日の酒量上限を決めてそれを守るよう脅した。大人しく従うとは思っていなかったが、「他の神にも不摂生を言いふらす」と脅したのが効いたのか、目を反らしつつもカルカンは頷いた。
「お主、どの神かに今のだらしない生活をバレたくないのでは無いか? どの神かゆうてみよ?」
「守秘義務があるから黙秘権を行使するのにゃ!」
先程から耳と尻尾がバイブレーションしているから嘘なのは明白。
「な、なんにゃ? そのニヤニヤをやめるにゃー」
「まぁええわい。ところでカルカンよ。妾はペットが飼ってみたいのじゃが、ペットショップのカタログとかは無いのかぇ?」
カルカンは数度瞬きをしたのち、首をコテリと横に倒した。
「ラブリーな猫として私がいるのにゃ」
「どの口が吠えとる? 妾も残念なペットはお断りじゃ。酒を飲まん普通のペットが欲しいのぅ」
目の前で驚愕の表情をしているカルカン。どうやらさっきのラブリー発言は本気だったようだ。
顎を突き出して見下ろすジト目で催促したら、カルカンが両手を前に出す。
「私のラブリーさが個人の趣味嗜好で受け入れられないことは分かったのにゃ。だけどヨウにペットは無理にゃー。ドウドウ、落ち着くのにゃ」
その後も宥めるような言葉とジェスチャーが続くが、その掛け声だと暴れ馬か何かに勘違いされているのでは無いかと疑ってしまう。
しかし、無理とは随分な言い草だ。確かにここから動けないのであれば散歩が必要なペットは無理かも知れない。だけど、屋内だけで飼えるペットもたくさんいるはずだ。
肩を竦めたカルカンは、ヤレヤレという副音声が聞こえそうな首振りをする。
「そもそもこの結界の中に通常の生物が入ったら即座にマナ酔いで死ぬにゃ」
「な、なんじゃとーーー!?」




